ラブミーラブユー 二色目
※本作は下記作品の“公認クロスオーバー作品”となっております
《原作》
三色ライト『(元)魔法少女が(やっぱり)変態でした。』
華永夢倶楽部『ラブミーラブユー』
前作: https://ncode.syosetu.com/n1056gl/
「はい輝夜ちゃん、あ〜ん♡」
「あ、あ〜ん……」
……はぁ、また灯が輝夜にイチャイチャし始めた。しかも今日で六回目だからただのバカップルにしか見えない。いつも真面目な輝夜も一旦スイッチが入ると周りが見えなくなっちゃうから、ここまで来ると私はただの空気と化す。
「どう、すごく美味しいでしょ? 今晩の夕食も私の自信作なんだよ!」
「うん、どれもとても美味しいですよ。灯が作った料理は、いつ食べても最高の料理ですよ」
「うひゃあ‼︎ 輝夜ちゃんからまた一つ高評価頂きましたぁ〜‼︎!!」
はぁ〜、目の前に私がいる事を灯は覚えてくれてるのかな……?
「あっ、ごめんねブラッディ。今日はもう明日までずっとこのテンションだから…… また明日、大学で会おうね。おやすみブラッディ」
「……うん。おやすみ」
良かった、覚えてくれてた。それだけでも嬉しい。
でもこれ以上は見てられないから、さっさと百合園荘を後にして家に帰ろう…………
「……………………」
ここが初めての人もいるだろうから、一応みんなの為に自己紹介。私は【吸血姫】。またの名をブラッディ・カーマ。百合園荘に住んでいる二人の女の子が住んでる世界とは違う世界で生まれ、あっちの世界で育った魔族だ。
こっちの世界に来たのは転校や転居などの柔らかい理由で来たワケではない。およそ二年前、この街にはかつて数多くの変態魔法少女がいた。私はあっちの世界を統べる王のわがままじみた命令でこっちの世界にやって来た。
当初の目的としては「魔法少女を全員倒す」だったが、貧血や低血圧な私にはそんな派手な任務は当然無理。もし仮に倒せたとしても、せめて指で数える程だけ。
その目的の途中で出会ったのが、森野灯と美山輝夜の二人だった。彼女達とは最初は戦闘で出会い、ちゃんと出会ったのは高校への転校時に。それから二人とはすぐに仲良くなって、今に至る。今の私にとって二人は守るべき親友でもあり、一生の宝物でもある。
もう任務を遂行する必要の無くなった私には、こっちの世界でやるべき事がある。それを悔いのない様にしていきたい。そうやって生きている。
「…………ここでいいかな。『翼』」
ここが私の本来の居場所、「あっちの世界」こと魔道国。とは言っても既に滅びたも同然の過疎っぷりはもう見飽きた程。
魔道王様はもうここにはいない。理由は敵対していた国の牢獄で二百年間の服役をしているから。向こうの国を侵略する目的で争って捕まったから、当然仲間である私も服役の対象になった。
ちなみに私の場合は少し特殊な刑罰で、あと百年経ったらそこへ百年間投獄される。それまでは「こっちの世界」こと人間界で沢山の人間と触れ合い、自分がかつてしようとしていた事に対して改めて考える時間としての執行猶予が設けられた。
「……………………」
魔道王様の椅子にそっと手を触れる。随分と放置されてたから、また埃を被っている。
「……掃除、今日もしないと。魔道王様の為にも」
二百年後にまた二人でここに暮らす為にも私は掃除用具一式を手にし、傷一つ付けないよう慎重に椅子の埃を落としていく。
「……うん、綺麗になった」
今私がいる城には誰も住んでる者はいない。誰か一人魔道国側の魔族がいたんだけど今はもうここにはいないから、城の景観から内装までの維持は全部私一人でやっている。もしここにいたら無理矢理にでも掃除をやらせたかった。
城の掃除なんて一日じゃ全部出来ないし辛くて大変だけど、やめたいと思った事はない。
だって二人で一緒に罪を償って牢獄から解放された後に二人で一緒にここで暮らす為にも、私は毎日欠かさず掃除をしている。
「……そういえば、灯と輝夜をそろそろ魔道国へ招待しないと」
近々、灯と輝夜を魔道国へ招待する約束をしている。二人とも大学で色々あったし、私からの日頃の感謝としてはタイミングも何もかも丁度いい。
「……そう言えば、もうすぐ灯の誕生日パーティかぁ。たまには私から二人を誘ってみようかな」
