33 指名手配されてるのに、王都でダンス
俺があれほど『目立つから踊るな』と言っていたのに、ティフォンは街に入って30秒も経たずに踊り始めてしまった。
しかもそれから30秒も経たずに、街の誰よりも目立っている。
俺は「あちゃ……」となっていたが、そこに、最悪のものが目に飛び込んできた。
なんと、壁の看板にデカデカと貼り出された、俺たちの手配書……!
俺はヤバいと思い、馬車を引き返そうとする。
しかし祭りの最中で道は一方通行になっていて、後ろには後続の馬車がいて戻ることはできなかった。
まるでふたりの俺がすれ違うかのように、手配書の看板が迫ってくる。
いくらなんでもこんな近くに本人がいて、気付かれないわけがない。
……お、終わった……!
と思っていたのだが、真横を通り過ぎても誰もなにも言わなかった。
……た、助かった……!
と胸をなで下ろしていたら、ティフォンが御者席に戻ってくる。
「ねえねえ、ユニバスくんも踊ろうよ!」
「踊らないよ! それよりもまわりを見ろ! 街じゅうに手配書が貼ってあって大変なんだぞ!」
するとティフォンはキョトンとした様子で、あたりをキョトキョト見回す。
そしてすぐさま細い肩をいからせた。
「えっ、この手配書に描いてあるのってユニバスくんだったの!?
ひどい、全然似てないよ! まるで別人じゃない!」
「そ……そうか?」
「そうだよ! これじゃ悪魔だよ! まるでわたしに乱暴しようとしたときの勇者みたいにひどい顔!
まわりを見て! 誰もユニバスくんだって気付いてないでしょ!?」
言われてみればたしかに、さっきから手配書のそばを通り過ぎているのだが、誰も俺のことに気付いていない。
どうやら、悪いイメージを植え付けるために、俺のことを凶悪に描きすぎたのが悪いほうに、いや俺にとっては良いほうに働いたようだ。
しかしティフォンは我慢ならなかったようで、「許せない、ぜんぶ剥がしてくる!」と暴れザルのように飛びだそうとする。
俺は慌てて止めた。
「待て待て待て! 手配書を剥がすのは犯罪だ! それに剥がしたりしたら逆にバレるだろう!
せっかくみんな気付いてないんだから、そのままにしとこう!」
ティフォンは不服そうだったが、「踊ってもいいから!」と交換条件を出すと、ようやく納得してくれた。
「ユニバスくんの誤解を広めるようなものがまわりにあるのは嫌だけど、踊っていいならガマンする!
それとユニバスくん、そんなにコソコソしないの!
こういうときは堂々としてたほうが怪しまれないんだって! いぇーいっ!」
ティフォンはそう言うなり、また屋根という名のステージに戻ってく。
俺は一理あるかもしれないなと思い直し、少なくとも姿勢だけはまっすぐにしていようと思った。
ちょうどその時、馬車は大きな広場にさしかかる。
そこには石造りの野外演劇場があって、まわりには多くの若者たちでひしめきあっていた。
ステージにいる司会者は魔導マイクを使って周囲に呼びかけている。
『勇者祭記念、ワースワンプダンス大会の参加者を受付中じゃんっ!
飛び入り参加も大歓迎だから、我こそはと思うものは、どんどんステージにあがるじゃん!
優勝チームには豪華賞品に加え、後日に開催される決勝大会にも出場できるじゃぁぁぁぁーーーーんっ!!』
俺はダンスはまったく踊れないし、そもそも興味がない。
勇者パーティにいる頃、ゾンビと無理やり踊らされたことがあって、今じゃ嫌いなほうだ。
しかしこのワースワンプの王都はダンス好きの若者が多いらしい。
ステージには多くのグループがあがり、エントリーを申し出ている。
物好きなのが多いんだな。と傍目に映しながら、そのまま通り過ぎようとしたのだが……。
俺は思わず二度見してしまう。
いつのまにかステージの上にはティフォンがいて、司会者からインタビューを受けていた。
『お嬢ちゃん、超かわいいじゃぁーんっ! 見てこのお客さんたちの反応!
もうこの時点で、ビジュアル部門の優勝はお嬢ちゃんにきまったようなもんじゃん!』
『やったーっ! でもわたし、ダンスもすっごく得意なんだ! ダンス部門でも優勝まちがいなしだよ!』
『おおっ、言うじゃん言うじゃん! 今回はプロのダンサーも多く参加してるじゃん!
これだけの面々を前にして、優勝宣言するなんて……このお嬢ちゃん、ヤバすぎじゃぁーーーーんっ!』
「うおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
まだ大会が始まってもいないというのに、湧き上がる歓声。
ティフォンはもう観客たちの心を掴みはじめているようだ。
……って、感心してる場合じゃなかった!
さすがにここまで目立つのはマズい! 止めないと!
俺は広場の横にある停馬場にトランスを停めると、人混みをかき分けてステージに向かう。
インタビューはまだ続いていた。
『じゃあ、さっそくお嬢ちゃんから踊ってもらうじゃん!
それじゃ、バックバンドを呼ぶじゃん!』
『バックバンド? なにそれ?』
『ええっ、お嬢ちゃん、もしかしてひとりじゃん?
ダンスは音楽がないと踊れないじゃん! バックバンドってのは、その曲を演奏する人たちのことじゃん!
ほら見て、みんなスピリットナイザーを持ってるじゃん!?』
『スピリットナイザー』というのは、『金』と『光』の精霊をベースにし、さらに他の属性の精霊を組み合わせた楽器。
ようは、金属性の最新式の魔導装置ということだ。
今までは『木』と『闇』がベースになっている木製の楽器がほとんどで、温かみのある音が特徴。
しかし『スピリットナイザー』はエレクトリックでサイケデリックな音が奏でられるため、いま爆発的に若者に広がっている。
俺がステージに駆け上がると、ティフォンが今にも泣きそうな顔で助けを求めてきた。
「あっ、ユニバスくん! ダンス大会に出るためには、『なんくるないさー』がないとダメなんだって!
なんとかならないかなぁ!? わたし、どうしてもこの大会に参加したいの!」
俺はティフォンを止めるつもりだったのだが、彼女があまりにも真剣だったのでつい言いそびれてしまう。
「わたし、『ウインウィーン』にいた頃は、みんなが踊ってるのをお城の中から見ながら、ひとりで踊ってたの!
いつか外に出て、みんなといっしょに踊ってみたいって、ずーっと練習したの!
勇者と精婚したら踊れると思ってたのに、勇者はわたしに裸踊りを要求してきて……!
だからお願い、ユニバスくん! 今日だけはみんなの前で踊らせてほしいの!」
……風の精霊というのは、みんな踊りが大好きだ。
しかしティフォンはお姫様だったから、自由に踊ることができなかったんだろう。
そんな彼女を、こんなダンスの都のような場所に連れてきておいて、『踊るな』と言うのはあまりにも酷すぎる。
俺はティフォンの手を握りしめ、言った。
「わかった。スピリットナイザーでもなんくるないさーでも、この俺がなんとかしてやる……!」
次回、ユニバスが意外なる活躍!
「続きが気になる!」と思ったら、ぜひブックマークを!
「面白い!」と思ったら、下にある☆☆☆☆☆からぜひ評価を!
それらが執筆の励みになりますので、どうかよろしくお願いいたします!