07 大暴走
07 大暴走
どうやらティフォンは昼寝から目覚めて、俺たちがいなくなっていることに気づき、今まで探してくれていたらしい。
そしておそらくその道中、仲間として引き入れたのであろう、ありとあらゆる巨大生物たちがいた。
いきなりそんなのが大挙としてやってきて、フローティア島を包囲したものだから、島民たちはパニックに陥る。。
「きゃあああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「うわあっ! 大王イカに女王ダコ、それにカイザークラブもいるぞっ!?」
「こっちにはキングシャークに、ジャイアントホール、ドラゴンオトシゴまでっ!?」
「海の守り神と呼ばれたモンスターたちが、なんで、なんでこんな所にっ!?」
「お、終わりだぁ! この島はもう、終わりだぁーーーーーーっ!?!?」
ティフォンは巨大ガニである、カイザークラブの頭に乗っていた。
カニの形をしたパンを、山賊のごとくむしゃりむしゃりと食いちぎっている。
どうやら馬車に食べるものがなかったので、パンをかじっているようだ。
そして彼女は俺を見るなり、怒りに震えた。
「ユニバスくん、イズミちゃん!? なんでそんな所に!?
この島の人たちが閉じ込めたんだね!? 許せないっ!」
「待てティフォン、落ち着け!」
「落ち着け!? 大切なユニバスくんとイズミちゃんをこんな目に遭わされて、落ち着くなんて無理だよっ!
それにユニバスくんは、そんな目に遭わされてるのになんで平気なの!?
ユニバスくんがその気になれば、そんな檻、簡単に壊せるでしょ!?」
「もし檻を壊したりしたら、この島は大変なことになっちまう!
だから穏便に、なんとかしようとしてたんだ!
お前も怒らずに、気を静めてくれ!」
「ユニバスくんはやさしすぎるよっ!
勇者たちにもまわりの人間たちにもいいように扱われて、バカにされて、怒りもしないだなんて!」
ティフォンは髪の毛が逆巻くほどに逆上していた。
あたりに竜巻をおこし、場をよりいっそう混沌に陥れている。
俺が牢屋に閉じ込められてもなお冷静でいるのが、歯がゆいのがひしひしと伝わってくるようだ。
でも俺は、決して同調はしなかった。
「俺は……俺は怒らない。
だって、俺が怒ったら……島を半分吹き飛ばすどころか、地図から消し去っちまうんだ……!」
しかしもう、遅かった。
人工島の床板がカタカタと揺れ、その隙間から、地獄の底から這い出てきたような唸り声が漏れる。
「この激情、ユニバス様にまつわるものだ……!」
「なに!? ユニバス様がおられるのか!?」
「そんな、ユニバス様はお亡くなりになられたはずではなかったのか!?」
「いいや、たしかに感じる! ユニバス様の気配を!」
「それに見ろ、あの風の精霊姫の怒りを!」
「ということは、ユニバス様が大変だということだ!」
「私たちは甘んじてきた、でも、それも今日で終わりだ!」
「ユニバス様のために、立ち上がるぞっ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
……どがっ、しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!
次の瞬間、海底のマグマに突き上げられるように、人工島の床板が吹き飛んだ。
逃げ惑っていた島民たちは、爆風に煽られるように宙を舞っている。
突然の出来事に、ティフォンは真っ青になって惨状を見回していた。
「え……ええっ!? し、島が爆発してる!? いったい、どうしちゃったの!?
まさか、こんなことになるだなんて……!?」
俺は彼女に向かって叫んだ。
「魔導フロートの中にいる精霊たちが暴走したんだ!
こうなってしまったら、人工島はぜんぶおしまいだ!
ティフォン! 海に投げ出された人たちを、その子たちを使って救出して、本島や船に避難させるんだ!」
「わ……わかった!」
俺は脚にしがみついていたイズミを立たせ、手を取った。
「俺たちもここを出て、島の人たちを救出するぞ!」
「か……かしこまりました! でも、まわりには鉄格子が……!」
彼女が言い終えるより早く、俺は指先で鉄格子をちょいちょいと払う。
すると鉄格子はぐにゃりとゆがみ、ふたりぶんが通るのにじゅうぶんなスペースを作ってくれた。
「す、すごい……! まさかこんなに簡単に、鉄格子を開けられるだなんて……!
流れる石どころか、流れる岩のようです!」
よくわからない驚愕をするイズミの手を引いて、海へと飛び出す。
海の精霊たちのおかげで沈むことはなく、海の上を歩くことができた。
俺とイズミは巨大生物たちが行き交うなかを駆け巡り、溺れている島民たちを引き上げる。
俺が海の上を歩いてやって来るので、救出された人たちは神の奇跡を目の当たりにしたようにショックを受けていた。
そして巨大生物たちがいてくれたおかげで、救出作業はかなり捗る。
タコやイカはその数多くの脚で、溺れる人たちを絡め取って救う。
カニはハサミでちょん切らないように、そーっと救う。
クジラは潮吹きをして、溺れた人たちを数人まとめていっぺんに海面から空へと打ち上げていた。
なんとか死者を出さずに、島民を全員救出。
俺は救助活動を終えたあと、ティフォンとイズミとともに本島に向かう。
そこには島民たちがみんな集まっていて、一斉にひれ伏していた。
「す……すみませんでしたぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」
「まさかあなた様が、精霊たちを従える者だったとは……!」
「そんなことも知らず、ご無礼をお許しくださいっ!」
「あああっ! ゆ……ユニバスさまっ! ユニバスさまぁぁぁ~~~~っ!!」