04 勇者、初めての敗北。かと思いきや、実は二度目(ざまぁ回)
ところ変わって、精婚式の式典会場。
華やかだった会場は、逃げ出した精霊姫が暴れたせいで、メチャクチャになっていた。
花婿である勇者ブレイバンは、しばらくの間なにが起こったのか理解できず、呆然自失の極地に佇む。
しかし、やがて怒りという名のマグマがこみ上げてきた火山のように真っ赤になり、ドカンと大爆発。
「ぶっ、無礼者がぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!
おいっ、者ども! すぐに非常線を張れ! ユニバスとメス霊、二匹とも捕まえるのだっ!!」
その命令は、来賓席に座っていた自国の大臣たちに向けてのものだったが、真っ先に反応したのは別のメンツであった。
「ブレイバン様、いま、なんとおっしゃいました!?」
「たしか、『メス霊』、そして『二匹』と……!」
「我らが姫をそのように呼ぶなどとは、いくら勇者様でも許しませんぞ!」
血相を変えて詰め寄ってきたのは、精霊姫ティフォンの国の大臣たちである。
ブレイバンはつい素が出てしまったと、チッと舌打ちする。
「ぶ、無礼者! そんなことは今はどうでもよいであろう! ユニバスを捕まえるのが、何よりも先決……!」
そして今更ながらに口が滑っていたことを知り、ハッと口を押えた。
「いま、ユニバスとおっしゃいましたな!?」
「ユニバスさんはお亡くなりになったのではなかったのですか!?」
大臣たちから責めるような口調で問われ、「そ……そんなこと言ったかぁ?」とトボけるブレイバン。
大臣たちは不審そうに顔を見合わせあっていたが、そのひとりがあることに気付く。
「そ……そうか! ティフォン様が突然、式典を飛び出した理由がわかったぞ!
観衆のなかに、ユニバスさんを見つけられたからだ!」
「なんと、ユニバスさんは生きておられるのか!?」
話がそっちに行ってはマズいと、ブレイバンは慌ててごまかす。
「ぶ、無礼者! 勘違いするな! 俺様がユニバスと言ったのは、アレだアレ!
え……えーっと、人間の世界じゃ、変態のことを『ユニバス』って言うようになったのだ!
もちろん語源はあの『ユニバス』だ! キモいアイツにはピッタリであろう!? あははっ!」
瞬間、精霊の大臣たちは親を殺された子のように豹変した。
「ゆ……ユニバスさんのことを、キモいですとぉ!?
我らの友人であるユニバスさんに、なんたる無礼な!」
「いいですか、ブレイバン様!
ティフォン様はそもそも、ユニバスさんの遺言があったからこそ、あなた様との精婚を決意されたんですぞ!
それが、お亡くなりになられたユニバスさんの恩に報いるひとつの方法だと信じて!」
ブレイバンは、今回の魔王討伐の手柄をタテに、精霊たちの国8ヶ国の姫たちとの精婚を目論んでいた。
今まで人間たちを隔絶してきた、精霊たちの国を支配できれば、世界を我が物にしたも同然となるからだ。
勇者ブランドを持ち、しかもプレイボーイであるブレイバン。
人間の女王ですらもう思いのままだったので、精霊のお姫様などチョロいと思っていた。
彼は魔王討伐の旅の途中、各国に立ち寄ったついでに姫たちを口説きにかかる。
しかしその反応は、思いも寄らぬものであった。
「人間の殿方には興味がありません。ただ、ひとりをのぞいて……」
姫たちの視線は、そのとき同行していた下働きのユニバスに釘付け。
勇者の姿など、視界の片隅ににも入っていなかった。
それはブレイバンにとって、初めての失恋にして敗北。
しかもよりによって、男としてずっとずっと格下のユニバスに負けてしまったのだ。
プライドを傷付けたブレイバンは、魔王討伐のあとにユニバスを追放し、その死をでっちあげる。
「ユニバスは魔王との戦いのあと、滑って転んでスライムのカドに頭をぶつけて死んだ!
ヤツは最後に、俺様にこう言ったのだ!
精霊姫たちと、精婚してやってほしい、と……!
人間たちの代表となる俺様に、精霊たちも服従するようになれば、真の世界平和が訪れる、と……!
ヤツはどうしようもない無礼者であったが、俺様は器が大きいので、死者の頼みをむげにはせん!
よって、俺様はここに宣言する! 8ヶ国の精霊姫たちとの精婚を!」
この鶴の一声で、事はトントン拍子に進む。
「ユニバスの遺志ならば」と、精霊王や姫たちは開国を決意したのだ。
そしてあと一歩、あと一歩であったのに……。
今日の精婚式において、ティフォンが跪いてさえいれば、すべてが手に入っていたところだったのに……。
最後の最後で、よりにもよってユニバスに邪魔されてしまった。
しかも大衆の面前で、花嫁に逃げられてしまうという、男として最大級の屈辱で……!
ティフォンの臣下である大臣たちは、逃げた花嫁になんの呵責も感じていない。
それどころか花婿であるブレイバンに懐疑的、それどころか批判的な目すら向けはじめていた。
「これから私ども精霊サイドも、事実関係の調査に入りたいと思います。
もはや人間の情報は信じられない。特に、あなたのようなお方の言うことは」
「もしユニバスさんが本当に生きていられたのであれば、私たちはブレイバン殿を許しませんぞ」
「真実が明らかになるまで、このあとに控えていた他の精霊姫との精婚式は延期していただきたい」
「もっともブレイバン殿が言い出さなくても、向こうから言ってくるでしょうがな」
来週以降には、残り7ヶ国の姫との精婚式の予定があったのだが……。
精霊大臣たちの予想どおり、ブレイバンの元には次々とキャンセルの連絡が舞い込んでいた。
しかも姫が直々やって来てお詫びするどころか、一方的に手紙で伝えるだけという塩対応っぷり。
ブレイバンは7通の手紙を引き裂きながら、ひとり大暴れしていた。
「無礼無礼無礼無礼っ! 無礼者がぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!
いっ、今に見ていろぉ、ユニバス! そして8匹のメス霊どもぉ!!
みんなまとめて、俺様の足元で命乞いをさせてやるからなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」