表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/104

17 お背中流します! そして『よとぎ』もします!

 打ち上げ花火を横から見終えたティフォンは、「そうだ!」とさも名案が閃いたかのように声を反響させる。


「わたし、ユニバスくんのお背中を流してあげる! ううん、流させてほしいの!」


「なんでそうなるんだよ。さっき勇者の背中を流すのを、あんなに嫌がってたじゃないか」


「それは、わたしたち精霊のことを粗末にする勇者が相手だからだよ!

 わたしたち精霊のことを好きでいてくれるユニバスくんに、少しでもお礼がしたいの!

 ささっ、あがってあがって!」


 俺は半ば強引に湯船から引っ張り出され、洗い場に連行される。

 風呂用の椅子に座った俺の背中を見て、ティフォンは息を呑んでいた。


「お風呂に入っている時は気付かなかったけど……。

 ユニバスくんの身体って、なんでこんなに傷だらけなの……!?」


「ああ、いろいろあって付いた傷だよ。

 勇者パーティにいる時は俺がいつもオトリだったし、罠のかかった宝箱も俺が開けてたしな。

 それにパーティメンバーがムシャクシャすると、いつも俺のことをサンドバッグがわりにしてたんだ」


「そうなの!? それに、つい最近付いたばかりみたいな火傷跡もあるよ!?」


「ああ、それは城で働いていたときのヤツだな。

 当時の上司は嫌なことがあると、俺の身体にタバコを押し当ててたからな」


「勇者パーティもお仕事も、どっちも仲間なのに……。

 なんでそんな、酷いことを……!?」


「みんな言ってたよ、俺はキモい、って」


 すると俺の背中に、無限の柔らかさが生まれる。


 ……ぎゅっ!


 ティフォンは俺の背後から胸に手を回し、包み込むようにして俺を抱きしめていた。

 かつて勇者に、焼けた鉄を押し当てられて書かれた『無能』の文字に、頬ずりするティフォン。


「なんで……どうして……!?

 どうしてこんなになってるのに、トランスくんの焼印を消そうと一所懸命なの……!?

 ユニバスくんの身体についている火傷の跡のほうが、よっぽど酷いのに……!」


「俺の身体はどう扱われようと別にいいさ。でも魔導装置や精霊たちが傷付けられるのは嫌なんだ。

 ただ、それだけのことだ」


 ティフォンは顔をあげると、ぐしっ、と腕で拭う。

 そして決意を新たにするように、握り拳を固めた。


「よ……よぉーし! わたしが絶対にこの傷を消してみせる!

 今はまだ無理だから、いつか絶対に!

 それまでは、ユニバスくんの身体をごしごしして、少しでもキレイにする!

 地の精霊さんたち! ユニバスくんの身体をすみずみまでゴシゴシしましょっ!」


 湯船の縁に小鳥のように並んでいた地の精霊たちも立ち上がり、「おおーっ!」と拳を突き上げる。

 ただならぬ団結感に、俺は一抹の不安を覚えた。


「え、おい、背中だけじゃないのかよ。すみずみまでってどういう……」


「かかれーっ!」


 ティフォンの疾風のような号令一下、俺は精霊たちにまとわり取り付かれ、もみくちゃにされてしまう。


「く、くすぐったいっ! あっはっはっ! そこ、やめて! あっはっはっはっはっ!」


 俺は誰かに身体を洗われたことなんてなかったが、まさか初めての体験がこんな賑やかなことになるだなんて思いもしなかった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺は身体をピカピカにされたあと、ティフォンを残して先に風呂からあがった。

 相手は精霊とはいえ、年ごろの女の子といっしょに着替えるわけにはいかないからな。


 本当は彼女を先にあがらせるつもりだったんだが、


「女の子はいろいろ準備があるの。だから先に上がってて」


 と言われたので、お言葉に甘えることにしたんだ。


 浴衣を着て部屋に戻ると、そこにはおおきな布団がひと組だけ敷かれていた。


 ……なんだこれ?


