51 烈炎の精霊たらし
51 烈炎の精霊たらし
ガミメスが謝ったので、尻叩きをやめて解放する。
彼女はベッドに伏してわんわん大泣きしていた。
そして俺は、そばで固まっていた女王の手首を、ガッと掴む。
この国の女王は、額からタラリとひと筋の汗を垂らしていた。
「えっ……? ユニバス、まさか、私にも……?
い、いくらなんでも、私にはしないわよね……?
だって私は大人の女だから、お尻叩きなんて、子供にするような罰は……。
それに、女王の私を国民の前でお尻叩きなんてしたら、大変なことに……」
「俺にとっては、キミもガミメスも同じだっ!」
「いっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
絹を裂くような悲鳴と、バシン! という破裂音が交互に響き渡る。
天井には、真っ赤になってぷるぷる揺れるお尻と、女王の泣き顔がアップで映し出されていた。
「やっ、やめてぇ、ユニバス様ぁ! この模様は、すべての国民が見ているんですぅ! それなのに、お尻叩きだなんてぇぇぇ!」
「国民全員が見ているのか! なら、言ってやる!
おい! ヒートアイランドのみんな! 俺にとって大切なティフォンとイズミに手を出したらどうなるか、しっかり見ておくんだ!」
会場には何万という炎の精霊たちがいるが、火が消えたように静まり返っている。
「そして、ティフオンとイズミだけじゃない! ここにいるガミメスと女王も、俺にとっては大切な精霊だ!
だから言っておくぞ! このふたりに手を出した者は、この俺が許さない!
トイレの中に隠れていても見つけ出して、お仕置きしてやるっ!
俺がこの国からいなくなっても、女王に忠誠を誓い、この国を支えていくんだ、いいなっ!?」
「返事はっ!?」と怒鳴ると、「は……はいっ!」と空が鳴動する。
「そして、この国にいるキミたちも、俺にとってはかけがえのない精霊だ!
だから俺は、キミたちも守りたいんだ! なにかあったら、この俺に言ってくれ!
キミたちを傷付ける者は、この俺が絶対に許さない!
俺は……キミたちが大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺は尻をかき鳴らしながら、世界の中心で叫んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!
ユニバスさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!
爆炎が噴き上がり、天井を突き破って天をも焦がす。
ガミメスと女王は俺の足元にひざまずき、とろけきった表情をしていた。
尻をぶっってた俺の手を、愛おしそうに頬ずりしていたので、頭を撫でてやる。
すると母娘は甘えるように「くぅん」と鳴いた。
「ああっ、ユニバスさま……! 私たち母娘はもう、あなた様のものですっ……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日の夕方、俺はヒートアイランドをあとにした。
本当なら一泊していくところだが、馬車にティフオンとイズミを残したままなのが心配だったんだ。
そして炎の壁を出る直前まで、女王から手を握り閉められていた。
「魔導馬には、炎の精霊たちをたっぷり詰め込んでおきました」
俺が「ありがとうございます」と一礼すると、女王は悲しそうな顔をする。
「礼なんて、おっしゃらないでください。私はもう、あなた様の下僕なのですから。
そしてこの国にあるものは、もはやすべてあなた様のものなのですから」
「そんなことは……」と言いかけて、彼女の顔がくしゃくしゃになったので、言葉を選びなおす。
「この旅が終わったら、またこの国に立ち寄るよ。その時まで、キミが中心となって守っていてくれ」
女王は心底嬉しそうな顔をしていた。
「はい、仰せのままに、ユニバス様。ところで、これからどちらに?」
「ああ、次は金の精霊の国に行ってみたいと思う。ちょうど、懐かしい精霊にも会ったからね」
「そうですか。大臣たちの情報によりますと、トコナッツの姫君が、軍隊を引きつれて城を出たようです。
きっと、ユニバス様を探しているに違いありません。
この国にしばらく滞在すると情報を流しておきました。
姫君が来たときには引き留めておきますから、その間に、この国を出てくださいませ」
「何からなにまでありがとう。そのついでといっては何なんだけど、もうひとつ頼まれてくれないかな?」
「はい、なんなりとおっしゃってくださいませ」
俺は女王に頼み事を伝えたあと、炎の壁を抜ける。
すぐ外に停めてあったトランスの馬車が停めてあったのだが、そのまわりは大騒ぎだった。
「ちょ、やめてよ! わたしが熱いのが苦手だって知ってるでしょ!?」
逃げ惑うティフォンを、小柄な褐色の少女が追い回している。
少女は初夜の時のウエディングドレスではなく、精霊女学院の中等部の制服を着ていた。
赤い長髪をツインテールでまとめ、舌で唇のまわりを舐め回しながら、弾けるように笑っていたのは……。
それはぎれもない、炎の精霊姫、ガミメスっ……!
「きゃはっ! ざぁこ! ティフォンってばマジでザコいよねぇ~! うりうりうりっ!」
ガミメスは俺に気付くと「あ」と立ち止まる。
振り向きざまに、火花が散るようなウインクを飛ばしてきた。
「せっかくだから、あたしもついていこうと思って! だって、初夜をやりそこねちゃったじゃん!
一緒にいれば、いつで襲うチャンスがあるしね! よろしくね、ユニバス様っ!」