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02 夏の海にピッタリのメニュー

02 夏の海にピッタリのメニュー


 俺たちはひたすら海の上を走り続け、『トコナッツ』の海岸を目指す。

 しかし途中で暑さのあまりティフォンがへばってしまったので、休憩することにした。


「ティフォン、無理して御者席にいる必要はないんだぞ。涼しい馬車の中にいても……」


「そんなのやだよー! わたしはずっと、ユニバスくんの隣にいたいの!

 あっ、ちょっと待ってて!」


 ビュン! と風のように馬車に飛び込んでいくティフォン。

 ほとんど間を置かずに、肌色多めの姿となって飛び出してくる。


 早着替えも慣れてきたのか、おそるべきスピードだった。


「じゃーん、どお!? これなら暑くても平気だよ!」


 ティフォンは花柄のフリルビキニを見せつける。

 得意気に胸を反らした瞬間、量感のあるバストがゆさっと揺れた。


 するとなぜか、イズミが慌てふためく。


「てぃっ、ティフォン様っ!? ととと、殿方の前で、そのような肌も露わな格好をなさるだなんて……!?」


「えー? このくらい普通だよ! ユニバスくんも似合うって言ってくれたもん!」


「そっ、そうだったのですね……!」


 イズミはティフォンのビキニを凝視したまま固まっていた。

 しきりに「ユニバス様が……」とうわごとのように繰り返している。


 なにやら彼女の中で、大きな衝撃が渦巻いているようだった。

 自分の世界に入ってしまったイズミをよそに、ティフォンがほっそりしたヘソのお腹をさすりながら言う。


「ユニバスくん、お腹すいちゃった」


「そういえばそろそろ昼だな。じゃあここで馬車を停めて、昼飯にするか」


「えっ、停まっても平気なの?」


「ああ、水の精霊の力を得たトランスにとっては、この海の上は陸地と同じだからな」


 俺は海のど真ん中でトランスを停止させ、御者席から海めがけて飛び降りた。

 ティフォンは「あっ!?」と驚いていたが、俺は海面にスタッと着地する。


「ええっ!? なんで海の上に立ってるの!?」


「これも、トランスの中にいる水の精霊たちのおかげだ。トランスの周囲の水面は歩けるようになるんだよ」


「へぇ、すごいすごい!」


 ティフォンもさっそく御者席から降り、海の上をトコトコ歩き始める。


「おもしろーい! 海の上を歩くのって、こんなカンジなんだ!」


「離れすぎると落ちるからな」


 ティフォンは言ったそばから、薄氷を踏み割ったかのように、どぷんと海の中に沈んでいった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ティフォンはせっかくだからと海の中で泳ぎはじめる。

