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48 ヒートアイランドへ

48 ヒートアイランドへ


 次の日の早朝。

 俺はトランスの馬車を飛ばしていた。


 トランスは地面を滑るように走る。

 だから普段はほとんど振動がないのだが、今はスピードを出しすぎているせいで激しく揺れていた。


 でも俺はトランスのお尻をさすりながら叫びまくる。


「た、頼む! トランス! もっと飛ばしてくれ!」


 俺の両脇に座っているティフォンとイズミが、残像を残すほどに上下にぶれながら言った。


「ね、ねえ、ユニバスくん、どうちゃったの!? なんでそんなに急いでるの!?」


「左様でございます! いきなりお城を出られて、逃げ出されるだなんて!」


 裁判が終わったあと、俺たちはトコナッツの王城に厄介になった。

 国王や王妃から堅苦しい食事に付き合わされたり、夜は精霊や人間のお姫様が押しかけてきて大変だった。


 いろいろあったけど、とにかくひと晩の宿のつもりだったんだ。


 次の日の朝、俺は朝食の前に、城のメイドが持ってきてくれた朝刊に目を通した。

 そして目玉が飛び出そうになってしまう。


 裁判の結果、オンザビーチは魔導女学院の理事長の座を降ろされることになった。

 かわりに前理事長である、ポーキュパインが復帰、という新聞記事があった。


 それは別にいいんだが、問題なのは、記事にあったポーキュパインのコメントだった。


『かつての這いのスキャンダルは誤解だった? ううん、アレは誤解じゃないよ。

 あの時は、ウチがユニバスを引っ張り込んだんだ。そう、ウチとユニバスは相思相愛だったんだよ。

 パパも公認の仲だから、今夜もいっしょに寝るよ』


 そして俺は理解する。

 彼女が昨晩、あんな扇情的な格好で俺の部屋を訪れたことを。


 クールな微笑みでインタビューに答えるポーキュパイン王女の隣には、満面の笑顔の国王が。


『勇者とポーキュパインの婚約は取り消した! あんなゴキブリのような男に、娘をやるわけにはいかん!

 これからはユニバスじゃ! ポーキュパインもユニバス殿を好いておる!

 我がトコナッツの次期国王は、ユニバス殿で決定じゃ!』


 俺がいつになく決死の逃走をしている理由が、これでわかっただろうか。

 俺はトコナッツ城にひと晩だけのつもりだったのに、国王と王女は永住させるつもりだったんだ。


 どうりで、王族しか入れない居住区に、俺を招き入れたわけだよ……!


 俺はまだ、ひとつ所に腰を据えるつもりはない。

 だってトランスを直してやらないといけないし、精霊たちとの約束もあるからだ。


 トコナッツの王城は今頃、俺がいなくなったことで大騒ぎになっているかもしれない。

 そのまま俺のことをあきらめてくれればいいが、大捜索が行なわれる可能性もある。


 追っ手が来る前に一刻も早く、ヒートアイランドに飛び込んでしまわないと。

 精霊の国に入りさえすれば、コンコントワレの時のように、なんとな逃げおおせるだろう。


 そして俺たちはついに、目的の地まで目前となる。

 遠方に現われたのは、天を衝くほどの巨大な炎の山。


 炎の山はバーナーのように絶え間なく火を噴き上げているのだが、その上空には島が浮かんでいた。

 その不思議な絶景に、ティフォンとイズミは目をまん丸にする。


「うわーーーっ!? なにあれなにあれーっ!?」


「もしかしてあれが、ヒートアイランドなのですか!?」


 俺は馬車のスピードを緩めずに答える。


「そうだ、あの炎の山がヒートアイランドだ! 上に浮かんでいる島には、王族たちのいる城があるんだ!」


「うわぁ、見るだけで暑そう! わたし、大丈夫かなぁ!?」


「あの炎は見た目よりも熱くないが、風属性には厳しいかもしれん!

 それに水属性は敬遠されるはずだから、ふたりとも、馬車の中で待機しててくれるか?

