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トランスポーターシリーズ

天災のトランスポーター〜出会いの書〜

作者: 藤咲晃

 旧時代は宇宙から飛来したエネミーによって終わりを迎えた。

 エネミーの襲来によって国家は壊滅し、遺されたのは荒廃した大地と空を覆い隠す砂塵と僅かばかりの資源だけ。

 幸い人類の絶滅こそ免れたが、世界崩壊で絶滅していればどんなに救いだったか。

 遺された資源は僅か、それに対して人類は何億と生存していたのだから、資源を巡り争うのは必然だ。

 エネミーを撃退して、人類同士が争い、またエネミーが襲撃に来る。そんな事を繰り返している内に人類の人工が激減したのだから愚かとしか言いようが無い。

 ただ、それは数百年前の記録データであり、今は少しだけマシと言える。


「……地下プラントの建設が功を成し、人類の絶滅は免れたって訳か、それでもクソタレな状況には変わりはないけどな」


 ライクは悪態を吐く。


「そう言うな少年よ。いや失礼、君は本日付で立派なハンターになる訳だ」


 凛とした険しい顔付きの女性──サーシャが肩を竦めた。

 

「別にハンターを志した訳じゃない……そもそもハンターってのは名ばかりの職業だろう?」


 地上に蔓延るエネミーを討伐する勇敢な戦士。とは名ばかりで増加した人口を間引くための方便だ。


「……そう言ってくれるな、間引きは必要なのだよ。アナグラを存続させるためにはね。……まあ君の体内ナノマシンは極めて戦闘向け、地上に放り出した所で生き延びれるだろう」


「冗談言え! 多少丈夫だからってな、化物の超高周波ブレードにバターの様に溶け切られるのがオチだ!」


「知っての通りエネミーは外来宇宙から飛来した化物。最初は地上の生物に酷似していたらしいが、連中は兵器を取り込み体を機械化させてしまったんだ……人類の業に終止符を打ったとも言えるがね」


「禁止兵器すら取り込むエネミーは文字通り化物だ。そもそも数百年前に人類進化計画なんざ無ければ多少はマシな結果だったんじゃないのか?」


 旧人類は叡智の結晶として人類を次のステップに進化させる事を計画した。

 簡単に言えば人の体に超小型のナノマシンを植え付け、体内で繁殖させ総合的な身体強化と擬似的な不死生を得ようと目論んだ。

 しかし予期せぬ事態が起こった。体内のナノマシンが異常活性し、人類に異能と呼ばれるオカルトに近い能力を与えるに至る。

 世界政府の意向により計画は中断され凍結されたが、エネミー襲来時に全国の六十箇所のナノマシン研究施設が爆発炎上。

 結果保管されていたナノマシンが空気中に散布され、人類とエネミーは意図しない形でナノマシンを体内に取り込むことなった。


「君が把握している通り、ナノマシンはエネミーさえも進化させてしまった。……だが、ナノマシンが無ければとっくに人類は絶滅していただろうさ」


「……こんな荒廃した地球に取り残され、少ない資源を奪い合いエネミーに脅える生活を送る羽目になった俺達は紛う事なき不幸児だろ」


「君の言い分も理解は出来るが賛同はできないよ。生き残った以上、それは義務であり責務だ。……旧人類は生きたくとも生きられなかったんだ」


 体内にナノマシンが定着しなかった者は、激変する環境に体がついて行けず相次いで死亡してしまった。

 

「……ある意味では人類進化計画は成功したんだな」


 大昔の馬鹿共に最大の皮肉を込めたライクに、サーシャは肩を竦め腕時計に視線を落とす。


「無駄話が過ぎたな……もう時間だ。 君との話し合いは実に有意義な時間だったが、それももう終わりだ。……まあ、私も鬼ではない、選別として僅かなレーションとマグナムを贈ろう」