今日、つまり十月一日は灯の誕生日だったはず。二人が揃って休みの日になる人為的奇跡の日を利用して、私が二人を誘って魔道国へ軽い旅行をする。
いいね、我ながら完璧だと思う。
「……そう言えば、こういう展開ってアニメ版リリチルの第六話みたい」
作中で女の子の主人公が初めて意中のヒロインの家に上がって、夜がふけるまで遊ぶシーンがあった。私は今、まさしくそれに似た様な事をしている。あぁ、思い出しただけで二人の笑顔が目に浮かんでくる…………
「……となると、今の大浴場ってどうなってるのかな?」
もし灯達がここに泊まるとなると、絶対に忘れてはいけないのが大浴場の掃除。人間達にお風呂は必要不可欠な存在。
しかし、ここで私に試練が訪れる。
「不覚…… 今まで大浴場なんて来た事が無かったから盲点だった。吸血姫である私じゃ水に触れられない。それに多湿な環境すらもアウトだし……」
よく店先で見かける漫画だとハーブを混ぜて中和させたり、吸血鬼の力を限りなく捨てていたから何とか浴室に入れたとか、そんな人間を捨てた様な業を見せている。
でも、私はそんな人間離れした事は出来ない。
というか、そもそも私は人間じゃない。
「でも掃除は絶対しないと。きっと灯達はここの存在を知ったら輝夜と二人きりで入りたがるはず……」
本当は私一人でここを掃除したい。もちろん灯と輝夜の為に。けど私は最後までお風呂掃除が出来る自信が無い。もし私一人で掃除するとなったらブラシだけで済ませるか、天井ギリギリまで飛んで真上からバケツ一杯の水を撒き散らすしか体質的に方法がない。
「……ううん、どれも駄目。やっぱりやるからには最後までしないと」
となると、灯と輝夜以外の人間の誰かをここに呼んで手伝ってもらうしか方法がない。今の私なら、それが簡単に出来るはず。
「……灯にバレなければ良い。バレなければ、ね」
私は一度こっちの世界に戻り、記憶を頼りに一気に八王子まで飛んだ。目的地は八王子の高校、そこに私と最近知り合った友達がいる。
「……………………」
ちょうど下校時間になったのか、生徒がぞろぞろと玄関から出て来た。私は電柱の陰に隠れてあの子が出てくるのをひたすら待つ。
「……あっ、出て来た」
その子は、いつもの人と一緒に下校している。
……むしろ好都合。私はすぐに二人の背後にまで駆け込み、様子を伺う。
『明日ね、家に誰もいなくなる時間があるんだよ。風玲亜ちゃんは家を空ける時って怖くない?』
『私は昼なら平気ですけど、夜はちょっと…… 知らない人や空き巣とかが不法侵入してきたりとか考えると、少し嫌ですね』
『だよね〜、私もそういうのイヤだもん。だから私は大人になっても、夜遊びとか会社の呑み会には手を出さないって決めたんだ‼︎』
…………どうしよう、話しかけるタイミングが見つからない。
今日の天気が曇天なのがせめてもの救いだけど、それで日光が遮断された訳じゃない。
「…………ッ」
身体中に刺される様な痛みが段々と蓄積され、耐え切れなくなってきた。
……話しかけるなら、今しかない。
「…………ねぇ、そこの二人とも」
これでも、大きめの声で話しかけたつもり。あんまり自信はないけど。
『あれ、今後ろから声が……?』
目の前の子達がキョロキョロして私を捜している。今私には時間がないから、二人の制服のスカートを軽く引っ張って存在をアピールした。
「あっ、ブラッディ‼︎ 久しぶり〜‼︎」
「……うん、久しぶり」
今、私を持ち上げて高い高いしてるテンションが高い子は月宮あかり。大学のオープンキャンパスの日に出会って、その日からよく電話する仲になった。
「お久しぶりですね、ブラッディさん。大学は今日休みなんですか?」
あかりの隣にいる顔立ちが良くて凛とした人は日向風玲亜。あかりとの正式な彼女で、私とは軽くお話したくらいしか面識がない。でもお互いに友達関係だし、たまにだけど電話だってしている。
「っていうかブラッディ、星乃川市まで結構距離があるハズなんだけど…… どうやって来たの?」
「……まぁ、軽くひとっ飛び」
「その割には、荷物がなさ過ぎません? 観光目的とかではないんですか?」
「とりあえず、陽の当たらない所で話すから私について来て」
全身に走る激痛を必死に耐えながら、やっと安全そうな日陰に入り改めて話をした。
「ねぇブラッディ、今日なんか様子がヘンだよ? 何か相談事とかだったら、遠慮なく言ってね」
