29 俺の像を作る精霊たち、精霊たちはとうとう俺を崇めだした
「そうだ! そうだよ! 勇者なんかじゃなくって、ユニバス君の像を作ればいいんだよ!」
ティフォンは最初は思いつきで言ったようだが、話しているうちにこれしかないという口調に変わっていく。
しかし、聖母は難色を示していた。
「で、でも……。国王はもうじきお見えになるはずです。
今から作り直していては、間に合わないと思います。
それに国王には、勇者像をお見せするとお伝えしてあります。
それなのに、ユニバスさんの像をお出ししたら、なんと言われてしまうか……」
「聖母さん、それって目的と手段をはき違えてるよ!
目的は勇者像を見せることじゃなくて、泉の精霊さんたちを呼び戻すことなんでしょう!?
そう考えたら、誰の像を作るのがいちばんなのかは考えるまでもないじゃない!」
「そう言われてみれば、たしかに……」
「今からでもがんばって、最高のユニバスくん像を作ろうよ! 私たちも手伝うから!
それを泉に置いたら、今よりもっと泉の精霊さんたちが戻ってきてくれるって!!
ねっ、みんなもそう思うよね!?」
ティフォンがそばにいた泉の精霊たちに言うと、「わーっ!」とちいさな大歓声が返ってくる。
当の泉の精霊たちの太鼓判は、なによりもの強力な後押しとなってしまった。
聖母はキリッとした表情で宣言する。
「わ、わかりました! ユニバスさんの像を作りましょう!」
「わーっ! やったーっ! やろうやろうーっ!」
諸手を挙げて賛同する精霊たち。
俺はいちおう言っておいた。
「俺は手伝わないからな」
すると数え切れないほどの精霊たちの目玉が剥き出しになって、俺をギョロリと捉える。
「ええっ!? なんで!? ユニバスくんはこういうの得意なんでしょ!?」
「そうだけど、自分の像を作るなんて、恥ずかしくてできるかよ」
「なんで今更恥ずかしがるの!? イドオンの村でも像になったじゃない!」
「あれはイドオンが勝手にやっただけだ。
精霊たちがやる分にはいいけど、それを俺が手伝うのは、俺自身がノリノリみたいでちょっと……」
「ノリノリになるのがなにが悪いの!? ユニバスくんのしたことが、みんなに認めてもらえるんだよ!?
ユニバスくんはすごいことをやってきた人なのに、無欲すぎるんだよ! もっと欲を出さなきゃ!」
ティフォンと泉の精霊に詰め寄られ、俺はウンと言わざるを得ないところまで追いつめられてしまった。
「わかった、手伝うよ。ただしひとつ条件がある。俺が彫るのは身体だけだ。顔はみんなで彫ってくれ。」
「うん、それでいいよ! やったーっ! みんなでいっしょにユニバスくんを作ろーっ!」
どうやらティフォンは、『みんなでいっしょに作る』というのにこだわっていたようだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから俺たちは彫りかけの勇者像を崩し、新しい粘土で俺の像を彫る作業を始める。
俺の服装は作業服で、勇者と違ってゴテゴテしてないので、身体の部分を彫るのは楽だった。
俺は自分の担当区分である身体を、1日かけて彫り終える。
そこからは女性陣にバトンタッチして頭部の作成に入ったのだが、これがかなりの難産となった。
なにせ聖母もティフォンも泉の精霊たちも彫刻は素人。
何度やっても顔のパーツがズレまくり、しかも多面体のサイコロのようにガクガクになってしまう。
身体はリアルなのに、顔だけがキュビズムな像の出来上がりに、女性陣はみな四つ足でうなだれている。
かなり落ち込んでいるようだったので、俺は慰めの言葉をかけてやった。
「もう、それでいいんじゃないか? 遠目くから細目で見れば俺に見えなくもないし」
「こ……こんなんじゃダメだよっ! こんなんじゃ、わたしの中にある芸術という名の獣は愛を叫べない!」
「芸術とは、ずいぶん大きく出たな」
「いいこと、ユニバスくん! 石膏彫刻というのは頭に思い描いているものを彫るんじゃないの!
石膏のなかに埋まっているものを彫りだし、世に送り出すものなんだよ!」
「よくわからんが、考え方だけはいっちょまえの芸術家っぽいな」
うまくいかなすぎて迷走を始めているようだったので、俺は助け船を出すことにする。
精霊院の外に停めてある馬車まで行き、トランスの中で留守番している地の精霊たちを抱えあげた。
作業場まで戻り、腕いっぱいのドワーフ小人を石膏像に配置する。
「彼らも手伝ってくれるってさ」
俺がそう言うと、ティフォンは晴天の霹靂のような表情をしていた。
「そ……そっか! 地の精霊さんたちは、こういう作業が得意だったんだね!」
それからの作業は順調であった。
ティフォンはいつのまにかプロデューサーのような立場になり、地の精霊たちにアレコレ指示を出す。
「う~ん、そうじゃないんだよねぇ、鼻はもっとグワーッとしてて、口はもっとプリーンってしてないと。
もう一回、彫り直してみて……そうそう、そんなカンジ!」
俺はよくわからなかったが、精霊どうしで通じ合うところがあるのだろう。
像は着実に完成へと向かっていく。
その途中、俺は聖母にこんなことを相談された。
「あの、先生……。わたし、先生みたいに泉の精霊たちと触れ合ってみたいんです。
泉の精霊は、人間が近づくと逃げるのが当たり前だと思っていました。
だから彼らの力が必要なときは、虫アミで捕まえていたのですが……。
先生は虫アミなんて使わなくても、泉の精霊たちの力を借りています。
いったいどうすれば、先生みたいになれるのでしょうか?」
「……かかっ、彼らを……『利用』しなければ、いっ、いいんだ……」
俺は人間と話すが苦手だったので、ほとんどしどろもどろ。
しかし聖母はバカにすることもなく、真剣な表情で耳を傾けてくれる。
俺は、彼女にこんなことを言った。
人間は精霊を『利用』し、その力で便利に暮らすことを考えている。
それは当然のことだし、精霊たちもそれを喜びとしているから、別にかまわない。
しかし精霊を『利用』するだけの存在だと見なしていると、それ以上の関係にはなれない。
『利用価値』だけで付き合っているような人間に、精霊は決して心を開かない。
自分の欲望を満たすための『部品』じゃなく、いっしょになって未来を切り拓くための『パートナー』だと思うこと。
嬉しいときはいっしょになって喜び、悲しいときはいっしょになって泣く。
俺は、いっしょにいる精霊たちが笑顔であれば、それでいい。
いつもそう思ってるんだ。
……ふと気付くと、聖母が俺の足元で跪き、潤んだ瞳で俺を見上げていた。
いや、彼女だけじゃなくて、いつの間にかティフォンや泉の精霊たちまでも。
それどころか付き合いの長い、地の精霊たちも俺に崇拝するような目を向けている。
「ゆ……ユニバスくん……。いや、ユニバス先生……。
ううん、ユニバス様は、なんて尊いお方なのっ……!」
一斉に「ははーっ」とひれ伏されて、俺はこれ以上ないほどに困惑してしまった。
次回、いよいよ大公開! そしてある人物が大後悔!
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