 そう言ってサーシャは腰のホルスターごとライクに手渡した。

 どっしりとした重量に、大型経口と判断したライクがホルスターから銃を取り出す。

 それは銀色のフレームに六発装填式のマグナム。

 しかしマグナムと言うよりはハンドガンに近いデザインだ。

 ライクが知っているマグナムは、フォルムがコンパクトで銃口が短い物。現在サーシャを始めとした治安維持部隊の照準装備の一つだ。


「これは……旧遺物のデザートイーグルというヤツか?」


「違う。アナグラ科学班が蓮日の徹夜とその日の思い付きで製造した……デスペラードと呼ばれる銃だ、カッコいいだろう?」


「名前だけはな……って、今なんて言った?」


 聴き間違えでなければろくでもない過程で製造された銃という事だけは理解が及ぶ。

 サーシャはふくみ笑いを浮かべると、皮肉たっぷりに、


「さあ君の旅立ちの時だ! 精一杯足掻いて生きて人生を謳歌しなさい!」


 ライクの背中を蹴り押してリフトに乗せた。

 リフトは地上のゲートまだ上昇すると、全体を大きく迫り上げ、排出口からライクを地上に放り出す。

 砂塵にまみれた地面とキスをしたライクは、口の中に入った砂を吐き出し、ゴーグルで視界を護る。


「……最悪だ、実に最悪だ。……今度会ったら倍返してやる!」


 砂塵に覆われた地平線を眺め、ライクは歩き出す。

 立ち止まっていたらそれこそエネミーの餌だ。

 当ては無い、何処に行けば良いのか分からない。

 それでも目的は茫然と理解できる。


「エネミーの素材を換金して生活していくしかないか。……その為にはプラントに向かう必要は有るが──」


 そもそもライクはアナグラ以外のプラントの所在地を知らない。

 プラントの所在地はアナグラ上層部に独占され、厳重保管されているのだからライクに知る術は無かった。

 そういえば、顔馴染みが上層部に探りを入れ、数時間後には物言わぬ廃人と成り果て、地上に放り出された事がある。


「……マジで殺す気だよ」


 延々と歩き続ける中、汗を掻き喉が渇く。

 しかし水はボトルに入った数滴だけ。

 成る程、アナグラ上層部は生き延びる事を良しとはしない様だ。

 ライクは悪態気味に小石を蹴ると、小石が放物線を描き──半機械獣の頭部にコツンと当たった。

 ロケットブースター付きの強化装甲と多数のミサイルポットを備えた虎……それは紛れもないエネミーだ。データだけで知るエネミーがライクの目前に居る。


「あはは、ご機嫌よう? 何? 寝てたら石ころが当たった? そりゃあ道端で寝てるお前が悪い」


 ジョークを奏で、全力で走り出すライク。


「────!!」


 機械音混じりの咆哮を上げた虎が、ライクの前方に回り込む。

 それは一瞬の事だった。虎は器用にロケットブースターの出力を調整して、小刻みに移動するとライクの目の前で鮮やかなターンを決めたのは。


「じょ、冗談キツいぞ。……逃げられそうにないよな……やるしかないよな……!」


 ライクはホルスターからデスペラードを抜き放ち、銃口を虎に向けた。

 彼は躊躇も無くトリガーを引く。

 すると、カチンと音が響くだけで弾丸が放たれない。

 嫌な汗がライクの額から流れ、彼は今度こそは、と五回トリガーを引く。

 カチンと音が五回鳴るだけで弾が虎に放たれる事は無かった。

 いよいよライクの全身から嫌な汗が流れ、彼はシリンダーを開くと──

 装填されていたのは空薬莢だ。これでは弾はなど撃てる筈がない。


「あのクソアマあああー!! 何が良き旅だ! デッド・エンドだろうがああああー!!」


 叫びながらライクは逃げ出した。

 しかし虎はミサイルポットの標準をライクに合わせ、ミサイルが放たれる。

 背後から迫る数多のミサイルにライクは掌を向け、


「クソタレがああああ! これでも喰らえ!」


  放射線状の稲妻がミサイルを撃ち落とす。

 彼はそのまま稲妻を薙ぎ払い、次々とミサイルを撃ち落とすと、虎が爆風の中からライクに前脚を振り払った。

 避ける暇も無く、横腹を虎の前脚が深く突き刺さり、ライクを吹き飛ばす。

 放物線を描き、三、四度地面に弾かれたライクは、血反吐を吐き出し虎を睨む。


「あ、肋骨にヒビが入りやがった! チクショウ、俺は終わりか? 終わりなのかクソタレ!」


 悪態を吐き、最後の抵抗と言わんばかりにライクは体内ナノマシンを活性化させて放電を放つ。

 放電の中を平然と進む虎が笑う。

 お前はここで死ね、と嘲笑うかの様に機会女混じりに喉を鳴らす。

 そして虎はゆっくりと、ライクに牙を向けると──虎の胴体が大きく爆ぜた。

 

