ゆうしょくまえにおてつだい!
案内されることすぐ、その時にレオおじさんの家は、セピアの色調に包まれそうになっていて。
反対に視線を向けたら、アビーと重なるが、陽光が沈みかけているようで。
それら、森、いや、村中を琥珀の色合いに照らしていて。
少しだけ、幻想的に思う。
アビーは、俺が視線を向けていることに、疑問、首を傾げて。
俺は、いや、何でもないと首を横に振り。
ぽつりと、微かな声が聞こえて。変な大和ちゃんって。
けれど、悪気があって言っているわけではない。
くすり、と笑う声が聞こえたから。
「!」
待たせるのも悪いと、視線を戻すと、レオおじさんの姿。
その先からは、子どもたちの沢山の歓声が響き。
特に、俺やアビーが来ると聞いて、はしゃいでいるか。
その多さ故に、はしゃぐ勢いが強く、家そのものが揺れていた。
「あーもー!あんたたち!少しは静かにしな!いくら、近所が離れているとしても、響きそうだよ!……はぁ。全く誰に似たのやら……。」
その喧しさに負けず、エルザおばさんの注意の声が聞こえて。
ついでに、呆れの溜息まで聞こえてきた。
「はは……。」
俺は、乾いた笑いが出てしまう。
相当な人数だ、相手するのも大変だよ。気苦労が想像できてしまう。
「!おっと、アビーちゃん、大和ちゃん、早く入んな!」
そうしていたなら、俺とアビーが来たことに気付き、エルザおばさんは、こちらを向き、言って、指で家の入口を示した。
「!あ、はい。お邪魔します。」
「お邪魔しまーす!」
「なっはは!挨拶なんて……。あんたたちは、あたしらの娘、息子のようなもんさね!堅苦しいのはよしな!」
「……あはは。はい。」
丁寧に挨拶したものの、そんな堅苦しいのはいいよと、言われ、笑い飛ばされて。
若干戸惑いながらも、俺は頷く。
アビーはアビーで、同じように笑み、頷いては歩を進め。
レオおじさんの後に続き、家に入っていく。
「……。」
家の中は、子どもたちのやんちゃっぷりが災いしてか、所々ボロボロ、かつ、補修の後も目立つ。
何より、くぐった先の玄関には、大量の靴が散乱していて。
子どもたちの歓声は、さらに強く聞こえ、はしゃいでいる音も感じられ。
外から見た感じ、決して狭い家ではなさそうだが、大家族となると、流石に窮屈な感じもする。
「あーあー。……全く。いっつも注意してるのに。どの子もわんぱくで、靴をそのまま脱ぎっぱなし。どうせ、手も洗ってないね。落ち着きなさいとか、いつも言ってんのに。これじゃ、お客さん呼べないわ……。」
その光景は、エルザおばさんも見ていて。
愚痴交じりに、ため息つきながら言っていた。
「まー!いーじゃねーか!子供ってのは、元気が一番よ!子供なのに、すごく大人しいなんて、何だからしくないじゃねーか!がははは!」
子供たちの後、俺たちより先に進んでいたレオおじさんは、玄関で靴を脱ぎ、丁寧に、それも、子どもたちの分まで揃えながら、微笑ましそうに言う。
「あんたはもう!あたしの苦労も知らないで。あの子たちの元気っぷりは、手に余るよ!あんたも一日中相手してみな!」
反論として、エルザおばさんは言ってきて。腕組みながら、威圧も加え。
「うひっ!……勘弁してぇ……。」
威圧に観念して、レオおじさんはたじろいで。
「……。」
「……。」
取り残された、俺とアビーは二人を交互に見ながら呆然として。
「!あっと。ごめんな。二人とも、上がんな。」
突っ立っていたままな俺たちに、エルザおばさんは、またまた自分たちの世界にこもってしまったと、詫びて、催促してくる。
俺とアビーは、頷いて玄関から中へ上がる。
もちろん、二人して、きちんと靴を揃えて。
見ていてたエルザおばさんは、威圧と呆れから一転して、羨ましそうな顔をこちらに向けていた。
「……ほんっと。二人ともいい子だねぇ。なあ、このままさ、うちの子にならない?今更子供が二人増えた所で、変わりゃしないよ。」
「えぇ~……。」
「ふぇ?」
また聞いた、そんなセリフに、俺は戸惑い。アビーは首を傾げて、何だか、考えているようだ。
「でも、皆いい子だよ!エルザおばさんのことも、レオおじさんのことも、そして、他のおばさんのことも大好きだって言ってたもん。」
「!」
アビーが考え出した言葉は、どうやら、エルザおばさんの胸を打ったようで。
俺もまた、同意と頷き。
聞いていたエルザおばさんは、目をはっとして、からの、嬉しそうに目を細めて来て。
「?!むぐぅ?!」
「!!うにゅ?!」
俺とアビー二人を、抱き締めてきた。
胸に顔を埋める形になり、思わず息を呑んでしまう。
その際、母親らしい香りを感じ。
……何だか、嬉しいような、こそばゆいような感じを覚えてしまう。
「あぁ~もう!嬉しいわぁ!」
嬉しさに、声色は変わり、俺とアビーの頭をグリグリと撫でまわしてきて。
ただし、力強くあって、軽く痛みを感じてしまう。
「……。」
傍ら、視線を感じる。
何とか、抱擁を解いて、顔を動かして視線を探したら、レオおじさん。
「なぁ、よ。母ちゃん……。子供たちが待ってるぞ……。」
