20 クビを免れるために、禁断のマシンの封印を解く(ざまぁ回)
ところかわってフーリッシュ王国。
魔導装置大臣であるゴーツアンは焦っていた。
なぜならば彼は偶然、ブレイバンの謝罪会見を覗き見してしまったから。
その中で勇者が発したあるセリフが、どうしようもないほどにゴーツアンを焦燥に駆り立てていたのだ。
『そ、そして、ユニバスっ……! し、仕事をクビにしたりして、悪かった……!
ま、また復職できるようにしてやる……!
い、いいや……! 戻ってきてくれたら、ゴーツアンをクビにして、お前を大臣にしてやる……!』
この言葉を耳にした瞬間、ゴーツアンの心の中には阿鼻叫喚の悲鳴が渦巻いていた。
――く……クビっ……!?
今や世界最高の魔導装置技術と呼ばれている、このゴーツアンを……!?
しかも、あの『無能』と蔑まれ続けたユニバスを、呼び戻すために……!?
あ……ありえない……!
そんなことは、たとえ世界がひっくり返ったとしても、あってはならぬことだっ……!
ゴーツアンとしては、ブレイバンが本心でそんなことを言ったとは思いたくなかった。
精霊国への同盟を維持するために、一時的にユニバスを大臣に据えようとしているのだと信じたかった。
そして謝罪会見の動画はまだ未公開であったが、公開されたが最後、ユニバスは尻尾を振って飛んで戻ってくることは間違いないと思っていた。
そうなるとゴーツアンは即降格になってしまうだろう。
さらにゴーツアンは、ここのところブレイバンに良い印象を持たれていない。
ユニバスを隣国にとり逃がしてしまったうえに、続けて提案した『凶悪手配書大作戦』にも失敗していたからだ。
下手をすると会見のセリフのとおりに、降格を通り越してクビになってしまうかもしれない……!
降格は、ユニバスの無能さが証明されれば大臣に返り咲くこともできるであろうが、クビだとそうはいかない。
そのためゴーツアンとしては何としても、早いところ汚名を返上しておく必要があった。
――精霊姫たちとの精婚式はすべて取り消しになってしまったが、『勇者祭』はまだまだ続く……!
その期間中に、なんとしてもブレイバン様に良いところを見せ、得点を稼いでおかねば……!
『勇者祭』というのは勇者パーティが魔王を退けたことを記念して行なわれている祭事のこと。
世界各地で長期間にわたって行なわれ、その中心となっているフーリッシュ王国にとっては、重要な外交の場でもあった。
精婚式はすべてお流れになってしまったが、それ以外のイベントが中止になるわけではない。
風の精霊姫ティフォンとの精婚式のあとには、各国との食事会が予定されていた。
特に、隣国であるワースワンプ王国の国王との会食は何よりも重要視されている。
その理由はみっつあった。
まず、ユニバスは現在ワースワンプ王国を逃走中で、その捕縛のためにはワースワンプ国王の協力は必要不可欠であるという点。
そしてふたつめの理由は、ワースワンプ国王は大のバーベキュー好きであるということ。
国策として、勇者のバーベキュー場を推進しているほどであった。
食事会もバーベキューが予定されており、もしそのバーベキューでワースワンプの国王を満足させることができれば、さらなる勇者需要の拡大が見込めるであろう。
そして、みっつ目こそがゴーツアンにとっての最重要項目。
食事会の場では、ゴーツアンの開発した最新式のバーベキューマシンをお披露目することになっていた。
もしこのマシンがワースワンプ国王に気に入られれば、大量受注を得ることができる。
魔導装置大国であるフーリッシュ王国においてそれは、なによりもの評価対象となる。
そう、バーベキューでワースワンプ国王をもてなすことができれば……。
ユニバスは捕まったも同然なうえに、ゴーツアンの評価もうなぎのぼりとなり……。
たとえユニバスが戻ってきたところで、ゴーツアンは大臣のままでいられるかもしれないのだ……!
そのためゴーツアンにとって、数日後に控えていたバーベキュー大会は正念場であった。
そしてついに彼は、あるカードを切る決断をする。
『ユニバス製』という、禁断のカードを……!
ゴーツアンの下でユニバスが働いていたとき、ユニバスの作った魔導装置はすべてゴーツアンが保管していた。
いざという時のために自分が作った装置として取りだし、評価を得るために。
その中に『勇者のバーベキューマシン』というのがあった。
これは、勇者パーティが食べていたバーベキューの味、つまりユニバスの焼き加減を再現できるというスグレモノ。
ゴーツアンもためしに一度だけ使ってみたことがあるのだが、この世界にあるどのバーベキューマシンよりも美味しいバーベキューが焼き上がるので、度肝を抜かれていた。
その禁断のマシンを、ついに世に解き放つ時がきたのだ。
彼は、秘密の倉庫の中で、黒光りするバーベキューマシンに頬ずりしながらほくそ笑んでいた。
――ユニバスの作った魔導装置で、ユニバスを破滅させる……!
こんなに痛快で、因果応報なことは、他にありはしない……!
やっぱり、このゴーツアンは天才だ……!
ククククククク……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そしてついに、ワースワンプ国王と勇者の食事会の日がやって来る。
通常の外交であればフーリッシュ側も国王が応対するのが礼儀だが、『勇者祭』中はブレイバンが国王がわりを務めるのが通例となっていた。
バーベキューということで、会場はフーリッシュ王国内にある清流のそば。
ワースワンプ国王とブレイバンは、バーベキューにふさわしいラフな格好をして、フランクな雰囲気で臨んでいた。
バーベキューマシンの制御、そしてバーベキュー奉行を仰せつかったのは他ならぬゴーツアン。
彼は一流レストランのオーナーのようなタキシードで決め、ダイヤモンドの埋め込まれたトングをカチカチさせていた。
「ワースワンプ国王、本日はお越し下さり誠にありがとうございます。
本日の食事会では、ワースワンプ国内で採れた最高級食材を、このゴーツアンが作りし最新鋭のバーベキューマシンで焼かせていただきます」
最新鋭のマシンと聞き、ワースワンプ国王の目が輝く。
「おお! 世界最高の魔導装置技術者といわれた、ゴーツアン殿の最新作とは!
これはこれは楽しみだ!
我が国にあるバーベキューマシンは、どれも火加減が難しいという声が多くてな!」
「まさにそんな声にお応えするために作り出したのがこの、『勇者バーベキューマシン』でございます。
これはバーベキューに不慣れな者でも、食材を並べてスイッチを入れるだけ。
それだけで勇者パーティが食したという、絶妙な焼き加減のバーベキューが楽しめるのです」
「ほぉ、スイッチを入れるだけとはすごいな!」
「それではその凄さを体感していただくために、国王様、こちらのツマミを回していただけますか?」
「おお、ぜひやらせてくれ!」
ワースワンプの国王は、子供のようにはしゃいで『勇者バーベキューマシン』の操作パネルに手をかける。
主電源のスイッチであるツマミを、『ON』の方向に回した途端、
……どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!
いよいよ精霊たちの暴走開始!?
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