30 大聖女の倍プッシュ、絶対確実な投資のはずが…
『泉の精霊院』が、勇者像をユニバス像に作り替えるという、大改革を行なっていた頃……。
隣の『泉の大聖堂』の主である、大聖女は荒れていた。
「きぃぃ~っ! これだけ大きな勇者様の像を作ったというのに、どうして泉の精霊たちは戻ってこないのっ!?
泉の精霊さえ戻ってくれば、私は本当の大聖女になれるというのに! きぃぃ~っ!」
大聖女はかつて『泉の精霊院』で聖女として働いていた。
しかし泉の精霊がいなくなったこと皮切りに、多くの聖女を引きつれて離脱。
パトロンから引っ張った金で、隣に『泉の大聖堂』を建造。
裏手におおきな泉を作り、自分の聖堂こそが『勇者が立ち寄った聖堂』と言い張るようになった。
彼女の目的は、『泉の精霊院』の実績を横取りし、この丘を我が物とすること。
泉の精霊の力で、精力を増強できるのをウリにし、一大歓楽街を作り上げて大儲けを企んでいたのだ。
丘の敷地はすでに多くが開墾され、酒場やカジノ、売春宿が建設ラッシュの真っ最中。
これらはパトロンひとりの力だけでは足りなかったので、所属している聖女たちを言いくるめ、総動員して金を稼がせていた
しかし『泉の精霊』が自由にできるという実績に加え、歓楽街で儲けた金を献金に回すことができれば、大聖女への出世は確かなものとなる。
彼女はいまだに『聖女』の立場であったが、捕らぬタヌキのなんとやらで、すでに『大聖女』を自称していた。
彼女自身の装いと態度、そして聖堂の建物は大聖堂クラスに立派であったが、肝心の泉の精霊がなければ張り子の虎にすぎない。
巨額を投じた勇者像も空振りに終わり、彼女は焦りに焦っていたのだ。
「きぃぃ~っ! どうすれば、いったいどうすれば泉の精霊たちは戻ってきてくれるというの!?
ユニバスのおかげで泉の精霊がいなくなったときは、泉の精霊院を潰すチャンスができたと思ったのに!
まさかあのユニバスの呪いがここまで強かっただんて! きぃぃ~っ!」
しかし彼女はここで、黒い妙案を閃く。
「そ……そうだ! かつてお越しになった勇者様は、ラメラメでハデハデで、ゴージャスな格好をされていた!
いまの勇者像は大きいばかりで、きっとその派手さが足りないのが原因なのだわ!
金銀や宝石で像を飾り立てれば、ピカピカで目立つようになって……。
バカな泉の精霊たちでも勇者様だと騙され、焚火を見つけた蛾のように寄ってくるに違いないわ!」
大聖女は過剰なメイクの顔を、笑い仮面のようにニタリと歪める。
「それに、近日中には国王様がお見えになって、勇者像のお披露目勝負がある!
びんぼう精霊院が出してくるのはどうせショボイ石膏像かなにかでしょう!
そこでこっちは、ド派手な勇者像を披露すれば、泉の精霊たちも寄ってくるうえに、勇者好きの国王もお喜びになるはず……!」
すでに獲ったタヌキの皮を数えるように、大聖女の妄想は止まらない。
「そう! そこで国王に、こう願い出ればいい!
『隣の精霊院はニセモノですので、どうかお取り潰しを』と……!
そうすれば私の大聖堂こそが、唯一の『泉の精霊』にまつわる地になれる!
ずっと邪魔だった聖母も追い出せるし、まさに一石三鳥……!」
大聖女的にはかなりの名案であったが、この計画には、大きな問題点がひとつあった。
すでに歓楽街の建築でかなりの金を使っており、もう袖はタンクトップばりに短くなっている。
しかし地位と名誉と金、巨大なリターンのある儲け話を前にして、引き下がるわけにはいなかった。
「ならば、倍プッシュ……!
私と、この大聖堂にいる聖女すべてを賭けするっ……!」
なんと大聖女、自分だけでなく、今までさんざん搾り取ってきた聖女たちの身体を担保にすることを思いつく。
期限内に借金が返せなければ、奴隷として引き渡すという契約を勝手に結んでしまったのだ……!
そして手に入れた金で、勇者像の大改造を開始する。
ライバルである隣の精霊院に見られないように、像には覆いをかけて作業させた。
勇者像は全身を金箔で塗られ、身体のあちこちに宝石がちりばめられる。
しかも夜はライトアップされるようにして、全身がギラギラと輝いて見えるようにした。
これは思わぬ副産物を生む。
真夜中の遠距離からでも、大聖堂のある場所がわかるようになったのだ。
この丘を不夜城にするつもりだった大聖女は、小躍りして喜んでいた。
「きぃぃやぁ~っ! この歓楽街における最大の名物ができたっ!
『光輝く勇者像』……なんて素敵なでしょう! 男も女、金も泉の精霊も、入れ食い間違いナシだわぁっ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そしてついに、ワースワンプの国王が来訪する日がやって来る。
国王は本来であればフーリッシュで勇者と会食したあと、数日滞在の予定だったのだが、それらが全てキャンセルされたとのことで、予定より早い視察となった。
その時、丘にはユニバスとティフォンもいたのだが、逃走中の身であったので表には出ず、精霊院の窓からこっそりとその様子を伺っていた。
『泉の大聖堂』の像のそばに、『泉の精霊院』の像が運び込まれてくる。
『泉の大聖堂』の像は移動不可だったので、『泉の精霊院』の像がそばまで移動してから、お披露目会の開催となった。
像はどちらも布による覆いがかけられているが、大きさの違いは歴然としている。
かたや観光名所になるほどに巨大で、かたやそのお土産のように小さい。
国王は両者の像を見比べ、ふむ、と唸った。
「この時点では『泉の大聖堂』の像のほうが期待が持てそうだな。
だが像というのは大きさではなく顔が命、そして泉が名所であるこの地にある以上、いかに泉の精霊を呼べるかが重要であるな」
先んじて大聖女がコメントする。
「国王様、そのあたりももちろん抜かりはありません。
この覆いを取り払ったが最後、神々しさすら放つ勇者像が解き放たれます。
四方八方から泉の精霊たちが殺到することは間違いありません。
隣にあるチンケな像など、なぎ倒してしまうでしょうね」
遅れてコメントした聖母は不安げだった。
「あの……この像は、えっと……。
と、とにかく、みんなで一生懸命作りましたので、見ていただければと思います」
「オホホホホ! みんなで? そちらの精霊院にはあなたひとりしかいないでしょう!?
それを『みんなで』なんて、見栄を張るのはおよしなさい! オホホホホ!」
「まあまあ、とにかく見せてもらおうではないか。合図をしたら、同時に布を取り払うのだ。
……せぇーのっ!」
……バッ!
かたや、滝のように流れ落ちる、おびただしい面積の布。
かたや、風になびくヴェールのように、しずかに流れる布。
巨像から、まばゆい光とともに勇者スマイルがあふれ出す。
等身大の像のほうはツヤの輝きすらなく、それどころか顔は勇者ですらない『ただの男』であった。
しかしその場にいる者たちの度肝を抜いていたのは……。
ただの、男っ……!
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
そろそろモチベーションが落ちつつあります。
どうか、やる気をください!
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