あかりの優しさを耳に入れながら、話の内容を一度頭の中で整理した。
「ねぇ、二人とも…… 本題に入る前に、まずは私の事をちゃんと知ってもらいたい。最後まで聞いてくれる?」
あかりとフレアに、まずは自分が人間じゃない事。そして住んでる世界の事を話した。
あかりはオープンキャンパスの時に半分気付いていたらしいから特に動揺しなかったけど、フレアには自分の正体を初めて明かしたから、案の定かなり驚いていた。
「まさかブラッディさんが夜の魔物だったとは……」
「……その、今まで隠しててごめん。こんな事話しても誰も信じないだろうから」
「まぁ、ブラッディの言う通りだよね。こんな隠し事ってアニメみたいだもん」
確かにあかりの言う通り。普通の人間に「私は魔族だ」なんて、信じてもらえない。
私の場合、運が良かったんだ。
「それで、あかりとフレアには手伝ってほしい事がある。協力してくれるとありがたい」
「私達に協力してほしい事……?」
二人が真剣な眼差しでこっちを見てくる。なんか壮大なスケールを想像してそうな空気だから、早めに明かさないと……
「……私の城にある、大浴場を掃除してほしい」
「大浴場……?」
あかりとフレアが声を揃える。私は二人に自分の体質の事や理由などを伝えると、二人とも快諾してくれた。
「よしっ、私と風玲亜ちゃんに任せて!! あまりの綺麗さに目を丸くさせるから‼︎」
「……うん、期待してる」
そしてもう一つ、あかり達にはどうしても伝えないといけない事が。
「あと、向こうの灯達も呼ぶ予定。今日が灯の誕生日だから、魔道城に招待しようかと」
「えっウソ!? 灯さんって今日が誕生日なんだ‼︎ 私も十月一日が誕生日だよ‼︎」
「ちなみに、あかりさんも私も今年で一六なんです。なので私達もうすぐ成人になります」
「…………偶然にも程がある」
何これ、灯とあかりって領域とかそういうのを超えた同一人物だったりするの?
……でも灯はかつて変態魔法少女になってた過去があるから、そこがあかりとの相違点かな。テンションの高さはお互いに譲らないけど。
「それじゃあ、午後五時頃にあかりの家に集合って事で」
話しがまとまった所で二人とは一旦別れて、私はまた星乃川市へ戻っていった……
それから三人であかりの家にお邪魔して、部屋まで案内してもらった。あかりとフレアの両親にはそれなりの理由を作って私の行動が怪しまれない様徹底した。
周りに人がいない事を確認してから二人を魔道国へ連れて行く為のゲートを作り出す。
二人は驚きながらも私の後ろについて来てくれたから、すんなりと早く魔道国へ行く事が出来た。
「おぉ〜、ここがブラッディの生まれ故郷かぁ〜‼︎ 思ってたより何もないトコなんだね〜」
「すみません、あかりさんが失礼な事を……」
「……いや、私もそう思ってるから大丈夫」
……さてと。城の目の前に来たものの、大浴場までは距離があるから二人にそれを説明しないと。
でも、その前に…………
「ねぇ二人とも、目の前にあるのが私の城。今は訳あって私だけの城になってるけど、理由は聞かないでほしい」
「うん、分かった」
「分かりました」
……説明すると長くなるし、これはバッサリカット。
「それじゃあ、ついて来て」
城の大広間にある私のソファーに座るあかりとフレア。あかりは椅子のフカフカ具合に興奮して、フレアは掃除道具を取り出している。
「ほっ、ほっ。スゴイスゴイッ、このソファーがトランポリンみたいに跳ねるよ‼︎」
「あかりさん、少し子供っぽいですよ」
「……まぁ、壊さなければ問題ない」
そもそもここって悪魔達が使う物しかない城だし、普通は人間が使っても壊れないはずなんだけど……
あかりが次々と物を手に取り始めた。
「おぉ〜、コレなんだろう? ブラッディの読みかけみたいだけど」
「それ、私が愛読してる魔界の本。人間には一文字も読めない」
たとえ知識が豊富な人間でも読めないから、解読目的については大丈夫なはず。
「えぇ〜っと、えぇ……?」
……ほら、やっぱり。
「ん〜…………」
あかりなんかに読める訳ない本を、せめて一文字でもと必死で解読しようと見つめてる。無駄な事を……
「あっ、なんかコレ……」
……ん、なんかあかりが本の持ち方を変えた。
……なんかドヤ顔してるし、気持ち悪い。
