22 勇者と大臣、見苦しさの極みの果てに、クズになる(ざまぁ回)
テロリストの汚名を着せられたゴーツアン。
言い逃れの言葉を探していた彼は、酒の席でブレイバンが言っていたあることを思いだした。
「魔王討伐のときは、毎日のようにバーベキューをやったなぁ。
そのときについでに、ユニバスに火を付ける遊びってのもやってたんだ。
尻に火が付いたウサギみたいに逃げ回るヤツを見ながら、食う肉はサイコーだったぜぇ!」
その一言がヒントなって、ゴーツアンは起死回生の一手を思いつく。
それはなんと、勇者への罪のバトンタッチ……!
ブレイバンは貧乏神をなすりつけられたように唖然となっていたが、すぐに暴れザルのように顔を真っ赤にしてゴーツアンに飛びかかっていく。
「ぶっ……無礼者ぉぉぉぉぉぉーーーーっ! いますぐ貴様を手打ちに……!」
しかしゴーツアンはブレイバンをガッと抱き寄せると、耳元で鋭く囁いた。
「落ち着いてください、ブレイバン様!
もしここで私をテロリストとして裁いてしまったら、ブレイバン様もタダではすみませんぞ!
このゴーツアンを裁いたあとは、きっとブレイバン様の任命責任に及ぶはずです!
それにこれは最初から、このゴーツアンが考えた、ワースワンプ国王とより親しくなるための作戦だったのです!」
「なっ……!? 作戦、だとぉ……!?」
「そうです、これは『バーベキューでうぇーい作戦』です!
ワースワンプ国王は、お歳のわりに妙に若者ぶっているところがあります!
あの派手な格好と、バーベキューが好きという時点で明白でしょう!
ですからここは、若者特有のドッキリで乗り切るのです!
若者ぶったあの国王なら、そう言えば逆に喜んでくれるでしょう!
ピンチをチャンスに変えるのです、ブレイバン様!」
「な、なるほど……!」
それはブレイバンにとって、天からの啓示ともいえるささやきであった。
傍から見れば、狡猾なクズが低脳なクズをそそのかしているだけにすぎない。
悪魔のささやきどころか、ただのクズ同士の足の引っ張り合いにすぎなかった。
しかし次の瞬間、ブレイバンの態度は一変。
「うぇーい! 最新流行のドッキリ、『人間バーベキュー』大成功~っ!」
「うぇーい! バーベキューといえば花火ですけど、それってもう古いですよねぇ~!」
「うぇーい! そうそう! 近頃の若者は『人間バーベキュー』一択っしょ!」
「うぇーい! 流行に敏感なワースワンプの国王だったら、すでにご存じですよねぇ~!」
クズふたりは、やたらと説明的なセリフとともに、パーン! とお互いの両手を合わせて打ち鳴らす。
そして肩を組みながら、ワースワンプの国王にもハイタッチを求めたのだが……。
ワースワンプの国王は、バーベキュー後に残された河原のゴミを見るかのような目で、ふたりを見据えていた。
「他人を傷付けても謝りもしないどころか、それどころか遊び半分で火を付けるだなんて……。
まさか世界を救った勇者と、世界最高の魔導装置の技術者が、ここまで俗悪だとは思わなかったぞ……。
この、クズどもがっ……!」
一喝され、クズ勇者とクズ大臣は「ヒイッ!?」と抱き合う。
それは悪ふざけが過ぎ、コワモテのオヤジに叱られた若者のようであった。
「今日の食事会では、我が国に逃げ込んだユニバスの逮捕協力と、勇者バーベキュー場の拡充について話し合うつもりであったが……。
それらはすべて無かったことにさせてもらおう」
ワースワンプ国王はそそくさと背を向ける。
ブレイバンとゴーツアンは「ま……待って……!」とすがろうとするが、まさしくクズのように払いのけられてしまった。
「この国との同盟関係についても、いま一度見直さねばならぬかもしれんな」
去り際にトドメの一言を浴びせられ、クズコンビはへなへなと崩れ落ちる。
『勇者祭』における最初の食事会は『大』が付くほどの……。
いいや、『超』が付くほどの失敗に終わった。
ブレイバンは戦慄する。
このあとフーリッシュの国王に呼び出され、こっぴどく叱られるのは目に見えていたから。
その怒りの矛先は、当然のようにクズ仲間に向けられた。
「こっ、この無礼者ぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!!
我が国はいま、精霊国との同盟を保っているのもやっとなのだぞ!?
それなのに人間の国、しかも重要な隣国との関係に、ヒビを入れるだなんて……!」
「ひっ……ひいいっ! お許しください! ブレイバン様ぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」
「やはり貴様をあの時、テロリストとして手打ちにしておけばよかった!
死ねっ! 死ね死ね死ね死ね死ねっ! 死ねぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」
ブレイバンから本気で首を掴まれる、「クケェーッ!?」と絞められるニワトリのような悲鳴をあげるゴーツアン。
顔がどんどん紫色になっていき、口の端から泡を吹き始めたところで、ようやく周囲にいる者の手によって止められた。
ブレイバンは肩でぜいぜい息をしながら吐き捨てる。
「はぁ、はぁ、はぁ……! 本来であれば、貴様などとっくの昔にクビだ……!
だがいまは『勇者祭』の真っ最中だから、クビを切ることはできん……!」
国を挙げて祝うほどの記念すべき出来事があった場合、囚人に恩赦が与えられ、死刑囚の死刑執行は延期となる。
『クビを切る』というのは祭りに相応しくないためであるが、縁起を担いで労働者の解雇なども自粛するのが通例となっていた。
ゴーツアンは首の皮一枚で繋がった格好となったかに思われたが、続けざまに非情なる通告がなされる。
「だからといって『勇者祭』のあいだ、なにも沙汰を下さないのは俺様の気がおさまらん……!
だから貴様は『降格』だ……!
魔導装置の部署の主任……! いや、副主任となって、大人しくしているがいいっ……!
大臣の座には、ユニバスを座らせる……! 精霊大臣たちとも、そう約束したからな……!」
「そっ……そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!?!?」
なんとゴーツアン、2階級特進ならぬ、前代未聞の2階級特退……!
ここからさらなるざまぁが展開します!
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