「そこの君! 生きたいなら速く立って手伝う!」


 可憐な声が聞こえ、ライクは周囲を見渡す。

 すると白髪の小柄な少女の姿にライクは衝撃を受けた。

 珍しいヘソ出しにスパッツの上に短パンを着こなし、長髪の白髪が風に揺れる。

 その光景にライクは眼を奪われ、胸が高鳴る──一目惚れだ。彼は名も知らない少女に一目惚れしたのだ。

 少女は虎に向けて、グレネードランチャーのトリガーを引く。

 放物線を描いた徹甲弾が虎の頭部で爆ぜる。

 ライクは巻き込まれないと、その場から足をバネにして距離を取った。


「アンタは命の恩人だ! 援護ってのは雷ぐらいしかできねえが任せてくれ!」


「充分よ!」


 ライクは掌で雷を作り出す。今度は球体に、それも大きく、あの虎を呑み込む程の球体を。

 体内ナノマシンが興奮した様に活性化し、ライクの体内を暴れ巡る。

 暴れるナノマシンにライクの身体は悲鳴を上げ、苦痛が伴う。

 それでもライクは止めない。苛立ちと生きてサーシャの顔面に拳と鉛玉をプレゼントするために。


「くたばれクソトラ!」


 ライクは雷の球体を虎に投げ付けた。

 絶えず徹甲弾による足止めを喰らっていた虎は、雷の球体を避ける事が出来ず、ソレに呑み込まれる。

 

「───!?


 踠き苦しむ虎の姿に、少女はライクの手を引き走った。


「どうして逃げる!?」


「無理よ、あの虎は不死だからどう足掻いても倒せない。だから逃げるのが吉よ!」


 ライクと少女は走った。兎に角虎の索敵範囲から逃れるために必死に足を止める事なく走り続けた。

 十キロの距離を走った頃。


「……ふう、もう大丈夫そうね。アイツは索敵範囲が狭いから」


 少女は足を止めて、後方に眼を向ける。

 虎が追って来る気配は無い。追って来るならロケットブースター音ですぐに分かる。

 

「本当に大丈夫なのか? アイツは素早いだろ」


「エネミーと言っても稼働できるナノマシンには限界が有る。特にロケットブースターの燃費は最悪だからね」


「そうか……ところでアンタは? こんな可愛い子は産まれてはじめて見たけど」


「あらそれは当然よ。なんたって私は自他共に認める美少女だからね……でも名を名乗るなら先ずは其方からが礼儀じゃなくて?」


 自身の容姿に絶対の自信を持ち、控えめというよりはあまりにも哀しい胸を主張する少女にライクは頭を掻いた。

 

「悪いね、礼儀知らずで。……俺はライク。ライク・シュプリトンだ」


「ライクね。……私はラナ・アルバースよ」


「それで……ラナは此処で何をしてるんだ?」


「北のフロンティアシティを目指して旅をしているの」


「フロンティアシティ? 地下プラントとは違うのか?」


「ええ違うわ。立派なドームに包まれた地上プラントよ。他にも移動式プラントなんかも在るけどね」


 自身の知らない事を彼女は多く知っている。

 それを知り得る知識は何処で身に付けたのか、どのぐらいの期間を地上で過ごしたのか。

 ライクの思考はラナで夢中だった。命の恩人の力になりたい。

 そう考えるのは人として必然とも言えるだろう。あわよくばお近付きになりたい打算込みで。


「なあアンタの旅に同行して良いか? 正直言って右も左も分からないんだ」


「ふーん、君は間引き政策が盛んなプラントから来たって事ね……確かあのポイントの近くにはアナグラが在った、君は其処から追い出されたで間違いないわね?」


「……驚いたな、当たりだ」


 ライクの目が大きく見開かれる。

 何も情報を与えて無いにも関わらず、彼女は経験と記憶だけで此方の状況を看破したのだから驚かずにはいられない。


「君のナノマシンの異能は雷……少なくともあの虎を足止めできる程の実力を発揮できる。……うん、私はいい拾い者をしたわ!」


 流石神に愛された幸運、と自画自賛するラナにライクは肩を竦める。


「それじゃあ決まりだな、よろしく頼むぞラナ」


「こちらこそよろしくライク」


 こうしてライクとラナは、北のフロンティアシティを目指して出立した。

 しかしライクは程なくして知る事になる。自身の預かり知らない不幸振りとラナの破天荒な性格を。

 きっと彼は遠くない未来で、この出会いに後悔するだろう──


 


続編となる連載版は、ボチボチ書いて投稿する予定。


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