05 俺のことが好きな花嫁、俺のためにお色直し
追っ手の戦闘馬車たちを振り切り、フーリッシュ王国の城下町から脱出に成功した俺たち。
人里離れた山奥まで逃げ込んで、ようやく馬車を停めた。
俺はここまで届けてくれたトランスと、その原動力となってくれた地の精霊たちをねぎらう。
トランスはユニコーンをモチーフにして俺がデザインした魔導馬だ。
外装の手入れだけはちゃんとされていたようで、エナメルホワイトに輝いている。
地の精霊たちは大きさこそ手のひらサイズだが、老け顔で恰幅がいい。
まるで小さなドワーフのような見た目をしていて、おとぎ話に出てくるトナカイみたいに鼻が赤くて愛らしい。
ちなみにではあるが、精霊は姿形の種類が豊富で、ティフォンのような人間の女の子に近い姿をした者から、小人のような姿をした者までさまざま。
地の精霊たちはトランスの背中の上に整列して、俺との再会をとても喜んでくれた。
「久しぶりだなぁ、ユニバスの旦那!」
「死んだって聞かされてたんだが、ありゃウソだったんだな!」
「でも生きててよかった、生きてて良かったよぉ!」
とうとう男泣きまで始める精霊たちを、俺は順番に撫でてやった。
精霊は頭を撫でられるのをとても喜ぶ。
気がつくと、列のいちばん最後にはティフォンが待ち構えていて、「わくわく」と顔に書いてありそうな表情をしていた。
ティフォンは風の精霊の国『ウインウィーン』のお姫様。
精霊の国は普段は人間を寄せ付けないのだが、魔王討伐の時には例外的に入国を許可してもらい、その関係で知り合ったんだ。
風の精霊というのは美形が多く、その中でも彼女はとびっきりといっていい。
風のように流れるプラチナのロングヘア、透き通るような肌にくりくりの大きな瞳。
そして忘れちゃいけないのが、翼のように横に飛び出た長い耳。
風の精霊は人間と見分けがつかない見た目なんだけど、耳だけは大きく違うんだ。
頭を撫でてやると、ティフォンは幸せそうに目を細め、その耳をぴこぴこと上下に動かしはじめた。
「ふわぁ……。やっぱり、ユニバスくんのナデナデが一番だぁ……」
もっと撫でてと言わんばかりに、俺の手にグリグリと頭を擦り付けてくるティフォン。
俺は今更ながらに問う。
「しかし、逃げてよかったのか?」
するとティフォンは、水を差されたみたいにムゥと頬を膨らませた。
「いいに決まってるでしょ! あと少しでわたしは変なのと契るところだったんだから!
それにわたし、ユニバスくんが死んだって聞いてから、ずーっと落ち込んでだんだからね!」
「なんで?」
「なんでって、当たり前でしょう!? だって……その……」
ティフォンは急にモジモジしだして、人さし指どうしをツンツンしだした。
しばらく言葉を選んでいたようだったが、やがて消え入るような声で、
「ゆっ……ユニバスくんのことが……すすっ、好き、だから……」
「なんだ、そんなことか、俺も好きだよ」
次の瞬間、ティフォンの顔がボンと発火する。
隣で見ていた地の精霊たちが不服そうな顔をしていたので、俺はつけ加えた。
「もちろんみんなのことも同じくらい好きだよ」
地の精霊たちは「うおーっ!」と喜んでくれる。
しかしティフォンは、
「こっ、この小悪魔めぇーっ! でも、生きててくれてありがとーっ!」
とよくわからないことを叫びながら、俺の胸をポカポカ叩いていた。
俺は赤ら顔のティフォンを撫でて落ちつかせる。
「逃げたのはもうしょうがないとして、ティフォンはこれからどうするつもりなんだ?」
するとティフォンは目をぱちくりさせた。
「『ティフォンは』って……。ユニバスくんはなにかすることがあるの?」
「ああ、トランスを元通りにしてやるつもりだ。
俺が作ったときからいろいろいじられてて、酷いことになってるからな。
中の装置を修理しつつ、外の焼印を消せる場所に行かないと」
「ふぅん……。焼印ってどこで消せるの?」
「トランスの焼印はかなり強力な火の精霊によって付けられたものだから、それ相応の水の精霊の力が必要となる。
水の精霊の国『コンコントワレ』まで行く必要がありそうだな」
「コンコントワレかぁ……。じゃあ、わたしも行く!」
「えっ? キミは国に戻らないと駄目なんじゃないのか? 風の精霊王が心配して……」
「いーのいーの!
わたしたち風の精霊はいろんな所を飛んでるから、わたしが元気にしてるってすぐに伝わるよ!
だから一緒にいってもいいでしょ!? ねっ、お願い!」
「ダメって言っても、空を飛んでついてくるんだろ?」
「えへへ、わかった? じゃあオッケーってことで! きーまりっ!
あなたたちも、文句はないわよねぇ!?」
ティフォンにずいと迫られ、地の精霊たちはあとずさる。
地属性は風属性に弱いので、「は、はひぃ」と裏返った声で返事をしていた。
俺は念のため、彼女に釘を刺しておく。
「ティフォンはやさしい子だから大丈夫だと思うけど、他の精霊たちとは仲良くしてくれよ。
それが、同行の条件だ」
「わかってるって! 小人さんたち、仲良くしましょうね! それじゃ、しゅっぱーつ!」
「待て待て。その前に、その格好をなんとかしないと」
「えっ?」
「さすがにウエディングドレスじゃ目立ちすぎるだろ。なにか、別の服を……」
「あっ、それなら大丈夫! ちょっと待ってて!」
ティフォンは長いドレスの裾を翻し、馬車に向かって飛び込んでいった。
しばらくドタバタと暴れるような音がしたかと思うと、
「じゃーん! どう、これ!?」
妖精の羽根のようなマントに、リボンの付いたワンピースと胸当て、腰にはレイピアといういでたちで、ピョコンと飛び出してくる。
足元から巻き起こった風にミニスカートをふわりとさせ、元気の源のような太ももを露わにしながら。
俺が「うん、すごく似合ってるよ」と言うと、ティフォンは照れ笑い。
「えへへ……。この服、いちばん最初にユニバスくんに見てもらいたかったんだ」
次回、いよいよ『精霊たらし』のスキルが発動!
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