かっこいいしゃしん!
この時の俺は、いつも通り、懐かしい原風景残る村に、アビーや皆と一緒に、暮らしていた。
そこに、英雄たる、ウィザードと呼ばれる威厳なんて、ない。
もっとも、そう呼ばれるほど、自分ができているとも思っていない俺は、特に用事がない時は、山にこもってトレーニングをしている。
新しい体には慣れ、もうその動きはアビーに引けを取らないほど。
猫らしい、柔軟さは、きっと普通の人間を遥かに凌駕していることだろう。
一呼吸。
地面を蹴り、跳躍して上空高く。空中にて体を翻らせて、両手を広げて。
かつ、両手にはめた手袋が発光して。
猫がそうするように、爪を振り下ろしたなら、光の爪撃は衝撃波伴い、地面を抉り、爪痕を作った。
それを終えて、降り立つなら。
「ふぅ……。」
一息ついて、満足気に、その爪痕を望む。
思うに、随分とまあ、上手くなったことだと。
まだ、この村に来た頃の自分とは思えない。
やはり、帝国との戦いが、俺を強くしたのだろうね。
「!」
感傷に耽っていたら、反射的に何かの気配を察知して。一転俺は、身構える。
身構えたなら、手をそっとひらりと動かす。
清らかな音色が響いたなら、光る水晶玉たちが、側に置いていたバックパックから姿を現して。
スフィア。
それら複数呼び出して、宙に浮かせたなら。手を動かして、壁を作るように回す。
すると、光の膜が形成された。
「がぉおおお!」
「!」
咆哮が一つ、響き渡り。
衝撃が後に続くなら、草木掻き分けてこちらに向かい来て。
しかも、その衝撃は、周辺の空気を膨張、圧縮させたりする関係故に生じる、霧を伴い、形を象ること、獅子のようで。
「!これは……っ!」
見覚えのある、技、気付いた俺は呟き。
衝撃が眼前に迫る中であったが、しかし、どういうわけか俺を狙ったものではないようだ、掠め、後方にて霧散する。
「……。」
その様子に圧倒されながらも、だが、見知ったる人と思い、そっと笑みを。
また、真似するみたいに構え、拳を握り。
遠くにいる、その知ったる人物に見せつけるように、自分の姿勢はその人の視線より直角に位置するようにした。
「えいっ!」
俺は、拳を突き出す。
ただの拳じゃない、スフィアが備え付けられた手袋だ、発光させて、突き出すなら、光弾として放たれて。
当然、形は獅子のようだ。
衝撃波、風、辺りの草木凪いで突き進み、遥か先にて、光の粒と共に、霧散。
砕け散る光は、清らかな音色を奏でて舞うようで。
「……!がっははは!!」
「……ふふ。」
俺の目論見通り、俺の姿は相手に見せることができたようで。
その通りに、驚きの後に、喜びの笑い声がこちらまで木霊してきて。
そっと俺もまた、笑みを浮かべた。
草を踏みしめて、歩み寄る音を耳にした後、光を遮って、ぬっと大きな影が眼前に現れてくる。
普通なら、その大きな存在迫る状況に、恐怖して慄きそうなものだが、俺は身を翻すこともなく、そっと見つめて。
知ったる人物だから。
シルエットがはっきりと分かり、表情さえ読める状態なら。
その人物、ライオンの鬣を思わせる髪に、ライオンの耳を持ち、かつ、ライオンというだけあって、力強さ感じさせる、丸太のような腕、服で隠し切れない、胸筋や腹筋。
レオおじさんだ。
「なかなかできるようになったじゃないか!ええ?どこで覚えた?」
にぃっと牙を見せるように笑いながら、俺に声を掛けて。
「見よう見真似かな?」
答えに俺は、それを選択した。
事実、そうかも。
あの時、そう、帝国にあった、巨大な壁の中での戦いで、ほぼ無意識に見せたのが始まり。後は、練習してきた。
その結果が、その褒め言葉なのかもしれないね。
「だとしたらよ!相当だな!俺でも、親父から教わって、年月掛けてやっとできるようになったんだからな!がはは!やっぱり、ウィザードって奴は、特別なのかもしれないな!」
「?そう……ですか?」
褒めはなおも続き、言われるのはウィザードという言葉で。
あんまり、実感湧かない自分では、しっくりこず、首を傾げてしまい。
そうであっても、レオおじさんは笑い顔を崩さない。
「そう、謙遜すんな!自信を持てよ!お前さんはよ、英雄だ!もっとほら、胸を張ってさ!」
「……はは……。」
続けては、謙遜するなと声を掛けて。俺は、乾いた笑いしか出せないや。
「!そうだ!いいこと思いついたぜ!」
「?」
俺がまだ、自信持てないと思ってか、何か思いついたようで。レオおじさんは、閃きを顔に浮かばせた。
何だろう。俺はまた、首を傾げて。
思い立ったが吉日とばかりに、背負った荷物を置いて、屈め、まさぐりだす。
「これだこれ!町で買ってきたんだ!」
「!」
目的の物を見付けたと、背負っていた荷物の中から、見覚えのある物を取り出して、俺がよく見れるように突き出して来て。
カメラである、形状からならね、と気付いた俺は、少し目を丸くして。
から、生じる疑問。
何をレオおじさんはしようとしている?
