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ナチュライル  作者: 織星伊吹
一章 西暦二〇〇三年 七月

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第九話 ナチュの陣


 地区センを出ると、辺り一面夕色の空が俺たちの姿を照らした。

 AくんとBくんは家の門限が4時半らしく、一足先に別れた。空と俺たちも別れることにしたが――空が再び声をかけてきた。まさか椎名に……しかし、俺の予想はうまい具合に外れた。


「――お前たち……なんか飼ってるよね」


「……なんのこと?」


 とりあえずポーカーフェイスで貫き通す俺。しかし周りを見ると嘘が下手糞なやつらばっかりだった。俺はこの先不安でしかたなかった。


「……こう、恐竜みたいな不思議なの。青岬のバッグに入ってるんでしょ、見せてよ」


 やはり試合中に見られていた。俺は観念して人気のないところで空にナチュをお披露目した。


「みゅう!」


 ナップサックから飛び出したナチュが空に飛びついた。思いのほか懐いているようで、空の顔を短い舌でぺろぺろと舐めている。


「うわっ! なんだこいつ……舐めてきた」


 空はくっついてくるナチュに戸惑いつつも、満更でもない表情だ。


「あーあ、結局秘密を知ったのは五人になっちゃったなあ……」


「秘密基地の座布団増やさないと!」


 美羽は脳内で秘密基地のレイアウト変更中らしい。


「秘密基地?」


「うん。こいつのことはおれたちだけの秘密なんだ。知っちゃたからには一緒に秘密を守ってもらわないと……。新入り歓迎会も交えて詳しいことは明日説明するよ」


「みゅう!」


 ナチュも新入りの空を歓迎してくれているらしく、嬉しそうに鳴いた。


「これからよろしくな、藍染」


「…………ああ」


 その日は地区センで解散となり、ナチュは当番だった俺が家まで連れて帰った。

 家に着くと俺はすぐに風呂に入ってべとべとの汗を流した。ベットに倒れこむと、枕で遊んでいたナチュが俺に顔を擦り付けてくる。


 テーブルの上には今日やるはずだった宿題がページを開いたまま放置されていた。


「はあー、すっかり忘れてた……やりたくねー」


「みゅう?」


 俺は身体を起こして昼に放棄した算数のドリルを手に取った。


「あれ……? もう終わってる……」


 やった記憶もないが、既に宿題はすべて終わっていた。


「おかしいな、絶対やってないんだけど。でもおれの字だな……これ」


 とても不思議に思ったが、俺は辻褄よりも結果を信じた。


「まあいっか……終わってるんだからラッキーじゃん。知らぬ間にやってたんだよねきっと」


 俺は眠たい目を擦りながら、そのままベットで休むことにした。


 * * *


「あたしチーム名がほしい」


 そう発言したのはいつも突発的な妙案を繰り出す美羽だった。空を加えた俺たちは秘密基地に集合すると早速卵を拾ってから現在に至るまでの顛末を説明した。


「チーム名? なんだどっかの競技にでも出場するのかよ。バスケもよくわかってない癖に」


「違うわよ、そーいうんじゃなくて単にこの『ナチュを育てようの会』にもっといい感じの名前を付けようって言ってんのよ、ナチュに名前つけたときみたいに」


「おれも賛成。名前合ったほうが招集かけるときとか楽だろうし……なんかカッコいい」


「まあ、いいか。カッコいい名前ならおれに任せろ」


「……名前、ね」


 空は窓の外を見ながら呟いた。


 メンバーが五人になりこの秘密基地も一段と賑やかになってきた。美羽のおかげで大分華やかになった秘密基地は、色鮮やかなラグやクッション、カーテンによって生活感に溢れている。


