08 人工島の復興
08 人工島の復興
本島の広場は避難所になっていて、ティフォンはその中心にある、ゴーツアンの銅像の頭の上にスタッと乗る。
びしょ濡れの島民たちをぐるりと見渡し、びしっと指さした。
「あなたたち、ユニバスくんを酷い目に遭わせてたよね!?
なにがあってそうしたかは知らないけど、それ絶対誤解だから!
きっとユニバスくんが過去にこの島でなにかやらかして、それで怒ってたんでしょ!?
でもそれ、違うから! ホントにやらかしたのは、勇者パーティの他の人だから!
もっとちゃんとユニバスくんに謝ろう!
本番の前に、まずはわたしをユニバスくんだと思って謝ってみて! ……さんはい!」
ティフォンは今回の事情をよく知らない。
しかしコミュニケーションモンスターである彼女は、ほとんど想像だけで島民たちを謝罪にまで追い込んでいた。
俺は女神のように崇められるティフォンをよそに、広場に転がっている魔導フロートの破片を拾いあげる。
ブロック大のそれには、俺が想像していたとおりのロゴが入っていた。
『ゴーツアン』
俺は十徳ナイフのヤスリを使って、そのロゴを削り落とす。
そして、静かに語りかけた。
「……悪かったな、気付いてやれなくて。
お前たちは、この銘を彫り込まれたことに腹を立ててたんだろ?」
魔導フロートの中にいる精霊たちはきっと、いままでずっと島民たちに訴えてきたのだろう。
『私たちを作ったのは、ゴーツアンではない』と。
誰が作ったかなんて人間からすれば些細なことだが、その中にいる精霊たちには我慢できないことのようだ。
そして普通の人間は、上級精霊の声以外は聞くことができない。
足元から立ち上る、精霊たちの声なき声は、決して島民に届くことはなかった。
その不満がたまりにたまって、魔導フロートの精霊たちはある行動に出る。
「人間たちに気付いてほしくて、このあたりの魚を追い払って、島を不漁にしてたのか」
それをやったところで、人間たちに思いが伝わるはずもない。
でも精霊たちは他に手が無く、そうすることしかできなかったんだろう。
彼らには『最後の手段』もあるのだが、それに訴えるわけにはいかなかった。
最後の手段は、魔導フロートの連結を解除して、島民たちを海に沈める……。
しかし彼らは人間に役に立ちたいと思っているので、人間が溺れる姿は本当は見たくないんだ。
だからこそ俺は、彼らを刺激しないように、なるべく穏便に事を運ぼうとした。
乱入者があったおかげでその作戦はダメになってしまったが、まあ、結果オーライだ。
俺は、魔導フロートに新たな銘を彫り込む。
『ユニバス』
「これで、機嫌を直してくれるか? そして、また人間のために働いてくれるか?」
手していたふたつの魔導フロートを、そっと近づける。
すると、まるで大きな返事をするかのように、
……ガシィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
魔導フロートは、かつてないほどの強度で結びつく。
それはダイヤモンドのような輝きを放ち、本番の謝罪をしようとしていた島民たちは、すっかり心を奪われていた。
「す……すごい……!」
「あんな魔導フロート、初めて見た……!」
「あの魔導フロートを作ったのはゴーツアンなんかじゃなくて、ユニバス様だったんだ……!」
そのとき俺はすでに、魔導フロートの銘を彫り変える作業に夢中になっていた。
島民たちの本気の謝罪すらも、耳に届かないほどに。
そして気付くと広場では、大人たち全員があぐらをかいて、魔導フロートにヤスリがけをしていた。
ヤスリがけが終わったフロートは、子供たちがえっちらおっちらおと、俺のそばに運んでくる。
「はいどうぞ、ユニバス様!」
「銘だけは、ユニバス様に彫ってもらったほうが、精霊たちもよろこぶだろうって、おじいちゃんが!」
「ぼくたちがヤスリがけしたのを運ぶから、ゆにばすさまは銘を彫ってください!」
情けないことに、俺は子供相手にも緊張してしまい、「あ……ああ、ありが……」としか言えなかった。
でも島民たちが協力してくれたおかげで、魔導フロートの銘の彫り変えは陽が沈む頃には完了する。
そしてさらに強固に結びついたフロートたちは、人工島として復活した。
それだけで、周囲の海からは魚たちが、祝福するように跳びはねる。
島民たちは歓声に包まれた。
「おおっ、見ろ! 魚たちが、戻ってきてくれたぞ!」
「ああっ、俺たちはなんて、とんでもない勘違いをしていたんだ……!」
「精霊たちの気持ちにも気付かず、偽りの生みの親を崇めていただなんて……!」
「生みの親を間違えられたんじゃ、そりゃ怒るよなぁ!」
「あ……あの、ユニバス様! この島ではこれから、ユニバス様を崇めてまいります!」
「島にあるゴーツアンの像はすべて、ユニバス様のものに変えさせていただきます!」
「でも、これだけじゃ、俺たちの気持ちはおさまらねぇ!」
「そうだ! 俺たちにできることがあったら、なんでも言ってくれ!」
「えーっとねぇ、それじゃあこれから三日三晩、飲まず食わずで一睡もしないで、ユニバスくんに謝ろう!」
ティフォンは相変わらず人間に厳しい。
しかしその隣にいたイズミは、
「それでしたら、この島の名前を『ユニバス島』に変えるというのはいかがでしょうか?」
「な……なるほどぉ! それは名案だね、イズミちゃん! さっすが精女の優等生!」
「たしかに! 地図が書き換えられれば、この島だけじゃなく、世界中にユニバス様の偉業を知らしめることができます!」
「人工島の復興を終えたら、船で王都に行って、島名変更の訴えをしてまいりましょう!」
……え? 俺の名前が島に? それはちょっと……。
と口を挟みたかったのだが、精霊姫コンビと島民たちは大いに盛り上がっていたので、結局言い出せなかった。