12 リア充たちが絶対に無理だと言い切るなか、モーサン獲りに挑戦
ティフォンはまるで料理の神様でも見るみたいな目で俺を見ていた。
「ユニバスくんのバーベキューすっごくおいしい! こんなにおいしいもの、初めて食べた!」
「そうか、まだまだあるからいっぱい食べてくれ」
「うんっ!」
ティフォンは元気いっぱいに頷くと、食べ盛りの子供のようにはぐはぐむしゃむしゃ。
「はぐっ、このエビ、身がぷりぷりしてておいしっ! こっちの貝は、すっごいホクホク!」
周囲のリア充たちは何度も喉を鳴らしている。
タイミングが合うと、
……ごくりっ!
と大きな音となって、聞こえてくるほどだった。
彼らは自分たち目の前にもバーベキューがあるのに、すっかりほったらかし。
燃え上がる炎によって、真っ黒けっけに焦がしてしまっていた。
あんな強すぎる火力じゃ、おいしいバーベキューなんてできるはずもない。
炭火の炎で焼くのではなく、熱で焼くのがコツなんだ。
俺は勇者パーティでさんざん焼かされてきたので、調理の腕前には自信があった。
しかし俺の力なんてのは、あってないようなもの。
肝心なのはやっぱり、『炎の精霊』と『木の精霊』の存在に他ならない。
炎は木と合わさることにより、炭火となり、『おいしくしてくれる熱』を出すようになる。
これを『属性相生』と呼び、精霊というのは他の属性と掛け合わせることによりパワーアップしたり、新しい
能力を発揮できるようになるんだ。
しかし『相生』は『相克』にも等しいので、当の精霊はあまりやりたがらない。
普通の人間は、精霊たちが嫌がるのもかまわず無理やり『相生』させるのだが、俺はそれだけはしたくなかった。
『精霊たらし』のスキルで頼んで任意でやってもらったほうが、『相生』の効果は大きくなる。
俺はトングで食材を並べなおすついでに、焼き網の隙間からよびかけた。
「キミたちがいてくれるからこそ、最高のバーベキューができるんだ。ありがとうな」
すると返事をするように、炭がパチリと弾けた。
「お礼を言うのはこっちのほうだ! ここいらのヤツらは火をガンガンくべればいいと思ってるヘタクソばっかりで、ウンザリしてたんだ! なぁ、お前!」
「はい、あなた! ユニバスさんとまたバーベキューができるだなんて夢みたいですっ!」
炎と木の精霊のカップルは仲良く抱き合い、アツアツぶりを見せつけるようにこうこうと赤く燃えている。
俺もそのご相伴にあずかろうと思い、モーサンをひと口。
うん、うまい。
うまいけど……。コレはここの湖で獲れたモーサンじゃなくて、輸入モノだな。
ロークワット湖のモーサンは、身が引き締まってるのに柔らかくて、最高級のステーキみたいな味がするんだ。
これはこれでいいけど、せっかくティフォンがいるんだから、思い出として食べさせてやりたいな……。
この湖では素潜り限定ではあるものの、漁をしていいことになっている。
それで今になって気付いたのだが、かつて勇者がこの湖で釣り上げたことになっている、モーサンが伝説として残っていた。
モーサンの大きさのランキングボードがあって、1位は勇者がランクイン。
1位 勇者ブレイバン様の『ブレイブモーサン』 70kg
2位 釣り人ホニャララの『キングモーサン』 62kg
3位 釣り人ホニャララの『キングモーサン』 59kg
看板の説明によると、勇者ブレイバンは世界で唯一、70kg台のモーサンを釣り上げたという。
その功績を称え、70kg以上のモーサンを『ブレイブモーサン』と呼ぶようになったそうだ。
釣り上げた時の真写も展示されていたのだが、勇者パーティの中で俺だけが映っていない。
そういえば俺は旅の最中、ずっと撮影係だったからな。
俺はティフォンに言った。
「よし、ティフォン。これから本物のモーサンってやつを食べさせてやる」
「えっ? いまわたしが食べてたのって、ニセモノのモーサンだったの?」
「いや、ニセモノってわけじゃないんだけど、この湖で獲れるモーサンは、もっとうまいんだ」
すると、まわりにいたリア充たちからクスクス笑いがおこる。
「おい、アイツ、モーサンを獲るつもりらしいぞ」
「マジかよ、この湖は素潜り漁のみなんだぞ!
それにモーサンはすげー狂暴ってのを知らねぇのかよ!」
「そうそう、俺たちみたいに鍛え上げられた『湖の男』ですら、普通のモーサンを獲るのがやっとだってのに!」
「きっと勇者ブレイバン様の伝説を見て、あの子にいい所を見せようとしてるんだぜ!」
「あーあ、アイツ、モーサンにやられて死ぬわ」
「っていうかビビっちまって、溺れて死ぬのが先なんじゃねぇの!?」
「よーし、それじゃアイツがどんな死に方をするか賭けようぜ!
勝ったヤツが、あの子を自由にできるってことで!」
自称『湖の男』たちは、勝手にティフォンを景品にして賭けをはじめていた。
俺は湖のほとりでしゃがみこむと、独り言のようにつぶやく。
「久しぶりだな、ちょっと寄ってみたんだ。
またあの時みたいに、モーサンを分けてくれないか?」
すると、水面が笑った。
「あっ、ユニバスじゃないか! やっと来てくれたんだね!
ちょっと待ってて! ユニバスのために、誰にも獲らせなかったとっておきのモーサンがあるんだ!
危ないから、ちょっと離れてて! 安全なところまで行ったら、指を鳴らして知らせておくれよ!」
俺は「わかった」と頷き、ほとりから離れた。
指をパチンと鳴らすと、水面がボコボコと泡立ちはじめる。
次の瞬間、
……どっ、ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!
水しぶきが盛大に噴き上がり、2メートルはありそうな巨大な魚影が宙を舞う。
俺の足元にズダンと叩きつけられ、びちびちと暴れだす。
「えっ……えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
『湖の男』たちは、全財産を賭けたルーレットで『0』の目を引き当てたような、ありえないほどの絶叫を轟かせていた。
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