「あとはチームのリーダーと、活動内容をもう一度整理しましょうよ!……あと、ついでにみんな名前呼びにしましょうよ」


 ちょっと照れくさそうに美羽は涼介をチラっと見る。名前で呼んでもらいたいんだね。


「名前ー? なんでまた」


「いいのよっ、そのほうが仲良しに見えるでしょ! はい、みんなこれからは名前呼びね! 苗字で呼んだらそいつバツゲームだから! はい決定っ!」


「じゃあまずリーダーからね!」


「海斗でよくねー? もう今までなんとなくそんな感じあったじゃん」


「わたしもあおさ……あっ……か、海斗くんでいいと思います!」


 椎名から初めての名前呼びをしてもらったことに俺は感動を覚える。


「あたしも青岬でいいと思うわ…………あっ、海斗か」


 言いだしっぺが普通に苗字呼びしたよね、今。おい。バツゲームはどうなった。


「別になんでもいい……」


 空は興味なさそうに持ち込んだお菓子をずっと摘まんでいた。


 というわけでこの名称不明団体のリーダーは推薦で俺に決まったのである。


「じゃあここからは俺が進行するね。チーム名を決めていこう。書記は……椎名頼める?」


「あ、はいっ!」


 椎名はびくりと身体をただして鉛筆を握った。

 書記とか聞くと俄然真面目な会議っぽくなってくる。俺は少しだけわくわくしていた。


 椎名は画用紙を広げ、『チーム名を決めます! 会議』と書いていた。


 あがったチーム名は、涼介の『色彩町防衛エクスプラズマ団Ⅱ』、美羽の『ねこかふぇ』、椎名の『なかよし5人組』、空の『Secret base』、そして俺の『レインボー・アタッカーズ』。


 空が提案する横文字のチーム名にはみんなが食いついていた。どうやら空は先日遊んだAやBとバンドを結成しており、今度駅前のショッピングモールで開催される小学生バンド大会に出るらしい。チーム名はその新曲だ。いや宣伝かよ!


 五人の意見が出揃ったところで、この中からチーム名を決めなくてはいけないが、ナチュを命名したときと同じ空気が再び辺りを漂った。これダメなパターンのやつだ。


「正直どれになってもダメな未来しか思いつかない」とすべてを投げ出した涼介はちゃぶ台に突っ伏した。……そこまで絶望しなくてもいいじゃないか。子供の意見はどれも素敵だよ。


 ちゃぶ台にはナチュがお行儀よく座っていて、涼介はヒレをむにむにと触りながら、


「つーかさ、コイツなにも関わってなくない? ナチュ中心のチームなんだろ?」


 涼介の何気ない一言に気づかされ、俺たちは再考した。そしてついにチーム名が決定した。


 その名も『ナチュの陣』。由来は江戸幕府が豊臣宗家を滅ぼしたと言われる戦い“大坂夏の陣”からもじったものだ。なにかの拍子に見た歴史番組が発端で、言葉の語呂だけを気に入って提案したところ、みんな賛成してくれた。


「いいじゃん、ナチュの陣! これからおれたちはナチュの陣だ!」


 俺はナチュの陣の象徴を抱きかかえて高い高いをする。ナチュも嬉しそうに鳴いた。

「チーム名も決まったし、活動内容は……ナチュの保護、育成……なのかな」


 椎名が忙しそうに俺の喋った内容をしっかり議事している。偉い。


「なにからの保護なんだ? ナチュはなにかに狙われてるの?」


 空がナチュを見ながら言った。


「いや……わかんないんだけどさ……」


 俺は背中を床につける。すると椎名が顎に手当てたまま、


「そういえばわたしたちって、ナチュについてなにも知らないね……。どこから来たのかな。お母さんやお父さんはいないのかな……卵のときに持ってきちゃったし……」


「確かにそうだよな……そもそもなんでこんな卵が裏山に落ちてたんだよ、ありえなくね?」


「地面に埋まってたってのが謎よね……鳥の卵だったら普通巣に産むわよ」


「なにかの卵が突然変異した姿……それとも地底からの使者か……」


 空がうーんと考え込む。


「これは……一度現場に向かう必要があるね」と俺が宣言する。


「おっ海斗、なんか刑事ドラマみたいになってきたな! いいね、今回はそれで遊ぼう!」


「遊ぼうとか言うんじゃないわよ! これはナチュの陣として記念すべき第一回目の活動よ」


 ――俺たちナチュの陣は第一回目の活動として、裏山の現場へと向かった。



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