「バオウ・ザケルガ‼︎‼︎」
……なるほど、あかりがしたい事が何となく分かった。
「あかり、それはただの戯書。魔術書とかじゃない」
「あっ、そうなの? 赤い本だったからもしかして〜って思って…… ほら、ここ一応魔界だしさ」
ねぇどうしよう、あかりの言ってる事が全く理解出来ない。
「……もしかして、本物の呪文を唱えたいの?」
「うん‼︎」
「…………諦めて」
「あぁっ、やっぱり‼︎」
これだけは諦めて、あかり。呪文が記された本は書庫に行けば山程あるけど、そもそも人間にはどれも読めない。
たとえもし一冊でも読めたとしたら、あかりは既に人間じゃないって事に…………
「準備出来ました、ブラッディさん。いつでも行けますよ」
「了解。それじゃあかりも大浴場に行くよ、その本はそこのソファーに置いといて」
「はーい……」
……さてと、大掃除を始めようかな。
「ねぇブラッディ」
「……何?」
「ブラッディは水が駄目なのに、どうして大浴場に入ってるの?」
「まだ湿気が無いから。でもすぐに出る」
「あかりさんは私に任せて下さい。ブラッディさんは、私のカバンに入ってる道具の装飾とケーキの仕上げをお願いしますね」
「……了解」
大広間に戻ってフレアのカバンの中身を取り出すと、クラッカーやパーティー用の飾りが所狭しと詰め込まれている。
改めて言うけど今日は十月一日、灯とあかりの誕生日。
「……天井が高過ぎて、飾っても見えない」
次の道具は誕生日プレゼント。これなら、ここで手渡せそう……
「あとは、掃除が終わったら一旦あかりの家に戻って……」
あかりの両親には、私の家でお泊まり会と言って二人の両親を納得させている。なので向こうの世界に戻ったら二人の両親に会わない様、最低限の滞在時間で用事を済ませないと大変な事になる。
最悪の事態にならない様、絶対に避けないといけない。
「……私、何も出来てないんじゃ」
大浴場はあかり達に任せてる。装飾は城の天井が高過ぎて飾れなかった。灯の誕生日ケーキを私が一から作ったとしたら、きっとケーキとは思えない造形の何かが完成する。だから私はイチゴやチョコプレートを飾る担当をしている。
だとすると、今の私は役立たずなんじゃ……
いや、でも待って。よく考え直すと私にしか出来ない事がある。
「…………灯と輝夜を魔道国へ招待出来るのは、ブラッディ・カーマだけ」
確か向こうの世界ではもうすぐ夜の六時頃。きっと灯なら料理をしてる頃のはず……
「……あかり、フレア。ちょっとここを空けるから」
二人には何も言わず、窓から飛び出してゲートに戻り星乃川市へと一気に飛び出した…………
さてと。星乃川市に戻れたのは良いけど、急いで百合園荘に戻らないと灯と輝夜の間に割り込めなくなる。
出来れば間に合ってほしい。
「……灯、輝夜」
灯は料理の途中だった様で、味見をしていた。輝夜は見た感じ、具材に包丁を入れている。
「ど、どうしたのブラッディ? 忘れ物したとか?」
「違う、灯と輝夜に用がある」
「私達に、ですか……?」
灯と輝夜が料理の手を止め、私を見る。
「夕食を食べ終わったら、私に連絡して。魔道国へ行くから」
「えっ、ちょっと急過ぎない⁉︎ でも行くよ、絶対‼︎」
……行けるんだ。さすが灯、行動力だけはすごい。
「それじゃあ、私は外で待ってる」
百合園荘の外でひたすら待つ。スマホであかり達に連絡しようとしたけど、魔道国には電波が無い。
……しかたない、また向こうに戻らないと。
“まさかこんなに早く嘘を吐く事になるなんて…………”
とりあえず、灯達がもうすぐ来る事をあかり達に知らせないと……
「…………あかり、フレア。ちょっと来て」
大浴場を掃除しているあかり達を一度呼び寄せる。そして二人にもうすぐ灯と輝夜がこっちへ来る事を伝えた。
「いよいよだね。私達の出番が」
「はい、少し緊張しますが精一杯役目を務めますね」
「……ありがとう二人とも。それじゃあ、あかりとフレアは着替えて定位置について」
『了解‼︎』
あかり、フレア、そして私の三人で計画した森野灯の誕生日パーティ。今までのと比べたら小規模になるけど、灯の為なら私は……
灯に「おめでとう」って、何度でも言う。十年後も、百年後も。
「ブラッディ、こっち準備出来たよ!!」
「こっちも準備出来ました。いつでも行けますよ」
