11 水着になった精霊姫と、いちゃラブバーベキュー
俺たちはフーリッシュ王国の国境をひとっ飛びし、隣国である『ワースワンプ王国』に着地。
そのまま太陽と競争するように街道をひた走る。
ティフォンは御者席から身を乗り出したまま、わぁわぁと歓声を上げていた。
「見て見てユニバスくん! あそこにも、たくさん池があるよ!
陽の光でキラキラ光ってて、すっごくキレイ!」
その池に負けないほどに、瞳を輝かせているティフォン。
彼女は精霊の中では、トップクラスの機動力を誇る風の精霊。
でもお姫様だけあって他の国には行ったことがないのか、見るものすべてが珍しいようだ。
「このワースワンプは池や湖が多いことで有名なんだ。
世界最大の湖もあって、海みたいに大きいんだぞ」
「海みたいな湖!? 見たい見たい見たーいっ!」
「うーん、それじゃ、ちょっと寄り道になるけど、行ってみるとするか」
「やったーっ!」
俺たちは本来のルートを少しそれ、『ロークワット湖』に着いた。
以前、勇者パーティとして訪れたときは静かな湖で、魚がたくさん獲れたのでバーベキューをやった覚えがある。
というか勇者たちはなぜかバーベキューが大好きで、ほぼ毎日のようにバーベキューをやっていた。
そして現在のロークワット湖は、勇者が魔王討伐の際に立ち寄った湖として名所となっていた。
リゾート地のように整備され、入口の看板は、水着姿の勇者パーティがバーベキューを楽しむ姿が描かれている。
敷地内ではその看板を真似するように、肌も露わな男女がバーベキュー用のグリルを展開していた。
あふれるリア充感に俺は引き返したくなったが、ティフォンがわくわくしているのでそうもいかない。
勇気を出して入ろうとしたら、中年太りの管理人に止められた。
「入場料は、バーベキューセットとかコミコミで、ひとり1万¥だよ。
水着の女の子がいるなら半額で、かわいくてスタイルもいい子だったら全部タダだよ」
管理人のふてぶてしい態度と、あまりのバカ高い値段に、俺は二重の意味でうろたえる。
「ふふっ、ふたり合せて2万っ!? そそっ、そんな金……」
「『勇者価格』ってやつだよ。あんたいい歳して、2万も持ってないのかい?」
そういえば聞いたことがある。
勇者とタイアップした施設は『勇者価格』となり、とんでもない価格設定になるということを。
「むうっ。ユニバスくん、ちょっと待ってて!」
ティフォンはそう言い残すと、停馬場に向かって風のように走っていく。
停めてある俺たちの馬車に飛び込んだあと、中で暴れているのか馬車がギシギシと揺れている。
「おまたせっ!」と戻ってきたティフォンは、華やかなフリルビキニに着替えていた。
清楚なかわいらしさと、健康的なセクシーさを兼ね備えたその姿に、俺と管理人は同時に見とれてしまう。
「お……お嬢さんだったらタダだ! タダでいいっ! ささっ、めいっぱい楽しんでいってくれ!」
「やったー! ありがとうおじさん! ユニバスくん、行こっ!」
風の精霊姫が湖畔に現れたとたん、一陣の風が吹き、男たちの視線は総ざらいにする。
ティフォンはご機嫌で、俺の前をお尻をふりふり歩いているのだが、行く手には褐色の肌をしたチャラ男たちが立ち塞がっていた。
「ねぇキミ、かわうぃーねー! どっから来たの!? 俺たちと遊ばない!?」
「ひとりだよね? おいしいバーベキューがあるよ!」
「見たカンジ、風の精霊だよね!? 精霊は、俺たち人間にご奉仕するのがなによりもの喜びなんだよね!」
「マジ!? それじゃ俺たちもいろいろご奉仕してもらおうぜ! んじゃ、行こっか!」
チャラ男は馴れ馴れしく肩に手を回そうとしていたが、ティフォンは寸前ですり抜ける。
風の精霊の特徴である長い耳をふわりとなびかせ、俺のほうに取って返した。
「ごめんね、わたしがご奉仕するのはユニバスくんだけなの!」
そして満面の笑顔で、俺の腕に抱きつく。
俺はナンパを追い払うための方便なんだと思い、「俺の女に手を出すな」的な雰囲気を装った。
チャラ男たちは俺の顔を睨みつけると、舌打ちとともに去っていく。
「もう、腕を放しても良さそうだぞ」と俺は言ったのだが、ティフォンは首をふるふるする。
「せっかくだから、このまま歩こうよ。ねっ、いいでしょ?」
「うーん、まあいいけど」
そして俺たちは湖畔を散歩した。
まわりはみんな水着だというのに、俺は油染みのついた作業服のままだったので、すごく浮いている。
ティフォンは全然かまわないようで、ニコニコしながら俺の腕にしがみついていた。
「あんまりくっつくと、匂いと汚れが付くぞ」
「ユニバスくんが、わたしたち精霊のために一生懸命がんばってくれた証でしょ? なら付いても平気だよ」
服の肩口に頬を寄せ、ニオイ付けするみたいにスリスリしてるティフォン。
そのくびれた腰、控えめに穿たれたおへそから、「きゅうん」と仔犬のような鳴き声がした。
俺は自分の腹を押えながらつぶやく。
「そういえば朝からなにも食べて無かったんだった。せっかくだから、バーベキュをやってみようか」
「ホントに!? やったーっ!」
「この湖は『モーサン』っていう、牛肉みたいな赤身の魚が獲れるんだ。それが絶品なんだぞ」
「うわぁ、楽しみっ!」
俺たちは湖畔の片隅に移動すると、バーベキューグリルを組み上げ、炭で火起こしする。
勇者パーティではバーベキューのセッティングは俺の仕事だった。
毎日のようにやらされていたので身体が覚えている。
バーベキューセットの食材はモーサンを初めとして、さまざまな魚介がセットになったもの。
俺が火加減を考慮して並べたそれらは、じゅうじゅうと音をたて、香ばしい匂いをあたりに振りまき始めた。
気がつくと、なぜか湖畔じゅうの視線が俺たちに集中していた。
俺はてっきりティフォンを見ているんだろうと思ったんだが、違った。
彼らの視線は、バターが溶けソースと混ざり合い、こんがりとした焼き色になっていく食材たちに釘付け。
「な、なあ……。あの海鮮、めちゃくちゃ旨そうじゃねぇ……!?」
「なんでだ……!? 食材は、素潜りで獲った俺たちのほうが新鮮なはずなのに、俺たちが焼いてるのとは大違いだ……!」
「見るからにぷりっぷりで、ジューシーそうで……まるで別モノじゃねぇか!?」
そこに、待ちきれない様子で「いただきまーす!」とティフォンがモーサンの切り身にかぶりつく。
アツアツをはふはふしながら頬張り、ごくんと飲み込んだあと、目をカッと見開いて、
「おっ……おいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
次回はついに、新たなる伝説誕生! ユニバスがついに勇者を……!
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