 その間に俺は、昼飯の準備をすることにした。


「わたくしも、清水の滝から飛び降りる覚悟で、水着を……」


 イズミはまだブツブツ言っている。

 ちなみに『清水の滝』というのは、コンコントワレにある国内最大の滝のこと。


 そんなことはさておき、このあたりの海域は、タコやイカなどの魚介類が豊富だ。

 俺は海の中にいる精霊たちに頼んで、魚を分けてもらう。


 その様子を見ていたティフォンが、馬車のまわりをグルグル泳ぎまわりながら、


「わぁ、タコさんイカさんだ! わたし、バーベキューがいい!」


 ティフォンはロークワット湖でバーベキューをやってからというもの、すっかりバーベキューが気に入ったらしい。

 ならばそのリクエストどおりに、俺は馬車の中にあったバーベキューマシンを引っ張りだしてくる。


 さっそく火を起こそうとしたのだが、火がつかない。

 おかしいな? と思いつつ、焼き網をあげて中を覗き込んでみると……。


 炭の上で座り込みをしている、火の精霊と木の精霊たちがいた。


「どうしたんだ? なにか気に入らないことでもあるのか?」


 すると、火の精霊たちがカッカと立ち上がる。


「ユニバスの旦那! こんなバーベキューマシンで、俺たちに火を起こせってのかよ!?」


「俺たちは絶対に嫌だぞ! こんなマシンで火を起こすなら、死んだほうがマシだ!」


「いくらユニバスの旦那の頼みだからって、おことわりだね!」


 こんなマシンで、って……。

 これは俺が作った『勇者バーベキューマシン』なんだが……。


 困惑していると、ふとあるものに気付く。

 バーベキューマシンの本体の横に、デカデカとしたエンボス加工で、


『ゴーツアン』


 と銘が入っていた。

 まるでメーカーロゴみたいな堂々とした佇まいで。


 彫り込んだものではなく、金属で型押しされているということは、量産されているんだろう。

 そして俺は精霊たちのストライキの理由を理解した。


 精霊たちにとっては、ゴーツアン製と偽られたマシンで力を発揮するのが、嫌でたまらないようだ。

 俺はトランスの中にいる地の精霊たちの力を借り、エンボス加工をさらに加工した。


『ユニバス』


 に変えると、バーベキューマシンの精霊たちのストライキはすぐさま終わりを告げる。


「いやっほーっ! こうじゃなくっちゃ!」


「あのへんな名前が無くなって、せいせいしたぜ!」


「よぉーし、みんな! ユニバスの旦那のために、最高のバーベキューを作ろうぜ!」


 ……じゅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!!


 ソースの焦げる香ばしい匂いとともに、イカ焼きが焼き上がる。


 そしてふと気付くと、この焼き網は一角が鉄板になっていて、ピンポン玉くらいのへこみがいくつもあった。

 どうやら、地の精霊たちがついでに改造してくれたらしい。


 俺はそのへこみに、ぶつ切りにしたタコを入れ、その上から小麦粉を溶いた生地を流し込む。


 ……じゅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!!


 すると、匂いに釣られたティフォンがシュバッとやって来る。

 海で遊んだワンパク坊主のように、濡れた髪のままで。


「うわぁ、すっごくおいしそーっ!」


 イズミもようやく石化が解け、ティフォンの隣で焼き網を覗き込んでいた。


「ユニバス様はお料理もおできになるのですね! 流れる石でございます、ユニバス様!」


「ユニバスくんはねぇ、本当になんでもできるんだよ!」


 ほわわんとした表情で頬を染め、熱っぽい瞳で俺を見つめる精霊姫コンビ。

 いままではティフォンだけだったのに、イズミが加わったことで熱量が2倍に増えたような気がする。


 俺は気恥ずかしくなって、話をそらす。


「この料理は、イカ焼きにタコ焼きっていうんだ。どっちも海にピッタリのメニューだぞ。熱いから注意して食べてくれ」


 ティフォンは言ったそばから、アツアツおでんを頬張ったかのように、「あっつぅぅぅぅーーーーーっ!?!?」と悶絶していた。

 イズミは俺の注意を守り、たこ焼きをフーフーしたあと、上品な仕草ではんぶんだけを口にする。


 そしてふたりは、雷に打たれたようにカッと目を見開き、


「「おっ……おいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!?!?」」


 ティフォンとイズミはイカ焼きとタコ焼きに大興奮。

 ハラペコの子猫みたいに「うみゃうみゃ」とガッついていたが、なぜか急に泣き出した。


「うっ……! ゆ……ユニバスくんといっしょに旅して、本当に良かった!

 だって、こんなにおいしいものが毎日食べられるんだもん!」


 口の周りをソースでベタベタにしたまま、歓喜の涙を流すティフォン。


 かたやイズミはというと、


「ううっ……! こ、こんなにおいしい食べ物が、あっただなんて……!」


 タコ焼きをパクつきながら、はらはらと落涙している。


「このような、あたたかくておいしいお食事を、ユニバス様にお召し上がりいただきたくて、花嫁修業に励んできたというのに……。

 まさか、ユニバス様から作っていただけるだなんて……!

 わたくし、世界一の果報者でございます……!」


「本当、本当に、わたしたち幸せ者だよねぇ! ユニバスくん、ありがとぉーーーーっ!」


「ありがとうございます、ユニバスさまぁーーーーっ!」


 まさか、タコ焼きイカ焼きでこんなに感謝されるとは思わなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 焼き網へこませても生地全部落ちるだぁよ
[気になる点] >これは俺が作った『勇者バーベキューマシン』なんだが……。 >精霊たちにとっては、ゴーツアン製と偽られたマシンで力を発揮するのが、嫌でたまらないようだ。 マシン自体は自分たちが大好き…
2021/02/25 00:46 平民のひろさん
[良い点] わーい、久々の飯テロ回だ(桂木は、『飯テロ』が大好きです!)♪ 精霊姫二人に感謝されるなんて、ユニバス、あなた今、めちゃくちゃ輝いてるわよ!d(^_^o)グッ [一言] もしイズミが水着を…
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