「……それじゃあ、目を瞑って」
二人が目を閉じたのを確認してからゲートを作り、手をとって魔道国にある私の城へと招待した。
「さぁ、目を開けて。私の城に着いたから」
「どれどれ………… うわっ⁉︎ デカッ‼︎ これ全部ブラッディの城なの⁉︎」
「……うん、正確には魔道王の城だけどね」
「こ、これは私の想像以上に大きくて立派な城ですね……」
灯と輝夜は辺りをキョロキョロ見回している。もしかしたら何かないのか探してるだろうけど、面白い物なんて実際には何もない。あるのはたった一つ、虚無だけ。
「さぁ、そろそろ門をくぐるから付いて来て。メイドが灯達を歓迎するから」
私がメイドと言った途端、灯が強く反応した。
「この城にメイドがいるの⁉︎ って事は私達、お嬢様じゃん‼︎」
城に入ると、二人のメイドが深々と頭を下げて私達のお出迎えしてくれる。
『お帰りなさいませ、お嬢様。そしてお嬢様のお連れ様も遠くからお越し頂きありがとうございます』
うん、二人の息はピッタリ。流石は私仕込みのメイド、気品がある。
「いえいえ〜、私はただお城に遊びに来ただけで…… とにかく、頭上げて結構だよ!!」
『かしこまりました、それでは……』
二人のメイドはゆっくりと頭を上げる。ちなみに私は目の前にいる二人のメイドの正体を知っている。何故ならメイドの正体は…………
「灯さん、輝夜さん。お二人に会うのはオープンキャンパス以来ですね‼︎」
「お久しぶりです。灯さん、輝夜さん」
あかりとフレアだから。
「えっ、え…… えぇー⁉︎」
うるさい声をあげながらもガッチリとあかりに抱き付く灯。って、結構ややこしい説明になってきた……
「久しぶりだねっ‼︎ えっ、何っ、何で二人がここにいるの⁉︎」
「それはですね…… 灯さんが今日誕生日だとブラッディから聞いたので、風玲亜ちゃんと一緒にお祝いに来たんです‼︎」
「というわけで灯さん、お誕生日おめでとうございます」
「あかりちゃん、風玲亜ちゃん……」
溢れる涙を堪えながら、灯が笑顔を見せる。
「みんな、私の為にここまでしてくれて…… どうもありがとう……‼︎」
「……それじゃあ、まずは灯の誕生日ケーキを公開」
あかりが生クリームを作り、フレアが形を整え、私がデコレーションした特製の誕生日ケーキ。それを見せると、灯は無邪気な子供の様な表情でケーキに目が釘付けになってしまう。
「灯、お誕生日おめでとう。今年で何歳?」
「ふっふっふ〜…… なんと今年で森野灯は一九歳になりました‼︎」
「……お酒はまだ一年待ってからだから」
「分かってるって、二十歳になったら輝夜ちゃんと呑むんだから!」
「えっと、私お酒はちょっと……」
灯の急な振りに輝夜があたふたしてる。なんかこうして見てると、二人がお酒を呑んでも大して変わらなさそう……
「あのっ、灯さんってお酒呑む予定なんですか?」
「うん、呑めたら呑むよ! コンビニでお酒を少し買って、輝夜ちゃんと一緒に呑んで、ね…………?」
その後は言わず、あかりにアイコンタクトで会話する。逆にその後のセリフを察するなんて、あかりにはまだ難しいと思うんだけど……
「私と風玲亜ちゃんは将来お酒を呑むかどうかは分かりませんけど、こうして五人集まってお酒を交わしながらお話とかしてみたいです……‼︎」
「良いですね! そういう発想あかりさんらしくて好きですよ……!」
「えへへ〜、でしょ?」
……五人で酒、かぁ。
私もその五人の中に入ってるって事は、やっぱりあかりとフレアは私の事を…………
「でも、ブラッディは血しか飲めないから隣でただ見るだけになるんじゃ……」
灯、ちょっと黙ってて。
「そんな事無いと思いますよ、灯さん‼︎ ドラキュラを倒すゲームではドラキュラが飲酒するシーンがあるんです。なのでブラッディも本気を出せば、お酒くらい呑めるはずです‼︎」
「いや、流石に無理」
それはゲームの話。映画でもありそうな描写だけど、私にお酒は無理。
っと、本命のアレを忘れてたね。そろそろ時間も丁度いいし灯達もそういう雰囲気みたいだから…………
「ねぇ、灯」
「ん、もう出番なのブラッディ?」
……あかりじゃない。
「輝夜、灯。あかりとフレアからもう一つサプライズがあるから付いて来て」
「あっ、もしかしてお風呂とか⁉︎」
……この人超能力者か何かなの?