 と思っていると、庭に面する引き戸がガラガラと開く。

 そして俺はとんでもないものを目の当たりにした。


 そこは縁側にあたる廊下だったのだが、おそらく村の者であろう若い娘たちが、白装束で正座していたんだ。

 彼女たちは一斉に、土下座のように頭を下げる。


「村をお救いくださったユニバス様に、夜伽にまいりました」


 言葉も出ない俺に、少女たちは肩をはだけさせながら、グイグイ迫ってくる。


「今宵はどうか、私たちの身体でお楽しみくださいませ……!」


 俺はもう喉に栓がされたみたいに言葉が出なくなっていた。

 人間相手だと緊張してどもるタチだってのに、さらに相手が異性となるともうどうしようもない。


 しかもこんなに複数相手だと、身体が石みたいに硬直してしまう。

 その体質のおかげで、勇者パーティにいた頃は魔導女と聖女にさんざんからかわれてきた。


 しかし今回はからかいではなく、本気(マジ)っ……!?


 女たちは獲物を狙う女豹のようなポーズで、俺の浴衣の帯を咥えてほどき、口でするすると脱がしはじめる。

 抵抗すらできない俺は、息のできない魚みたいに口をぱくぱくさせるので精一杯。


 そしていよいよパンツに手が掛けられ、今にもずり降ろされようとしていた、その時……!


 ……びゅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!


 突風が俺の横を通り過ぎていき、女たちをみんな吹き飛ばしてしまう。


「きゃあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 女たちは悲鳴とともに庭に投げ出され、半裸のまま丘から転がり落ちていった。

 俺の背後から、あきれたような声がする。


「まったく、油断も隙もないんだから」


 俺にとってその声は、天からの救いのように思われた。

 我ながら情けないことだが、俺は半泣きで振り返る。


「あ、ありがとう、ティフォ……!」


 部屋の入口に立っていたのは、たしかに風の精霊姫ティフォンだった。

 しかし浴衣どころか普段着ですらなく、ある装束(●●)をまとっている。


 そう、先ほど俺を襲った村娘たちと同じ、真っ白な……!


 彼女は部屋に入ってくると、布団の上ですっと膝を折った。

 足を揃えた正座で、三つ指ついて頭を深々と下げる。


 そして、いつもの彼女とは思えないほどにしっとりした声で、こう言った。


「不束者ですが、よろしくお願いたします」


「なんだよ急に、あらたまって……」


 すると、ティフォンはパッと頭を上げる。

 そこにあった顔は、紅葉が色づいたかのように染まっていた。


 唇もいつもと違っていて、桜の花びらのような、初々しいピンク色。

 清らかさの象徴のような存在が、ほころぶようにそっと開く。


 そして紡ぎ出された声は春風のよう。

 しかしその風に乗った言葉は、にわかには信じられないものであった。


「……『よとぎ』なら……わたしがしてあげる……。

 ううん、したいの! ユニバスくんの『よとぎ』を……!」

次回、ティフォンによる『ハートウォーミングよとぎ』!


「続きが気になる!」と思ったら、ぜひブックマークを!

「面白い!」と思ったら、下にある☆☆☆☆☆からぜひ評価を!


それらが執筆の励みになりますので、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス6巻、発売中です!
m7tr6rsj2ncxlnqu90ua4dlhhbp_1dow_ak_f0_78jq.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス発売中です!
ix0s40e57qxt33v43hvp6sa1b4tq_d3j_7n_53_a06.jpg liv1nc3gnnsjqxl9i33inre6rpy_nnp_3j_53_10vx.jpg 7torhnt1466d5k1v1a0yhxkg3yud_dnb_3k_53_15d4.jpg 3780l3ki5oa0e7a3cwgaa107gtbm_104l_3l_53_1547.jpg c2km7fnbuyxf9i1h9909diq55m1_313_3l_53_14fd.jpg d0t94jt64sntm8ydcomjfloiebe2_krf_3l_53_14k8.jpg bn203zyneufhihaxh3rm6a6whu7b_arg_3j_50_14h0.jpg
▼小説2巻、発売中です!
4qal7ucn4ecv3bmwhixjlinz1h24_1aru_3l_53_12uj.jpg ah438036f57n9yf3bm6i65zrj1za_pfu_3l_53_13p3.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] 確かよとぎって、寝所で女が男の相手をするんだよな。
[一言] 馬鹿にした言い方になってしまうけど コメディ感が強くて、頭空っぽにして読めました。 気持ちがのほほんとして、なんだかスッキリした。 ハーレムが嫌いなのでいつまで読んでいられるかわからないので…
[良い点] ユニバスってば、身体じゅう傷だらけなのに、精霊や魔導装置の事を気にかけるなんて…。なんで健気なの。(T_T)クスン こうなったら、ティフォンをはじめとする精霊たち、うーんとユニバスを甘やか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