31 勇者vs俺、それに賭けた者たちの末路(ざまぁ回)
ワースワンプの国王は、もはや勇者の巨像には一瞥すらくれていなかった。
あまりにも勇壮で、あまりにも豪華。
あんなにも巨大で、あんなにも光輝いているというのに。
まるで路傍の石、いやゴミクズのように、アウト・オブ・眼中……!
国王の視線は、等身大の石膏像にもはや釘付け。
それは傍から見れば何のことはない、ただの男を象ったもの。
勇者どころか王族ですらない、ただの男……!
しかしその像には、国王を震えあがらせるだけの要素があった。
なぜならば、あまりにもその像には『詰まり』すぎていたからだ。
まずなんといっても、顔以外にびっしりとくっついた泉の精霊たち。
精霊たちはどれも蜃気楼のような儚い見目をしていたが、これだけ密集されるととてつもない存在感がある。
そしてなによりも国王を驚愕させたのは、その像の顔。
いま国王のなかで、誰よりも気になっている人物が彫り込まれていたからだ……!
「なっ……!? なぜ、ユニバスがっ……!?」
その名を口にした途端、聖母はハッとなった。
「国王、先生をご存じなのですか!?」
国王は震え声で答える。
「あ、ああ……! 実際に会ったことはないが……。
この男に会った者たちは、みな恐ろしいほどにこの男に心酔しておった……!」
「はい!」と答える聖母、その瞳はもはや夢見るようであった。
「先生はとても素晴らしいお方です!
像であるというのにここまで泉の精霊に慕われる人間など、この世にはおりません!」
ユニバス像に鈴なりになった笑顔に、国王はデジャヴを覚える。
「ああ、そうだな……! この精霊たちも、ティフォン殿と同じ笑顔をしている……!」
そこに大聖女の金切り声が割り込んできた。
「きぃぃっ! 勇者じゃない像で、そんなに精霊たちが集まってくるわけないでしょう!?
その精霊たちは、泉の精霊に似たのをどこからか捕まえてきて、トリモチかなにかで逃げられないようにしているだけでしょう!?
ただのインチキよっ! そんなことをしたら泉の精霊たちが怒って、とんでもないことになるんだからっ!」
突然、周囲にある森の木々がざわざわと揺れ始める。
大聖女はここぞとばかりに叫んだ。
「見なさい! 森たちも騒いでいる! 私にはわかる! 森の嘆きが! 泉の精霊たちの怒りが!」
……ぞわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
呼応するように、無数の羽音が飛び立つ。
泉の精霊の群れがうねりとなって、空を覆い尽した。
大聖女は雷雨に打たれる狂人のように、両手を広げて叫んだ。
「きゃははははは! 私の勇者の像で、泉の精霊たちが戻ってきたわ!
彼らはすべて私のもの! 1匹残らず私のものなのよっ!
さあっ、精霊たちよ! ユニバスとかいうインチキ像に制裁を!
ゴミクズのような像を、本当のゴミクズに変えてやるのですっ!」
大聖女は舌なめずりをしたあと、バッ! とユニバス像を指さす。
しかし泉の精霊たちは、勇者像に向かって急降下したかと思うと、
……ドガガガガガガガガガーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
まるで機銃のようの音を轟かせながら、勇者像を穿ちははじめる。
表面の金粉が剥がれて粉雪のように舞い散り、像が破片となって崩れて雹のごとく降り注ぐ。
腐った木像のように、勇者像の表面はあっという間にボロボロに。
ついには足元が崩れ、ゆらゆらと揺れはじめる。
近くにいた国王と聖母は避難したが、大聖女はその場で泣き叫んでいた。
「きぃやぁぁぁぁ~~~~っ! とめてとめてとめてぇぇぇぇぇ~~~~~っ!!
それは、お前たちが大好きな勇者様なのよ!? あなたたちの敵はこっちのユニバスなのよ!?
それに、その像には私の未来がかかってるのよっ!
だからやめてやめてやめてっ! やめてぇぇぇぇぇぇ~~~~~っ!!」
しかし魂の懇願も虚しく、
……ずずぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!
巨像、堕つ……!
しかも、背後にあった大聖堂を下敷きにしてもなお飽き足らず、オープンを間近に控えていた歓楽街をメチャクチャに破壊しながら滑り落ちていく。
しばらくして地響きが止まる。
そのあとに広がっていたのは、同じ場所に存在しているのが不思議なくらいの、真逆の光景。
かたや、怒り狂った大魔神が暴れた後のような瓦礫の山。
かたや、笑顔の精霊たちが戯れ遊ぶ、美しき泉。
一瞬にして、すべてを失った大聖女。
一瞬にして、すべてを取り戻した聖母。
まさに、天国と地獄っ……!
大聖女はヒビ割れたメイクから、早すぎる老醜をさらしながら、トドメを刺された山姥のようにのたうちまわっていた。
聖母のほうには、大聖堂から命からがら抜け出した聖女たちが土下座している。
「聖母様! 私たちが悪かったです! どうか、また泉の精霊院に置いてください……!」
そして聖母はもはや、ユニバスに冷たく当たった彼女ではなくなっていた。
「来る者は拒まず。それがこの精霊院のモットーです。
みんなでいっしょに、ユニバス先生の教えを守り、泉の精霊とともに生きていきましょう」
若き聖女たちは「はいっ!」といい返事。
しかしそこに待ったをかけたのは、他ならぬ山姥であった。
「まてぇ! 勝手に抜けるのは許さんぞぉ!
こうなったらお前たちを売り飛ばして、私だけでも……!」
すると、1台の牢屋つきの馬車が丘を登ってきて、御者席からガラの悪そうな男が降りてきた。
「さぁて、借金のカタになった聖女たちはどこかなぁ?」
山姥はしわがれた手で、すかさず聖母と聖女たちを指さした。
「そこだ! そこにいる女たち全員だ! 聖母もまとめて持っていくがいい!」
「ほう、上玉揃いじゃねぇか! これならたっぷり稼げそうだな!
おいお前ら、これから地獄のような所で、死ぬまでこき使ってやるから覚悟しな!」
ゴロツキどもは聖女たちを取り囲んだが、そこに、鶴の一声が。
「待て! その者たちを連れて行くことは許さんぞ!」
「誰だか知らねぇけど、邪魔すんじゃ……! ……えええっ!?
あ、あなた様は、ワースワンプ国王!? なぜ、このような場所にっ!?」
「ワシがどこにいようとそなたらには関係ない!
それよりも、その者たちに手を出すことはこのワシが許さん!」
「で……でも国王! こちらをご覧ください!
この借金の証文には、『泉の大聖堂の聖女を全員担保にする』とあるのです!」
「ふむ、たしかに書いておるな。
だがそこにいる聖女たちは『泉の精霊院』に所属しておる。
この証文の担保ではない」
「えっ!? では『泉の大聖堂』の聖女は、どこに……!?」
……サッ!
と指さされた先には、限界集落に住んでいそうなひとりの老婆がいた。
「チッ! ババア1匹かよ! 大聖堂っていうから、聖女がわんさかいると思って金を貸してやったってのに……。
でもしかたがねぇ、コイツだけでも連れていくとするか!
おいババア、こっちが当て込んでた聖女のぶん、ぜんぶテメェひとりで働いて稼がせるから、覚悟しな!」
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?!? お助け、お助けぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!!」
老婆は豪奢なローブを剥ぎ取られ、牢屋に放り込まれる。
餓鬼のような醜い姿で鉄格子に張り付き、阿鼻叫喚を轟かせながら連れ去られていった。
次回、新たなる旅立ち!
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