36 まさかのカミングアウトに、王都騒乱
なんとティフォンは、自分から正体をバラしてしまった。
手配書が出回っている王都で、それもこれだけの大勢の人を前にして。
『実はわたしは、風の精霊姫であるティフォンなんです!
手配書にはユニバスくんにさらわれたって書かれてますけど、まったくのウソなんです!
わたしは自分の意思で勇者との精婚式をキャンセルして、ユニバスくんといっしょに逃げたんです!』
俺が止める間もなく、ティフォンはカミングアウトを続ける。
その中には、勇者が彼女に強要した、赤裸々で破廉恥な激白も含まれていた。
そして、今まで俺と逃避行を続けてきて、いかに幸せだったのかの告白も、
『わたし、勇者といたくありません!
でも捕まったら、勇者のところに連れ戻されて、無理やり精婚させれちゃうんです!
そんなの、ぜったいに嫌です! わたしはこれからもずっと、ユニバスくんといたいんです!
ユニバスくんといっしょに、笑ったり、怒ったり、泣いたり……励まし合ったりしたいんです!』
ティフォンの頬を、汗とは違う雫が伝う。
『ここにいるみなさんだけでも、本当のことを知ってほしかったんです!
だって、好きな人といっしょいられて、わたし自身はすっごく幸せなのに……。
それがぜんぜん違うふうに広まってるなんて嫌だったから!
だから……みんなにも知って欲しかったんです!』
観衆をざわめきが包む。
「まさか、最近ここいらに貼られてる手配書がウソだったなんて!」
「でも、ティフォン様とDJユニバスの絆は本物だよ!
だって、仲が悪いふたりにあんなパフォーマンスなんて無理だし!」
「俺たちはふたりの仲を応援するぞっ!」
観衆たちは口々に賛同を表明するが、それだけに留まらない。
滾るようにどんどんヒートアップしていく。
「こうなったら、みんなで抗議しようっ!
歪んだウソでふたりの仲を引き裂こうとする国家権力に!」
「おおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
なんと観客たちは拳を振り上げて応じると、手配書のあった看板に体当たり。
……メキメキメキィィィィィィーーーーーーーーーーッ!!
となぎ倒し、あっという間に亡きものにする。
「よぉし、みんな! このまま街に繰り出して、手配書を全部剥がすぞぉーーーーっ!!」
「おおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
観客たちは巣穴から這いだした軍隊アリのようにわらわらと、広場から伸びる道に分かれて進軍を始める。
衛兵たちの詰所の掲示板に貼ってある手配書も、おかまいなしにバリバリと剥がしていた。
「おいっ、お前たち、いったい何をやっている!? 手配書を剥がすのは犯罪だぞ!」
衛兵が駆けつけてきて、そこらじゅうで小競り合いが起こり始める。
暴力沙汰にまで発展し、とうとう取り押さえられる者まで出はじめた。
ティフォンは青い顔で俺のところに飛んでくると、
「ど……どうしよう、ユニバスくん! まさかこんなことになるだなんて思わなかった!
わたしはただ、みんなに知ってほしかっただけなのに……!」
あまりにも軽はずみな行動に俺は怒りを覚えたが、いまは叱っている場合じゃない。
「手配書の人物が捕まった時点で、手配書は剥がしてもいいことになってるんだ!
だから、この騒ぎを収めるためには……俺が自首をするしかない!」
「ええっ、そ、そんな!?」
「しょうがないだろう! 騒ぎを収めるためにはこの方法しか……!」
しかし、思わぬところから横槍が入る。
「そんなのダメに決まってるじゃん!」
ダンス大会の司会者だった。
「ここは俺に任せて、ふたりは逃げるじゃん!
俺が首謀者になれば、いま捕まっている人たちは無罪放免になるじゃん!」
「え……え、で、でも……」
「気にするなじゃん! 俺は普段から司会者としてさんざん人を煽ってるから、捕まるのなんて日常茶飯事じゃん!
それに、みんなはティフォン様の気持ちに賛同したからこそ、ああやって戦ってるんじゃん!
もしここでユニバスが出ていって捕まったら、みんなの気持ちが無駄になっちゃうじゃん!」
司会者は停馬場にいるトランスを、バッ! と指さした。
見ると、馬車全体が飾り付けされていて、きらびやかな文字でこう書かれていた。
『お幸せに DJユニバス & ティフォン様』
「さあ、行くじゃん! ふたりで幸せになるために!
このワースワンプ王都の市民みんなが、ふたりの幸せを応援してくれてるじゃん!」
「すっ……すま、すまないっ!」
俺はティフォンの手を取って走り出す。
ステージを駆け下りると、観衆がよけて花道を作ってくれる。
背後では、司会者のけたたましい煽り文句が響いていた。
『さあみんな! 手配書だけといわず、なんでもかんでもビリビリにするじゃん!
だってこの世はウソばかり! だったらみーんな破いちゃえばいいじゃん!
この俺が大将じゃん! だからぜーんぶ俺の仕業じゃん!
だってこの俺こそが、みんなを導くのにふさわしい、世界いちの司会者……!』
ステージには俺たちと入れ違いで、対暴徒用の装備で固めた衛兵たちが突入。
司会者は盾に押しつぶされながらも、その名を叫んでいた。
『ジャンジャン、バリバリィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
俺とティフォンは馬車に乗り込むと、広場を出て大通りを走る。
街の人たちは俺たちの味方で、みんながすすんで道を開けてくれた。
「がんばれ! ユニバス!」
「がんばってください、ティフォン様!」
「勇者なんかに負けないで! ふたりで幸せになってください!」
しかし、ティフォンはうつむいたまま応えようとしない。
どうやら、自分の発言から暴動が起こったのがよっぽどショックだったらしい。
俺は、彼女に言った。
「どうした、ティフォン! キミは俺の誤解が広まるのが嫌だったんだろう!?
でも今はどうだ! みんなが俺たちのことを応援してくれてるんだぞ!」
するとティフォンはようやく顔をあげた。
泣き濡れた瞳を俺に向け、ぱちぱち瞬かせている。
俺が「ありがとうな、ティフォン!」とサムズアップすると、ティフォンの表情は一転。
まるで暗雲を吹き飛ばす太陽のように、ぱぁーっ! と明るく晴れ渡った。
「どっ……どういたしまして! 行こう、ユニバスくんっ!
このまま王都を抜けて、コンコントワレまで一気に、しゅばーっとしゅっぱーっ!!」
次回、王都はさらなる騒乱に包まれる!
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