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ナチュライル  作者: 織星伊吹
一章 西暦二〇〇三年 七月
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序章


 西暦一九八三年の七月、夜空に一閃の流れ星が出現した。


 私はまだ十八になったばかりで、上空を滑る虹色の流れ星を仰ぎ見ていた。

 流れ星は尾を描きながら色彩町しきさいちょうの「裏山」と呼ばれる大きな山に衝突した。しかし、その痕跡はなにひとつ見つからなかったという。


 宇宙望遠鏡でも事前に発見することができなかった謎の飛来物は、当時の新聞とテレビでは不思議ミステリーとして大きな話題となった。


 数々の天文学者が、この正体不明の虹色の隕石を神様からの贈り物だとか、宇宙人の襲来だとか、専門家らしからぬ思考で私の頭を苛立たせた。


 ペルーで発見されたナスカの地上絵や、フロリダ半島の先端で起こったと言われるバミューダトライアングルの謎と同様に、今後もこの虹色の隕石について語られ続けていくだろうと、得意げに持論を繰り広げる天文学者がいたのをよく覚えている。


 マスコミは『レインボーコメット襲来』なんていうふざけた記事を世に流し始め、それが人類の大多数の心に響いてしまったのか、その呼び名が定着してしまったようである。


 そんな世間でいうオカルト的出来事があったこの年代には、長周期彗星である『IRAS・荒貴・オルコック彗星』が地球から約四六六万キロメートルのところを通過したことが私にとっての大ニュースなのだが、世間は他の出来事で盛り上がっていた。


 大阪城が築城四〇〇年記念で二十一世紀に向けた盛大なオープニングパレードを開催しただとか。なぜか千葉に建設された『東京ディズニーランド』が開園一ヶ月で膨大な来園者を獲得したとか。ファミリーコンピューターが発売され、アメリカで起きたアタリショックを撥ね退けて、爆発的な人気を得たとか。大体そんなところだ。俗物的なイベント事に一切興味がない私は、実際に自分の目で見た奇跡だけを瞼の裏に焼き付けていた。


 あのとき虹色の流れ星に出会わなければ、きっと今の自分は存在していなかっただろう。大げさに言ってしまうと、私の人生を変えたのだ。抑えられない知識への欲求が真実を求め続けている。私の瞳が捉えたあの虹色の流れ星は、宇宙から飛来したただの石に過ぎないのだろうか――では、なぜ虹色に輝いていたのか。錐体細胞から送られてきた波長を本来識別すべき色とは誤った情報として受信し、大脳がそれを認知してしまったのか。それとも世間が話題にするように、不思議ミステリーの類いでしかないのか。無論私はそんな一昔前の天文学者が鼻糞でも穿りながら考えた持論を発言するつもりは毛頭無い。

 そんなこと断じてありえないし、物事には必ず理由があると、私は考えている。


 今から約一三八億年前、かの有名なビッグバン理論では、空前絶後の大爆発が起こる前の宇宙に一体なにがあったのかと、何世紀にも渡り天文学者たちが議論を重ねてきたが、人類は未だ解明することができていない。天才たちの理論でさえ現状仮説でしかないのだ。それもそうだ。人類が今まで築きあげて来た理論の多くは、自ら検証したわけでもないのだから。


 実のところ私は仮説には興味がない。まったくないと言ったら嘘になるが、真実が知りたい。


 私はどうしても自分の目で見た虹色の奇跡を、自分で納得したかった。

 ――そして数年後、裏山に家を建てた。そこが私の研究所であり住処となった。

 あの日出会った流星の正体を追いかけ始めたのである。


 それが……我ら地球の命運を左右する、壮大なカタストロフィの始まりだったなんて、このときの私は考えもしなかった――。

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