「灯、ブラッディ達が目を逸らしてますよ」
「あっ…………」
今さらもう遅いけど、あらゆる状況をまとめると流石にバレても仕方ないかな。
とりあえず仕切り直し。あかりとフレアには改めて灯と輝夜を大浴場に案内してもらう。
「お待たせしました。ここがこの城の大浴場になります‼︎」
あかりの声に合わせてフレアが大浴場への扉を開く。そこに広がる大浴場の蒸気が私達を襲った。
と言うかコレ、もう私一切近付けないんだけど。
「うわっ、ブラッディ?」
悪いけどあかり、タオルを貸して……
「……これは、ただの魔除けだから」
「蒸気が悪魔呼ばわりされてる⁉︎」
灯と輝夜の反応は想像以上に想像以上。映画でしか見た事ない広さと本物ならではの存在感に興奮を隠せないと見た。
「見て見て輝夜ちゃん‼︎ 泳げる広さだよ‼︎」
「お風呂で泳がないで下さいね、もう大人なんですから……」
……何だか二人が大はしゃぎしているところを見ていると、今までの努力に対する達成感をしみじみと感じる。
「そうだ、あかりちゃんと風玲亜ちゃんも一緒に入ろうよ! お互いに今日一日がんばった自分にご褒美って事でさ‼︎」
「……灯は今日何か頑張ったの?」
「大学の予習をして、講義にも真面目に参加して…… あとはエッチの勉強もしたよ‼︎」
あ〜ぁ、灯がヘンな事を言い出した所為で、あかりが顔を真っ赤にしちゃった。
「エッ、エッチの勉強って…… まさか身体の開発とかですか⁉︎」
……前言撤回、あかりもそんなに大差無かった。
「じゃあ、私は皆が上がるのを待ってる。好きなだけ入ってて大丈夫だから」
あかりとフレア、そして灯と輝夜の四人が裸で大浴場を満喫している様子を見届けながら、私は脱衣所を後にした。
「……そうだ、寝室のチェックもしておかないと」
四人でお風呂タイムを充実している間を活かして、私が昔から使ってた寝室を点検も兼ねてやって来た。
「崩れそうな所とかあったら灯達が安心して眠れないから、厳重にチェックしないと……」
あらゆる場所を念入りに見たけど、特に危険と思う箇所は無い。
“……良かった、灯達が安心して眠れる”
ちょうど時間もたっぷりあるだろうから、少し休もうかな。少し疲れたし夜は一人の時間になるだろうから……
「……………………」
大広間に戻り、ソファーに横たわって目を閉じる。たまにソファーから転げ落ちて痛い目に遭うけど、慣れれば割と快適に眠れる様になった。
かつての魔道国では有名だったサキュバスが長い年月をかけて書き記したと言われる、何千年も前の淫書を読む。
人間界の書店では絶対に販売出来ないレベルの性的な描写が目立つけど、いざ深く読むとそれらには納得のいく理由や行動原理があって決して悪くない出来だから面白い。
俗に言う「スルメ」の本。
私的には本当はリリチルを読みたいけど、全巻を向こうに置いて来ちゃったから仕方なくこっちを読んでいる。
しかもリリチルの最新刊である第一九巻が昨日発売されたから、そういう意味では後悔している。いちファンとして、発売日に買って読むのは常識でありマナーでもある。
「それにしてもおかしい、何故リリチルは五年もアニメ三期制作を発表しないんだろう…… こんなにいい作品なのに」
そんな事を考えていると、今読んでる本が読み終わったのと同時に灯達の話し声が聞こえてきた。
「……おかえり」
「ただいまブラッディー! いい湯だったよ〜!」
「……それは良かった」
そのまま灯達四人を寝室へ連れて行き、しばらくのお布団トークが始まった。