 馬車の中は耐熱になってるし、魔導冷却装置もあるから、暑くても平気なずだ」


「ううっ、ヒートアイランドの観光をしてみたかったけど、しょうがないかぁ……」


「はい、かしこまりました、ユニバス様」


 精霊姫たちが名残惜しそうに馬車の中に引っ込んだあとも、俺はひた走る。


 炎の山の周囲は、広大なる不毛の地だった。

 街や村どころか、人気もなく、草ひとつ生えていない。


 荒野のような道をひたすら進むと、山の麓にたどり着く。

 山は吹き上げる炎の壁に囲まれていた。


 炎の壁は近づくだけで威嚇するようなギラギラとした輝きと、むせかえるようなジリジリとした熱波を放っている。

 まるで、すべての生き物を拒んでいるかのようだった。


 山に向かって声をあげようとした瞬間、燃え盛るような真っ赤な装束をまとった者たちが出てくる。

 炎の精霊大臣たちだ。


 炎の精霊大臣は、コンコントワレで会った水の精霊大臣と同じでイケメン揃い。

 水の精霊大臣はスマートでクールなイケメンだったが、炎の精霊大臣たちはマッチョで、体育会系のイケメンだった。


 その声も、ごうごうと燃え盛るように大きい。


「待ちわびておりましたぞ! ユニバス様! どうぞ、お入りください!

 精霊王がお会いになりたいそうです! 『精霊王の間』へご案内します!」


 コンコントワレと同じく、いきなり精霊王との謁見。

 ヒートアイランドの王は女王なのだが、おそらくコンコントワレと同じで影武者なのだろう。


 俺はもう驚くこともなく、精霊大臣たちに促されるまま炎のなかに身を投じる。

 この国に来るのは二度目なので、ためらうこともない。


 炎の壁は招かれざる者に対しては超高温で、骨も残らぬほどに焼き尽くすが、招かれた者には温かく感じるんだ。

 壁を抜けた瞬間、俺は夜の山にいた。


 あたりを照らしていた炎はなく、さっきまで肌を焦がすようだった灼熱も消え去っている。

 まるで別の場所にワープしたかのように、空気は寒々としており、静かだった。


 濃い霧に覆われた、深い森が広がっている。

 傾斜の険しい獣道になっていて、遥か上方に、暗幕に穴を開けたようなポツリとした光が見えた。


 その光に向かって歩き出す。

 フクロウの鳴き声と、木々を踏み折る音だけがあたりに響く。


 寒くて、吐く息が白い。

 身体をさすりながら山を登っていく。


 しばらく進んでいくと森は開け、岩場に出る。

 霧は晴れ、空気はさらに澄みわたった。


 吸い込まれるような星空が上空に広がっている。

 目印にしていた光は、小さな焚火だった。


 星明りを頼りに、さらに歩いて焚火に近づいていく。

 やがて、パチパチと枯れ枝が弾ける音と、あたたかいオレンジ色の光が迎えてくれた。


 それは今にも消えてしまいそうな炎だったが、俺の身体はすっかり凍えていたので、砂漠のオアシスを見つけたような気分になる。

 ホッとひと息つきながら、焚火の前で腰を降ろした。


 そして俺は、独り言のようにつぶやく。


「あなたが、炎の精霊王なのですね」


 パチリと炎が弾け、あたりを明るく照らす。

 まるで、俺が一発で正体を見破ったことを、感心しているかのようだった。


『そうじゃ……。ワシがこそがこの世界の炎を統べる、精霊王じゃ……!』

書籍版の2巻が3月10に発売となります!


発売前ということで、2巻に登場するヒロインたちのキャラクターデザインをお見せしたいと思います!

もうすでに表紙でお目見えしている炎の精霊姫、憎らしかわいいオンザビーチ、クールかわいいポーキュパインを大公開!

このあとがきの下をご覧ください!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >国王や王妃から堅苦しい食事に付き合わされたり~ 世間的に目上の人からのもてなしを堅苦しいとか地の文で漏らす時点でとんだ礼儀知らずですよ? そんなに堅苦しいのイヤだったら裁判終わった…
2022/04/09 07:03 川上 龍造
[気になる点] ここでのチンケなトンズラをいつにない決死の逃走と表現するなら 序盤のフーリッシュ王国での精婚式ぶち壊しての逃走は余裕の逃亡劇だったってか? どっちにしても自分の浅はかな行動で 国の一…
[気になる点] 一発で正体を見破ったことを、感心しているかのようだった 万物に宿る精霊たちとコミュニケーションとれるスキル持ってるなら 正体見破れて当たり前じゃないのか? 当たり前の事について感心寄…
感想一覧
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