46 ブレイバンの実力(ざまぁ回)
勇者ブレイバンは、さっそくフーリッシュ国王から呼び出しを受けていた。
「きっ……きっさぁまぁぁぁ~~~~!
会食の場において、相手を火責め水責めにするとは、気でも狂ったかぁーーーーーーっ!?!?」
「ち、父上、聞いてください! これはすべてユニバスのせいなんです!」
「なに!? ユニバスというのは、貴様から風の精霊姫を奪った男のことであろう!?
あやつはいま、ワースワンプにいるそうではないか!
ワースワンプにいる人間が、なぜキングバイツの国王に狼藉を働けるのだ!?」
「えーっと、その、遠隔操作でバーベキューマシンを爆発させて、遠隔操作で『海割りの奇跡』の邪魔をして……」
ブレイバンはこの期に及んでもなお、ユニバスに罪を着せるという悪あがきを披露。
しかし、この国にいない人間を持ち出すのはさすがに無理があった。
「ばっかもぉぉぉぉぉーーーーーーんっ! そんなことができるわけがなかろう!
もしできるとしたら、貴様なんぞよりよっぽど有能ではないかっ!」
「そ、そんなことはありません! ユニバスはとんでもなく無能なヤツで……!」
「貴様の言い訳など、もう聞きとうない!
キングバイツは書簡で、国交断絶をほのめかしてきたのだぞ!
いままで長きにわたって同盟を結んできた、我が国と!」
「そ、そんな!? これもなにもかもユニバスが……!」
「黙れっ! キングバイツの国王は『勇者祭』が終わり次第、我が国に対して宣戦布告を行なうと言っている!
貴様には、その責任を取ってもらうぞっ!」
「えっ、責任……?」
と、ブレイバンの両脇に大柄な兵士たちが立つ。
彼らはブレイバンの腕を取ると、ひょいと持ち上げた。
「ぶっ、無礼者っ!? なっ、なにしやがるっ!? 離せっ! はなせーっ!」
「ブレイバンよ、貴様にはこれからキングバイツに行ってもらう。
キングバイツとの全面戦争を止めるためにな!」
なんとブレイバンはいま行なわれている『勇者祭』の主役であるにもかかわらず、檻の馬車に入れられてフーリッシュの王城を出発。
そのまま海を跨ぎ越え、キングバイツの王都へと移された。
王都の広場には8角形のリングが設置されており、周囲には海原のような人だかり。
ブレイバンはリングの中に、見世物の動物のように放り出された。
「なっ!? なんだここは!?
ぶっ、無礼者ぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!
俺様は勇者だぞっ!? こんなことをしてただですむと思ってるのかっ!? 戦争だっ! 戦争!」
「そう、戦争だ……!」と、背後から声がする。
振り向くと、海賊のような格好をしたキングバイツの国王が立っていた。
「勇者よ、俺と1対1の戦いをしてもらおうか!
もし貴様が勝てば、今回、貴様が俺にしたことは、海の藻屑としてやろう!
どのみち、これだけの面前で負けたら、俺は王の座を降りることになるから不問となるのだがな!
だが貴様が負けたら、全国民の前で土下座し、この俺を罠に嵌めたことを詫びるのだ!
これこそがフーリッシュの王が提案してきた、『戦争』……!
さぁ勇者よ、自慢の聖剣を抜けっ!」
「そ……そういうことかよ! ならもう、遠慮はいらねぇな!
だったらお前の首を刎ねれば、問題は一気に解決じゃねぇか!
『戦争』なら、国王をこの場で討ち取ってやりゃ、この国はフーリッシュの軍門に下ったことになるんだからな!
あのクソジジイもきっと、手のひらを返すことだろうなぁ!」
ブレイバンの態度は、正体のバレた殺人鬼のように豹変。
彼がここまで自信に満ちあふれていたのは、ひとえに腰の獲物に他ならない。
最上位の剣の精霊が宿った『聖剣』には、斬れぬものはこの世にないとされている。
その天を衝くほどの輝きを見た者は、神の降臨を信じてひれ伏すという。
「なら、久々に見せてやるとするか! この俺様の、『聖剣』をっ!」
……シュパァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
鯉口を切った瞬間、まばゆい光があふれるはずであった。
しかし満を持して鞘から引き抜かれた刀身は、ボロボロに錆び、鈍い光すらも放っていない。
「え……? ちょ!? なんでっ!?
け……剣の精霊がいなくなってる!? なんで、どうしてっ!?」
悪夢でも見ているかのようなブレイバン。
酒瓶に残った一滴を求めるように、鞘をさかさまにして振っている。
それは当然のことであった。
聖剣に宿っていた剣の精霊は、ユニバスが追放される様を間近で見ていた。
精霊のなかでは最速で勇者に愛想を尽かし、その元を離れていたのだ。
その剣の精霊は、どこに行ってしまったのかというと……。
しかしブレイバンはそれどころではなかった。
「ちょ、ま、待ってくれ! いや、待ってください! こんな剣じゃ戦えない!
新しい剣を持ってくるから、日を改めて……!」
しかしこれだけの観衆を前に、中止などされるはずもない。
「勇者よ、これも運命だと諦めるんだな……!」
キングバイツ国王は、丸太のような二の腕をさらに膨らませながら、バトルアクスを振り上げていた。
もうそのビジュアルだけで、ブレイバンは腰を抜かしてしまう。
「ひっ……!? ひぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
引きつれた悲鳴とともに、四つ足で這い逃げるブレイバン。
漏れた水のような跡を残しながら。
そこから先は一瞬であった。
勇者というよりも、ひっくり返った虫がピョンと起き上がるよう素早さで土下座をすると、
「ゆ、許してくださいっ! バーベキューも海割りの奇跡もドッキリじゃないんです!
なにもかも全部、ユニバスのせいで……! あ、いや、アパーレとホーリードゥームが……ぐはあっ!?」
ブレイバンは腹を蹴り上げられ、謝罪に見せかけた罪のなすりつけは強制中断。
水たまりの中で悶絶しながらも、プライドをかなりぐり捨てた土下座を続ける。
集まった観衆たちはすっかり白けてブーイング。
キングバイツの国王も、怒りをすっかり通り越した憐れみの目を向けていた。
国王は、大鷲の船首像のように両手を広げ、民に向かって叫んだ。
「見たか、皆の者! 勇者ブレイバンは斬るにも値せぬ男だということがわかった!
我が国の勇者信仰は、今日を以て終わりを告げた!
国内の勇者像をすべて撤去するのだっ!」
「おおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ここまで言われても、ブレイバンは立ち上がろうもしない。
雷を怖がる子供のように、身体を縮こませたままだった。