17 ステータスオープン
17 ステータスオープン
レセプルは受付カウンターの傍らに鎮座している魔導装置のスイッチを入れる。
魔導装置は金属の管が幾重にも走り、中央にある直径1メートルほどの水晶玉を檻のように囲い込んでいる。
その装置の名前は『ステータスアナライザー』。
対象者のステータスを数値化して知ることができるというもので、ギルドには欠かせないもののひとつ。
この装置はスイッチを入れると水晶玉が鈍く光りだすのだが、なぜか無反応。
レセプルは眉のシワをよりいっそう深くして、無言で装置をガンと叩いた。
「なにも叩かなくてもいいだろ。不調なら、俺が見てやるから……」
俺は抗議したが、叩いたことにより魔導装置が起動し、水晶玉に光がともる。
レセプルは鼻でせせら笑う。
「ふふん、魔導装置の不調なんて、叩けば直るのですわ。
それに無能のあなたに魔導装置をいじられたりしたら、余計に壊れてしまうに違いありませんわ」
「そんなことないよ! ユニバスくんは魔導装置をいじるのが得意なんだよ!」
ティフォンが即座に言い返してくれたが、レセプルは聞く耳を持たない。
「そんな戯れ言よりも、さっさと装置に手を置くのですわ。
それとも無能を晒すのが怖いんですの?」
俺は黙って『ステータスアナライザー』のスキャニング部に手を置いた。
すると中央の水晶玉の底から、無数の光の粒子が浮き上がってくる。
粒子は魚の群れのように水晶玉の中を巡ったあと、人文字を作るように移動した。
それこそがまさに、俺のステータスだ。
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名前 ユニバス
職業 なし
HP 61
MP 2
ステータス
生命 61
筋力 55
持久 169
俊敏 57
器用 184
魔力 2
法力 3
魅力 1
幸運 1
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レセプルは「それみたことか」と言わんばかりにプッと吹き出す。
「生命と筋力と俊敏は一般市民なみで、とても冒険者になれる数値じゃありませんわね。
しかも魔力から下は1ケタとは、おハーブ生えますわ」
俺よりもずずいっと水晶玉に近づいて凝視していた精霊姫コンビは、この結果に納得いかないようだった。
「でも、持久と器用がすごく高いじゃない!」
「そのようですわね。でもそれだけですわね。
持久が高くても、筋力が無ければ戦士にはなれないのですわ。
そして器用さが求められる冒険者といえば盗賊などがありますけれど、盗賊になるには俊敏がまるで足りませんことよ」
「それに、魅力がたったの1というのはおかしいです! ユニバス様ほど魅力的な人間の殿方は、この世界にはおられません!」
「イズミちゃんの言うとおりだよ! この装置、壊れてるんじゃない!?」
「壊れてはおりませんことよ。
おバカさんにはわからないようですので教えて差し上げますけれど、これは人間から見た魅力を表しているのですわ。
それに、たとえ精霊から見た魅力を加味したところで、たいして変わらないのですわ。
なぜならば、ユニバスのことを魅力的だと思っているようなおバカな精霊さんは、ここにいるあなた方おふたりだけなのですから」
「そんなことないよ!」「そんなことはありません!」
ふたりの精霊姫を相手にしても、レセプルは一歩も退かない。
「あなた方のようなおバカさんたちには、数値で見せないと理解できないようですわね。
それでは特別に『知名度』を見せてさしあげましょう」
『知名度』というのは『ステータスアナライザー』に掛けられた人物が、この世界でどれほど知れ渡っているかを数値で表したものだ。
レセプルは『ステータスアナライザー』の起動スイッチの隣にあるボタンを押す。
すると、水晶玉のなかにある光の粒子はいったん散り散りになり、また文字を再構成した。
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名前 ユニバス
知名度 5698000
良い印象 62800
悪い印象 5635200
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この結果にレセプルは眉をひそめたものの、すぐに平静を取り繕って言う。
「……知名度は勇者様に迫る勢いですわね。
さすが、勇者パーティに寄生していただけのことはありますわ」
そして精霊姫コンビは、やっぱり納得いかない様子だった。
「ええっ!? なんでこんなに『悪い印象』が多いの!?」
「ユニバス様ほど見た目も印象も最良な人間の殿方なんて、この世界にはおられません!」
「イズミちゃんの言うとおりだよ! この装置、やっぱり壊れてるよ!」
「何度言わせるんですの。これは人間がユニバスに抱いている印象ですわ。
せっかくですから、比較対象として勇者様の知名度もお見せしましょう」
「えっ、他の人のも見られるの?」とティフォン。
「もちろん、ギルドに登録している人間のみですわ。
勇者パーティの方々はこのギルドにおいて、最強の冒険者とされておりますの」
「うわぁ、勇者の知名度なんて、見たいような見たくないような」
レセプルはカウンターの下に置いてある、キーボード状のパネルカタカタと操作。
しばらくして、勇者ブレイバンの知名度が水晶玉に現われた。
「ふふ、先に申し上げておきますけど、勇者様には『悪い印象』などひとつもありませんことよ。
なにせこの世界を救った偉大なるお方なのですから、嫌いになる人間などいるはずもありませんわ」
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名前 ブレイバン
知名度 6257700
良い印象 5465556
悪い印象 792144
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余裕たっぷりだったレセプルの表情から、笑みが消し飛んだ。
「えっ……えええっ!? どどっ、どしてこんなに悪い印象が増えておりますの!?
1ヶ月ほど前に拝見したときは、悪い印象などゼロだったのに……!?」
レセプルは『ステータスアナライザー』をガッと掴んで、ガクガクと揺さぶりはじめた。
「勇者様に悪い印象を持つ者など、この世にいるはずがないのですわ!
この装置、壊れているのですわ!」
「さっきまで壊れてないって言ってたくせに」
ティフォンのツッコミも耳に届いていないのか、レセプルは青い顔をして魔導装置を揺らしている。
俺は見かねて声をかけた。
「おいおい、そんなに揺らすと危ないぞ、その魔導装置は頭でっかちに作られてるみたいだから……」
しかし次の瞬間、レセプルは倒れてきた『ステータスアナライザー』の下敷きになって、「ギニャー!?」と悲鳴をあげていた。
書籍化情報の続報となります!
イラストレーター様が、あんべよしろう様に決定いたしました!
あんべよしろう様といえば、『聖剣伝説3 TRIALS of MANA』などで有名な方ですね!
私も大好きなゲームなので、イラストを描いていただけてとても嬉しいです!
そしてさっそく、キャラクターデザインの一部をお見せしたいと思います!
このあとがきの下、もしくは活動報告をご覧ください!