「……あの、一体、何をするんです……?」
聞くと。
「決まっているだろ?これを持つってことは……。」
「!」
聞かなくても、分かるだろう、そんな風の回答に。まさかと俺は思い。
「お前さんを撮るんだよ!カッコイイお前さんを撮れば、俺の所の子供たち、皆喜ぶぜ!」
「……ははは……。やっぱり。」
そのまさかで。
当たってしまい、その光景が目に浮かび、乾いた笑いしかでないや。
強引かな、レオおじさんは、俺を被写体として写真を撮るつもりで、屈んで構えて。
「……。」
やられている俺は、気恥ずかしさあってか、最初素直になれなかったが、レオおじさんだ、少し、らしい恰好を見せる。
ただまあ、久し振りか。
写真なんて、前世?で就職活動のために撮った以来だったかもしれないや。
「……あ~……。」
そんなことが災いして、俺の表情は緊張のあまり固く。
格好も、きっと、躍動感のない、面白味のない物だったのかもしれない。
撮影しよと、ファインダーを覗くレオおじさんは、残念そうな声を上げる。
「大和!カメラなんか気にしなくていいぞ?」
「……うっ……。写真撮影なんて、慣れてなくて。その……。」
「……?」
俺が緊張しているからだと思ったか、レオおじさんはアドバイスをくれたものの、俺ははっきりせず。
緊張もあるが、何より、俺はどんなポーズを取ればいい?
「……どんなポーズ取ればいい?レオおじさん。」
「?……そういうことか?だったらよ、お前さんの得意なことあるだろ?ほらスフィアを使ってさ。何なら、色々動きを見せてもいいぜ?」
「……分かりました。」
聞いたなら、答えは色々で。
躍動感のためには、致し方ない。
俺は従って、色々なポーズをする。
構えて、スフィアを呼ぶような動作をするなら、バックパックが飛んできて。
その瞬間から、カシャカシャとシャッターが押され始めて。
バックパックを装備する瞬間や、中にある盾を左手に収める瞬間、それから、沢山のスフィアを、自らの周りに展開した瞬間。
極めつけか、俺が沢山のスフィアを展開して、手で指示するように構えたその瞬間には、レオおじさんの歓声まで混じって。
「……!いいぜ!こういうの。男前に撮れたぞ。見て見るか?」
「!」
そうした後に、いわゆる撮影会は終了。
続くことには、俺を手招きして、早速写真を見せるということだ。荷物を持ちレオおじさんに寄ったなら、レオおじさんはカメラの背面を見せて。
カメラの背面には、それなりの大きさのモニターがああり。どうやら、デジカメのシステムのようだ。
見た目はなかなかに渋く、おおよそ、気楽な印象を持つ、カメラのようではない、フィルムカメラに似た様相なのに、だ。
さて、と。そんなことは置いといて、撮影した写真が、再生される。
「……。」
格好よく決めた写真の内、最後に撮った写真で、スライドが止められて。
なぜだろうかと、操作するレオおじさんを見た。
見ると、レオおじさんは、俺のその写真を見て、何だか懐かしそうな表情をして、写真を見ていた。
なぜだろうか、という心に疑問が残る中、ならその答えはと、レオおじさんが見る写真を見て。
「……?」
なお、俺もまた覗くものの、物珍しいものはない、ただの、俺が、恥ずかしながら格好つけて映る姿であり。
首を傾げた。
「……そうだな……。もしかしたら、冠を付けたり、ネックレスを付けたら、もしかしたら……。」
「?」
何か、ぶつぶつ言っていて。思案する表情もあり。
なお、何を考えているかは推測できないでいる。
「……あの……。」
このままなのもなんだ、俺がまず声を掛けてみて。
「!!お、おぉ……。すまない!」
「写真、どうかしたんですか?変な物が映っていたりしたんです?」
俺の声掛けに気付き、顔を上げたレオおじさんは、考えに耽っていたことを謝罪してきて。
俺は、何かあったのか、気になり、続ける。
「!おぉっとな。いやさ、構図がな、見たことがあるなと思ってね。そう、何だか、古い写真にあった、ある構図があって……。それに似ているなと。」
「?」
聞けば、何か自分の見覚えのあるものらしい。
「ううむ。……まあ、何だ。俺が説明するよりも、直接見た方が速いな。なあ大和、これから予定あるか?」
「!」
ただ、はっきりとは分からないし、レオおじさんも百聞は一見に如かず、とばかりにこのことを中断し、代わって俺に、予定を聞いてきた。
逆に振られて俺は、言葉を区切り。
今度は俺が、思案してしまうものの、しかし予定はなく。
間を開けた形になったが、口を開き。
「いや、特に予定は……。ああ、アビーにはどう言います?」
そのことを言ったついでとして、思い出したこと一つ。アビーのことで。
なお、アビーは、朝からレオおじさんの子供たちのお守りを買って出て、何もなければ、今も子供たちと戯れていると思う。
「一緒に誘っちまえよ。なぁに。一人二人増えた所で、こちとら迷惑になることでもない。」
「はぁ。」
レオおじさんの答えは、別に一緒でも構わないとのことで。
「……。」
俺は、生返事だったから、ここではっきりさせようと、間を開けて。
「……そうですね。じゃあ、行きます。俺にも、見せてください。」
心決めて、レオおじさんの誘いに乗る。
「お!決まりだな。それじゃ、早速行こうか!」
そう言い切って、レオおじさんは立ち、カメラを直して、荷物を背負って、道を引き返し、先導を始める。
向かう先は、レオおじさんの家だ。
俺もまた、頷きついて行く。