「まさかあかりちゃんと風玲亜ちゃんがブラッディと手を組んでたとは思わなかったよ〜。最初会った時ホントにメイドだと思ってたんだもん」
「私もです。あかりさんと風玲亜さんがここに来てるとは思いもしませんでした……」
「いや〜、私達は学校の帰り道にいきなりブラッディがやって来て『手伝って』って言われたので…… しかも灯さん達には内緒と言われたので、こうなっちゃいまして。なんかゴメンなさい……」
「いやいや、私達に秘密だったんならそれで良いよ。こうしてあかりちゃんと風玲亜ちゃんに会えた訳だし、魔道国にも来れたし‼︎」
……うんうん、やっぱり女の子同士の会話は聴いてるだけでも癒される。ここにいるのが幼女ならもっと良かったけど、贅沢はいけないよね。灯達を幼女に脳内変換すれば良いだけの話。全然余裕。
もっと癒されたいんだけど、あと数分にはこのトークも終わりになるのがオチ。何故ならここには彼女がいるから…………
「そうだ、灯さんの誕生日は今日だと分かったんですが輝夜さんの誕生日っていつでしょうか?」
「……………………」
「あっ、もう寝てますね。輝夜さん……」
輝夜は夜更かしが出来ないから、灯から何かされない限りすぐに寝落ちする。本当ならここでトークが終わるはずなんだけど灯がそうさせない。
「あらら…… 輝夜ちゃん、先に寝ちゃったね。じゃあ私が代わりに教えるね。輝夜ちゃんの誕生日は十一月七日だよ」
「へぇ〜…… あっ、そういえば風玲亜ちゃんの誕生日ってさ!!」
「私の誕生日は十一月十一日ですから、輝夜さんとは四日程違いますね」
あっ、今なんとなく灯が言うセリフが分かった。
「そっかぁ、じゃあその日になったら私と輝夜ちゃんのメイド姿を披露しよっかなぁ〜‼︎ 今日の分のお返しって事で‼︎」
……まぁ、大体合ってた。
「えっ、でも大学が……」
「大丈夫‼︎ そこは無理して行くから‼︎」
「そこは無理しないで下さいよ‼︎」
灯とあかりが楽しく会話しているけど、隣でただ聴いてるだけになってたフレアの目つきが段々と虚ろになってきた。
「あっ、風玲亜ちゃんもしかしてダウン?」
「は、はい…… すみませんあかりさん、お先におやすみなさい……」
「うん、おやすみ風玲亜ちゃん」
フレアは目を閉じて数分後に寝息を立て始めた。そしてしばらくの間、私と灯とあかりが互いに目を合わせる。
「……………………」
普通に喋れば良いのに誰も喋らず、ただ互いを見つめ合って謎の勝負を始める。
「……………………」
灯も、あかりも意地を張って口を開かない。しかも灯なんて喋りたそうにプルプル震えている。
“なんか、私が一言喋れば始まりそう……”
でも、どうやって?
……じゃあ、叫ぶとか。いやいや、まず私自身の喉の構造上叫べない。昔ディスポンに追われてた時は叫んでたけど、今この状況では本気で叫べない。
でも、一応それなりに叫べば二人ともそれにつられて喋りだすかも…………
「…………ど」
……クールになれ、ブラッディ・カーマ。
「ど、どっひゃーー……?」
私、一体何やってんだろう……
あまりのバカバカしさに、最後ハテナを付けちゃったし。
「どうしたの、ブラッディ? オバケがいたとか?」
灯は一体、どこをどう解釈したらそうなるの……
「もしかして私達の空気を考えて変な事をしようとしたけど、自分がやってる事のバカバカしさに途中で気付いて恥ずかしくなったとか⁉︎」
あかりの場合は何さ、私の心でも読んだの?
