23 代理の俺に席を奪われてしまった、かつての上司(ざまぁ回)
精霊姫との精婚式に続き、人間の国王との食事会までおじゃんになってしまった。
その責任を問われたゴーツアンは、めでたい『勇者祭』の期間中だというのに降格を言い渡されてしまう。
しかも1ランクダウンの主任ではなく、2ランクダウンの副主任。
これは今まで、口八丁で自分の失敗を他人になすりつけ、手八丁で他人の功績をよこどりしてきたゴーツアンの、初めての敗北であった。
バーベキュー会場である河原を追い出された彼は、失意のまま王都へと戻る。
どこもお祝いムードで賑やな城下町を、職を失ったばかりのようにフラフラとさまよい歩く。
それは服装こそ違えど、かつてクビになったユニバスとソックリだったという。
しかしゴーツアンには絶望しているヒマなどない。
なにせ彼には愛する家族がいるのだ。
息子はゴーツアンのことを心から尊敬しており、「大きくなったらパパみたいな魔導装置の技術者になる!」と言っているほど。
しかし親バカ補正を差し引いてみても、息子のオツムはいまいちだったので、名門小学校に裏口入学させるつもりでいた。
そして裏口から入るためには、家柄や収入がなによりも問われる。
今ここで副主任になったとわかれば、門前払いをくらってしまうかもしれない。
だからこそゴーツアンは、堅く口を閉ざすことに決めた。
「降格させられたことは、黙っていよう」と……!
いまは『勇者祭』の真っ最中なので、王国の人事発令などは行なわれない。
そのためゴーツアンが自分から申し出なければ、降格したことはバレることはない。
そして何よりも、魔導装置の部署の部下たちに知られることだけは避けたかった。
なぜならばこの国において2ランクダウンというのは前例がなく、ありえないほどの恥さらし。
たとえ副主任という役付きの立場だったとしても、部下たちに死ぬほどナメられてしまうのは間違いないからだ。
ゴーツアンはまた決意を新たにする。
――『勇者祭』の期間中は、副主任になったことを隠し通し……。
次の人事発令までに、なんとしても大臣に返り咲けるだけの活躍をしなくては……!
私自身……そして、妻や子供のためにも……!
そう考えると、自然と背筋が伸びてくる。
ゴーツアンはシャキッとした気持ちと姿勢で、王城へと戻った。
仕事をするために、城内にある自分の執務室に向かう。
しかし部屋の扉は開いていて、中からは賑やかな声が漏れ聞こえてきた。
不審に思って部屋を覗き込んでみると、室内にあるゴーツアンの机のまわりには、部下たちが集まっている。
そして椅子のところには、信じられないものが鎮座していた。
それは、魔導人形。
顔のところにはなんと、ユニバスの真写が貼られている。
そう。部下たちはすでに、ユニバスが大臣になるという噂を聞きつけており……。
『代理ユニバス』を作り上げ、おべんちゃらの練習をしていたのだ……!
「いやあ、大臣就任おめでとうございます、ユニバス様!」
「私はずっとユニバス様が大臣になると信じておりました!」
「そうそう、前のゴーツアンなんて、ぜんぜん大臣の器じゃなかったですから!」
好き勝手なことを言う部下たちに、ゴーツアンは怒りの踏み込みを決行。
「お前ら、人の席にゴミを置いてなにをやっているんだ!?」
しかし部下たちは悪びれもしない。
彼らはニヤニヤと顔を見合わせて、こう言った。
「おやぁ? ゴーツアン『副主任』じゃないですかぁ……!」
「なっ……なぜそれを……!?」と目を剥くゴーツアン。
「食事会にいた聖女に聞いたんですよぉ。食事会でやらかして、降格になったんですってねぇ?」
「あらあら、その態度のデカさだと、バレてないと思ってたようですねぇ!」
「相変わらずやることがセコい! セコいなぁ!」
「あなたが降格になったってことは、ユニバス様が大臣になるのはもう決まったようなものでしょぉ?」
「だからこうして、ユニバス様を迎える練習をしてたんじゃないですかぁ」
ヒラの者たちにからかわれ、ゴーツアンは開き直る。
「だ……だから何だというのだ!? それでもお前たちの上司だぞっ!
こんなことをして、ただですむと……」
不意に背後から「ケッパレ!」とかけ声がしたかと思うと、
……ガンッ!
ゴーツアンの尻が蹴り上げられ、激痛のあまり「ぎゃん!?」と飛び上がる。
半泣きで振り向くと、そこにはかつてのライバルが立っていた。
「お……お前は、主任のアパーレ!?」
「ケッパレ! 呼び捨てはよくないよ、ゴーツアン君!
上司に対する態度がなってないねぇ、ケッパレ!」
続けざまに股間を蹴り上げられ、「ふぎゃあっ!」と飛び上がるゴーツアン。
内股で股間を押えながら、アパーレを睨みつける。
「ぐぐぐっ……! お……覚えてろよっ! まずは主任に返り咲いたあとで、倍にして……!」
「アッパレ! その心意気やよし! でもケッパレ! それはあり得ないなぁ!
だってキミはさんざん、ユニバス様をいじめてただろぉ?
そんなユニバス様が、キミを主任に昇格させると思うかい?」
「そ、それは……! お前だってそうだろう!
それどころか、部署にいたみなでユニバスをいじめてたじゃないか!」
「そうだったかなぁ? まぁいずれにしても、筆頭はキミだったじゃないか。
だから僕たちは話し合って、キミひとりをいじめ抜くことに決めたんだよ。
ユニバス様が大臣になられたとき、キミがズタボロになっていたら、きっとお喜びになるだろうからねぇ!
そうなれば、僕たちのイジメの過去も帳消しになるって寸法さ!
キミの言葉を借りるとするなら、『ごっつぁん!』ってヤツかな? ははっ!」
「ぐっ……ぐぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
「さぁ、わかったら魔導装置の整備をするんだ、この無能がっ!
臭くて汚くてキツい整備を全部押しつけてやるからなっ! さぁ行けっ、ケッパレっ!」
……ガスッ!
「ぎゃひぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
ゴーツアンのざまぁはひとまずここで一時停止となりますが、もちろん終わりではありません!
そして次回は、意外なる人物のお話です!
「続きが気になる!」と思ったら、ぜひブックマークを!
「面白い!」と思ったら、下にある☆☆☆☆☆からぜひ評価を!
それらが執筆の励みになりますので、どうかよろしくお願いいたします!