13 手のひら返しのリア充たち、しかし精霊姫のスパルタが炸裂
『湖の男』たちはニヤケ顔だったが、俺が指を鳴らして巨大なモーサンを釣り上げた瞬間、愕然とする。
「う、ウソ、だろ……!? 指を鳴らしてモーサンを釣り上げるだなんて、ありえねぇ……!」
「なんなんだ、あの漁法は……!?」
俺は心の中で答える。
「精霊漁法だよ」と。
「すごいすごいすごいっ! すっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~いっ!
こんなにおっきいモーサンがいるだなんて!
ユニバスくん、さっすがぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~っ!!」
ティフォンは俺の目の前で、ぴょんぴょん跳ねて大はしゃぎ。
フリルに包まれている胸が、別の生き物みたいにぷるんぷるん揺れている。
気がつくと湖畔じゅうの水着ギャルたちが集まってきて、いっしょになって飛び跳ねはじめた。
「すっごーい! こんなにおっきいの、初めて見た!」
「この湖じゃ、大きいモーサンが獲れるほどいい『湖の男』なんだよ!」
「あぁん、素敵! あなたはこの湖でいちばんの男よ!」
俺のまわりはどこもかしこもぷるんぷるんしていて、目のやり場に困る。
そしてとうとう、『湖の男』たちも大集結。
「すげえ、このモーサン、100kgもあるぞ!」
「勇者様の捕まえたモーサンを、軽くオーバーするなんて!」
「いやあ、さすがはユニバスさん! ひと目見たときから、ただ者じゃないって思ってました!」
「『ブレイブモーサン』をひと口食べるのが、俺たち『湖の男』の憧れだったんです!」
「うぇーいっ! ごちになります、ユニバスさん!」
ドサクサまぎれに、俺の獲った、というか水の精霊からもらったモーサンを食べようとするリア充軍団。
俺は流されるままだったのだが、ティフォンは違った。
「ちょいまち! なんであなたたちが食べようとしてるの!?
これはユニバスくんが、わたしのために獲ってくれたモーサンなんだよ!?」
ティフォンはリア充相手にも臆せず、ピシャリと言い放つ。
「そんなぁ、こんなにでかいんだから、みんなで食べたほうが絶対いいじゃん!」
「そうだよ! あんた、風の精霊なんでしょ!? だったら空気読むのも得意なんでしょ!?」
「そーそ! ここはみんなでパーッといこうよ!」
「うぇーいっ!」と勢いで押し切ろうとするリア充たちであったが、そうはティフォンが卸さない。
「だーーーーーーーめっ!!
だいいちあなたたち、さっきまでユニバスくんのことをさんざんバカにしてたじゃない!
だったら食べる前に、することがあるんじゃないの!? ん!?」
ティフォンは噛んで含めるような口調で、リア充たちを厳しく叱り付けた。
湖畔にいた男女を、管理人も含めて全員正座させ、何度も俺に向かって土下座させる。
「ゆ……ユニバス様! ば、バカにしたりしてすいませんでした!
もう二度と、あなた様のことをバカにしたりはしません!」
「ダーメ! 気持ちがぜんぜんこもってない! それに頭を下げるタイミングがバラバラじゃない!
もういちどやり直し! 完璧にできるまで、モーサンはあげないからね!」
「ゆ、ユニバス様ぁ! バカにしたりしてすいませんでしたぁ!
これからは勇者ではなく、あなた様のことを敬いますぅ!
そして、あなた様の伝説を語り継いでいきますぅぅ~~~~~っ!!」
俺はなんだか、教祖様にでもなったような気分だった。
ティフォンは全力土下座だけでは飽き足らず、ランキングボードの書き換えを要求。
湖の精霊から得た情報をもとに、勇者ブレイバンをランキングボードから消し去った。
1位 ユニバス様の『ユニバスモーサン』 100kg
2位 ユニバス様の『ユニバスモーサン』 70kg
3位 釣り人ホニャララの『キングモーサン』 62kg
『ブレイブモーサン』の名前が変わっているのも、もちろん彼女の指示。
俺は、ニッコニコの精霊姫とともに1位記念の真写を撮り、勇者のかわりに飾られることとなった。
それまでは勇者一色だった湖畔は、やがて俺一色に変わる。
その仕掛人であるティフォンはあたりを見渡して、「うん、こんなものかな」と満足げな表情。
その頃になるとリア充たちは、すっかり彼女に飼い慣らされていた。
「あ、ありがとうございます! ティフォン様!
ではこれで、伝説のモーサンを頂いてもよろしいでしょうか!?」
するとティフォンは、「うん、いいよ!」と天使のような笑みを浮かべる。
リア充たちがホッと安堵したのも束の間、悪魔のような一言が飛び出した。
「ただし、『皮』のところだけね!
実をいうとわたし、モーサンの皮って苦手だったんだ!」
「えっ……えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
その時、俺は思った。
俺が『精霊たらし』のスキルを持っているように、彼女は『人間きびし』のスキルを持っているんじゃないかと。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ティフォンは本当に、モーサンの皮以外は一切れも与えなかった。
しかしここまで来るとリア充たちは皮すらも有り難がるようになっていて、炙ってパリパリにして、拝みながら食べていた。
ティフォンは残ったモーサンはすべて切り身にして、馬車の台所にある、魔導冷蔵庫にしまう。
「これだけあれば、しばらくは食べ放題だね!」とウッキウキだった。
そのあと、俺たちは夕暮れ迫る湖を、褐色の男たちと水着ギャルたちに見送られながら後にする。
御者席で俺の隣に座っているティフォンは、やり切った表情で伸びをしていた。
「あーっ、楽しかったぁ! こんなに楽しかったの、生まれて初めて!」
「そんなに喜んでくれたなら、寄り道した甲斐があったよ」
「本当にありがとう、ユニバスくん! もう楽しすぎて、心もおなかもいっぱいだよ!」
「じゃ、あとは寝るだけだな。この近くの街か村で一泊するか」
「えっ? 街か村に泊まるの? 馬車にはベッドルームがあるよ?」
「馬車に泊まるのは、なるべく控えようと思ってるんだ。
普通の馬車ってのは中が狭いから、旅人は外でキャンプしたり、宿に泊まったりするからな。
もし俺たちが馬車の中で夜を過ごしているのを見られたら、勇者の馬車だってバレてしまうかもしれない。
そうなると、いろいろ面倒だ」
「あっ、なるほどぉ! わたしはユニバスくんと一緒だったら、どこで寝るのもへいきだよっ!」
「じゃあ、魔王討伐のときに寄った村がこの近くにあるから、そこに泊めてもらうとするか。
『井戸発祥の地』といわれる由緒ある村だから、変わらずに残っているはずだ」
「わぁい、さんせーっ! 井戸へ移動しよーっ!」
というわけで俺たちは井戸で有名な村、『イドオンの村』へと向かうことにした。
次回、井戸の村でさらなる大活躍!
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