01 コミュ障を理由に勇者パーティを追放、そのうえ仕事まで…
俺は、『精霊たらし』というスキルを持っていた。
これは、万物に宿る精霊たちとコミュニケーションができ、また彼らと友好的に接することができる能力のことだ。
そのスキルを見初められ、俺は勇者パーティに所属する。
魔王の討伐には精霊王たちの助力が必要不可欠で、その橋渡し役を務めていたんだ。
そして勇者は無事、魔王を退けることに成功。
俺たちは旅立ちの地であるフーリッシュ王国へと凱旋を果たすことになる。
しかしその王都の入口で、俺は勇者をはじめとする仲間たちにこんなことを言われた。
「おいユニバス、お前は凱旋から外れてくれ」と勇者。
「だってお前、キモいから」と戦士。
「普段は全く喋らないクセして、物とか動物に対してはやたらとお喋りになるのがキモいって言ってんの」と魔導女。
「ずっとドン引きだったの、わかりませんでしたかぁ?」と聖女。
俺は「そ、そんな……」と言い返すのに精一杯。
それがまた、彼らを苛立たせたようだ。
「ほぉら、そうやってお前、どもるじゃん」
「なのに人間以外と話してるときはスラスラ喋ってるからドン引きだよ」
「どーせ、あーしらと話すのが嫌だったんっしょ」
「きっと、心の中で私たちのことを見くびっていたんでしょうね」
完全なる言いがかりだった。
俺は笑われるのを覚悟で、一生懸命言葉を紡ぐ。
「お、おおっ、俺は、ひひっ、人と話すのが苦手で……。
で、でもっ、ちゃんと役割は果たしてじゃないか……。
そそっ、それなのに、今になって仲間はずれだなんて……」
しかしその思いも通じず、仲間たちはどっと笑う。
「ぎゃははははは! 『おおっ、俺は』だってよ!
っていうかお前、たいしたことしてねーだろ!」
「そ、そんな……! みっ、みんなが乗った『魔導馬』だって、この俺が整備を……!」
魔導馬というのは『魔導装置』の一種で、魔力で動くカラクリ仕掛けの馬のこと。
生身の馬よりもずっと速く、険しい山や水の中も走ることができ、疲れを知らない。
魔王討伐の過酷の旅において脚代わりになるだけでなく、幾度となくピンチを救ってくれた俺たちの仲間だ。
しかし仲間たちはそう思ってはいなかった。
「なにが整備だ! 魔導装置なんてのはなぁ、こーやって蹴っ飛ばせば直るんだよ!」
……ガンッ!
勇者は隣に待機させている魔導馬を蹴り上げる。
魔導馬は無反応だが、俺にはその内に宿る精霊たちの悲鳴を確かに聞いた。
「ややや、やめろっ! 痛がってるじゃないか!」
しかし仲間たちはこぞって魔導馬を足蹴にする。
「金属のカタマリが『痛がってる』だってよ! バカじゃねぇの、コイツ!」
「おらおら、止めてほしかったら普通にしゃべってみろよ、このどもり野郎がっ!」
「ちょっとぉ、触るんじゃねぇーよ、このどもり野郎っ!」
「あなたのような下賤の者が、大聖女となる私に触っていいと思っているんですか!?」
……ドムッ!
俺は聖女から股間を蹴り上げられ、その激痛のあまり膝から崩れ落ちる。
それでも脚を掴んですがる俺を、ヤツらは取り囲んで足蹴にした。
「金属のカタマリを蹴るよりも、こっちのほうがずっと面白ぇや!」
「おらおらおら、泣け! 喚け!」
「そうだ! コイツってさぁ、悲鳴もどもるのかなぁ?」
「なら、試してみましょうか、せぇーのっ!」
……ドムゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーッ!!
厚底ブーツのストンピングがめりこみ、俺は意識を失う。
気がつくと凱旋は終わっていて、俺は誰もいない門の片隅に、粗大ゴミのように置き去りにされていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
勇者パーティはみな王国の主要職についていた。
戦士は将軍となり、魔導女は宮廷賢者となり、聖女は大聖女となった。
勇者は、次期国王として姫と婚約を果たす。
そして俺はというと、魔導装置の整備係として王国で働いていた。
なんの名誉も地位もない、一介の作業員として。
それでも魔導装置の整備というのは、いちおう宮廷魔術師の一種である。
しかし派手な攻撃魔術や奇跡のような力で、華々しく活躍する本職の魔術師たちとは違い、底辺の扱い。
でも俺にとっては『精霊たらし』のスキルが使えるので、居心地のいい場所だった。
俺は新しい魔導装置の開発や、従来の魔導装置の整備を積極的に行ない、自分なりに王国の未来を担う一員として貢献した。
……つもりだったのだが、ある日、上司に呼び出され、
「お前、クビ」
「え……ええっ、どどっ、どうして……?」
「だって気持ち悪ぃんだもん。魔導装置の整備っつたら普通は工具でやるもんだろ?
それなのにお前ってば、生き物みたいに装置に話しかけてんだもん」
「ででっ、でも、ままっ、魔導装置のこしょ、故障は……」
魔導装置の故障は機械的なものではなく、精霊の不調がほとんどだと俺は訴えたかった。
でも最後まで言い終えることはできず、途中で遮られてしまう。
「お前さぁ、いつも小声でボソボソ喋ってて、なに言ってんだかぜんぜんわかんねーんだよ。
それにさぁ、まわりの職員から苦情が来てんだよね。
挨拶もロクにしねぇくせして、魔導装置にはめちゃくちゃフレンドリーだって」
俺が挨拶をしなくなったのは、挨拶したときのどもりを笑われるようになったからだ。
「それとさぁ、お前、作った魔導装置に自分の名前を入れてただろ、『ユニバス』って。
アレ、納品されるたびに俺が消してたんだよね。
うちの部署で作った装置で、良くできてたヤツは俺が作ってたってことにしてたから」
「え……」
俺はもう、頭の中が真っ白になっていて、なんの言葉も出てこなくなっていた。
「お前はたしかにいい腕してたよ、お前の作った魔導装置は、どれもみんな大好評だったしな。
なかには他の部署でも量産されて、王国じゅうに配備されてるスタンダードになってるものもあるくらいだ。
その評価を横取りしてた俺は、明日から魔導装置の大臣になれたってわけ!
どもり野郎だから放っといてもチクられることはないと思うけど、念には念を入れとこうと思ってね!」
上司は……いや、ヤツはおどけた顔で俺に手刀を切る。
「ごっつぁんっす、ユニバスくん! そしておつかれっす、ユニバスくんっ! それじゃ、元気でねーっ!」