「……いや、さっきのは忘れて」
「いや、簡単には忘れられないよ……」
「いや、簡単には忘れられないよ……」
灯とあかりが完璧に口を揃えて言う。ホント二人ってどうでも良い事だけ覚える記憶力があるから厄介だ…………
「じゃあ、それなら『血の薔薇』で強いショックを…………」
「やめてソレ‼︎ アレ当たったら物凄く痛いんだからさ‼︎」
「サ、サングレ……?」
「聞かない方が良い。その方があかりの身の為」
「あ、ハイ……」
……まぁ、冗談だけどね。今のは灯に対するブラックジョークだから。あかりは知らなくて良い。
「……それにしても、何だかこうして五人で布団を囲んで寝ていると女子会みたいですね!!」
「……先に二人寝たけどね。でも、確かにそれは言えてる」
「こういう時にする会話と言ったら、やっぱり好きな人とか――――」
あかりの口がピタリと止まる。どうやら思い出したみたいだね、私達はもう既に好きな相手を知ってるって事に。
「……そうだった、私達とっくに好きな人を教えてるんだった。という事で灯さんにパスします」
「えっ⁉︎ ここで私に振るの⁉︎」
灯は少しアタフタしたかと思えば、すぐに切り替えて私達に質問をしてきた。
「じゃあさ、新婚さん気分でお互いの好きな人の耳元で『おやすみ』って言ってから私達も寝ようよ‼︎」
「おぉ、それはすごく良いですね!! じゃあ私は風玲亜ちゃんの耳元で……」
「私は輝夜ちゃんにだね♡」
灯とあかり、二人がそれぞれ好きな人の耳元に口を寄せて色っぽい息遣いでそっと囁く。
「…………おやすみ、輝夜ちゃん」
「…………風玲亜ちゃん、おやすみ♡」
さて、良いもの見れたから私も空気を読んで目を閉じて寝るフリしようかな。人間みたいに熟睡は出来ないけど仮眠くらいなら出来る様になった。これも勉強の成果。
「…………おやすみ。灯、あかり」
「おやすみ、ブラッディ……」
「おやすみなさい……」
二人の寝顔を少しだけ見て、無防備な寝顔を堪能してから私は布団に潜り込んで目を閉じた。
……朝になった。夜に一度も眠くならない私が当然一番に起き上がる。
多分、今の時刻は朝の四時半過ぎ。送り迎えとかも入れるとやや遅刻気味になる。
「…………」
灯はまだ無防備に眠っていて、毎日見ていても全然飽きない。他の皆も同じくらいに無防備なんだけど、灯の方が断然無防備に見える。
だって、誰よりも幸せそうな笑顔で眠ってるから。
「……起きて灯、早く帰らないと講義に間に合わない」
「……んん、もう朝?」
何回も揺らしてやっと目覚めた。他の皆は私が何もせず起きるから比較的楽に感じる。
いい加減、灯は朝の五時頃に目覚まし無しで起きてほしい。
「お、おはようございます…… 灯さん」
「灯、おはようございます」
輝夜は当然一人で起きて、あかりとフレアも一人で起きるとすぐに自分達から朝の身支度を始める。私視点での予想だとあかり達二人の将来は安泰だね。
……うん、二年後がとっても楽しみ。
それから朝の身支度と片付けを済ませ、それからあかり達をそれぞれの家へ送り届けた。念の為に周りの景色も覚えておいたから、今後何かで役に立つはず。
「……お待たせ。それじゃあ帰るよ」
「いや〜、楽しかったね輝夜ちゃん!」
「え、えぇそうですね…… あかりさんと風玲亜さんに会えるとは思いませんでしたし、こうして魔道国に来れたのも貴重ですし…… 私も久しぶりに楽しめました」
「ふ〜ん…………」
……おっと。輝夜の最後の発言の所為かな、灯が少しだけ拗ねた顔になっちゃった。
「…………そうはさせないから」
「えっ?」
「輝夜ちゃんは、これからもっと楽しい事をしなきゃいけないんだよ?」
「あっ…………」
輝夜が灯の言い回しを理解し、顔を赤くしながら俯いてしまう。
……まぁ確かに昨日は一度もしてないから、灯がああなるのも少し分かってた。
「大学から帰ったらすぐえっちしようね、輝夜ちゃん♡」
顔を赤くしながら頷く輝夜を見てると、たまにリア充カップル以上の何かを感じるのは私だけなのだろうか?
出来れば気のせいであってほしいんだけど、どうやらそうはいかない様だね。実際に二人で結婚もしたいみたいだし、二人の子供とかも……
「……………………」
「ん? どうしたのブラッディ?」
「なんでもない。本当になんでもない」
……まぁ、これ以上は野暮だよね。
「二人とも、着いたから早く大学に行くよ」
講義が始まるまで時間がない。だから出発前に百合園荘の部屋の玄関にあらかじめ荷物を用意しておいた。
「守屋さんッ、行って来ます‼︎」
「あぁ、行ってらっしゃ〜い」
「頑張って二人とも。走ればギリギリ間に合う」
「ブラッディ基準で応援しないでよ‼︎」
「……あ、ごめん。忘れてた」
「とにかく急ぎましょう……‼︎ 休まず走れば間に合いますから‼︎」
「うぁ〜、また魔法少女になりたい〜……」
灯がヒィヒィ言いながらも走り、輝夜は爽やかに走り、私は灯と輝夜に合わせて二割ダッシュ。こういう三人揃って本気の全力ダッシュで大学に行く日常、たまにはこういうのも悪くないんじゃないかな?
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