軽く、咳払い一つ、見られると厄介なことになるぞ、と感じさせるような言葉を言い。
「!ああっと。そうだ、な。こうしちゃ、子供たちが騒ぎそうだし。あたしは、夕食の支度でもするよ。」
レオおじさんに言われ、エルザおばさんは気付き。
俺とアビーを解放し、服装、特にエプロンを整えて、玄関を上がり、靴を整えたら、奥の、子供たちの元へ向かう。
「!そうだ……!」
と、思い出したように足を止めて、こちらにまた振り返って。
「二人とも、一緒にご飯食べていくかい?遠慮しなくていいからね!」
「?ええと、またまた唐突に……。」
何を言うかと思えば、夕食の誘いで。
唐突に言われて、俺は戸惑いに固まってしまい。
「ええ?!いいの?!いいの?!」
一方のアビーは、反対に喜びを言葉だけなく、体でも表現している。
遊んでいた子どもたちのようなほどのはしゃぎようで、床をぴょんぴょんと飛び跳ねて。
何だか、あの子供たちのようだ、幼いね。
まあ、背格好からすると、成人していない気はするから、子どもといっても差し支えはないかもしれないけれど。
そんなアビーの様子に、エルザおばさんは何だか嬉しそうな顔をしては。
「いいよ!なんせ、よく子供たちの相手してくれる。あたしより若いのに、大したものだよ!お礼さね!なははは!」
遠慮しないでと、重ね、豪快に笑う。
そうならそうで、俺もまたアビーに倣い、頷いて。
「それじゃ、あたしは準備しようかね。」
俺とアビーのそんな様子を見て、当初の目的に戻る。
子供たちの方へ、また体を向けていき。
一瞬静かになったが、今度は奥の方で、叱るような声ながらも、可愛がる感じが窺い知れてきた。
どんな様子か想像して、柔らかに頬を緩ませていたら。
「!」
「!!」
唐突に俺とアビーは肩を叩かれ、振り返るならレオおじさんが何か言いたげな様子を見せていた。
「ありがとな。今日はどうやら、母ちゃん機嫌がよさそうだ。いつもだったらよ、それこそ雷がそこら中に落ちる様なもんなのに。がはははは。」
安心したような口調で言い、ありがたがる様子。
「……あははは……。」
言われて俺は、苦笑してしまい。
何だか、容易に想像できる。
いつもだったら、それこそやんちゃな子どもたちが、暴れまわったりと、なかなか騒がしいものだったに違いない。
毎日、どったんばったん大騒ぎ、なんてね。
エルザおばさんは、それこそ、苦労ばかりで。
きっと今頃、溜息つきながら家事をこなしているだろう。
端から見れば、何だか面白くも思えるけれど、実際はきっと、大変なんだろうな……。
思いながらも、レオおじさんに連れられて、奥に行く。
「……。」
行ったら行ったらで、奥の方、洗面所の方はまたまた大渋滞の様相で。
子どもが多いのも、大変だ、手を洗わせるのだって、大変だ。側には、エルザおばさんと同じように、エプロン姿の、ライオンの人の女性がついていて。
なお、若々しく、まだ、手馴れていない感じがして。
「!」
ピンくることには、レオおじさんの奥さんの一人。かつ、この大渋滞の原因、沢山の子どもたちのうち、誰かの母親だろう。
エルザおばさんだけじゃなく、他の奥さんも総動員か。
手を洗い終えた子どもの手を拭いてやったり、洗面所に届かない子どものために、体を持ち上げたりと。
てんやわんや、それが相応しい言葉。
長いこと子どもたちの相手をして、ようやく終わり、奥さんは、疲労困憊、床に尻餅をついていた。
「お疲れ!」
レオおじさんは、奥さんに声を掛けて、笑顔を向ける。
「!!」
言われた奥さんは、顔を赤くして、何だが嬉しそうな、恥ずかしそうな顔を見せていた。
……どうやら、エルザおばさんとは性格が違うようだ、引っ込み思案。
旦那さんであるレオおじさんが顔を見せたためか、それが嬉しかったかは、分からないが、シャキッと体を起こして、会釈、自分の手を洗ったら、台所へ向かって行った。
様子を見送り、俺は洗面台に立つ。
ようやく姿見せた洗面台は、ホーロー作り。
知ったる蛇口もあり、捻ればきちんと水が出てくる。
聞いた話だと、水源は、地下水を汲み上げてのもので。また、どこからかポンプを買ってきて、レオおじさんが取り付けたものらしい。
器用だなと思って、手を洗い、俺はその場を退いた。
アビー、レオおじさんが後に続き、大広間と呼べるほど広い部屋に向かうならまた聞こえてくる、喧騒のような、子供たちの騒がしくも、楽しげな声。
覗いてみれば、夕食が始まるため、部屋の中央に向かって、子どもたちが大机を懸命に移動させていた。
俺よりも小さい体ながら、力と、声を合わせて運んでいる。
他に、奥さんがいて、なお、こちらは先程の奥さんとは違う感じ。
エルザおばさんとも違う。
またまただ、レオおじさんの奥さん、その……何人目?
分っかんないや!
本当、一言で表すなら、大家族だ。
さて、そんな奥さんはしかし、筋力があるか、それとも、ライオンの人には普通なのか分からないが、一人で軽々大机を運んでいた。
大机をくっつけ合わせ、さらに大きな机として完成する。
こうして見ると、子どもたちもまあ、いい子だと思う。
ちゃんと、母親の手伝いをしているのだから。