ねぶそくまふぃんちゃん!
「!」
と、別のことが気に掛かってくる。
早朝の一幕よりも、以前、夢。
夢の舞台は、マフィンの家だった。
あの時、あの子どもといい。
マフィンの家中のスフィアのけたたましさといいと、気になってもくる。
これがまた、そう、昨日の夢のように、単なる夢ならいいけれど。
「ん?どしたのー?」
隣でくつろぐアビーは気付き、顔を覗いて聞いて来る。
「!……うんとね。マフィンの家が気になるんだ。そうだね、例の、どこからか来た、ライオンの人の、男の子。」
「!そーだね!あたしも気になる!」
俺が、気になったことを口にすると、アビーもまた気になったと同意して。
「ほんと、気になるね!だって、あの男の子、今どうかなー。もしね。昨日、レオおじさんの子どもたちの、応援が届いていたら、もしかしたら、目を覚ましているかも、って!」
「……あはは。アビーらしいや。」
アビーもアビーで、気にしているみたいだ、言ってくる。
内容もまた、らしいものだ。
昨日、子どもたち全員が、帰り際にエールを送ったのだから。
もし届いていたら回復しているかも、というもの。
なら、見て見たくもなるね。
「それじゃあ、今日……。」
「一緒に、行こっ!マフィンんちゃんの家に。」
「……だね。」
予定を決めたと、隣のアビーに言うと、俺の言葉を遮る形だが、同じ内容で重ねて来て。
俺は、嫌な顔をすることなく、そっと微笑み、頷く。
今日の予定が決まったというところで、レオおじさんやエルザおばさんの所に行き、伝えに行く。
「お!マフィンちゃんの家に行くのか。……わざわざ、伝えに来たのか?気にしなくていいんだぜ!行きたいんだったら、行っていいんだからよ!がはは!」
「おう!いってらっしゃいな!……例の、子どもにもよろしく!」
行ったら行ったらで、気にせず、自由にしなさいといった感じ。
エルザおばさんはついでに、例の子どもを気に掛けている様子も見せる。
「!!」
が、そんな折、どこで感じ取ったか知らないが。
子どもたちが一斉に出てきて、寂しそうな瞳を向けてきた。
どうやら、俺やアビーだけで、マフィンの家に行くのが寂しいみたい。
あるいは、羨ましいのかもしれない。
子どもたちにとって、親の手から離れて、自由に動くのは、ああいう年頃には憧れなのだろう。
「あ!あんたたち!!」
「えー!」
「ずるいー!」
気付いたエルザおばさんだったが、ブーイングが同時に響き渡り。
「はぁぁ……。」
また騒乱を予感し、エルザおばさんは頭を抱えて溜息をつく。
そうであっても、エルザおばさんは子どもたちを相手にする。
羨ましがる子どもたち全員を抱き込み、宥め始める。
「お!母ちゃん!俺もやるぞ!どぅら!父ちゃんが可愛がってやる!」
そのエルザおばさんの姿を、遠くから見ていたレオおじさんは、言って。
側に向かい、両手を広げる。
この人もまた、子どもたちを相手にするつもりだ。
「!!」
「!!!!父ちゃん!!!」
「わーい!!」
子どもたちは気付いたなら、エルザおばさんだけなく、レオおじさんにまで。
群がっていく。
「……。」
よい父親の振る舞いに、素晴らしい心意気感じ、そっと笑む。
多分、配慮なのかもしれない。
子どもたちが、邪魔しないように、という。
もちろん、子どもたちに囲まれて、悪い気はしないけれど、レオおじさんとて、だからといって、俺やアビーにばかり子どもたちを相手させるのも、悪いと思ったのだろう。
「レオおじさん!」
「お?」
「……ありがとう!それと、行ってきます。」
「おう!」
その配慮にお礼を告げ、行ってくると挨拶付けて。
聞いたレオおじさんは、笑顔で俺に手を振り、見送る。
「!あたしも!レオおじさん、またあとでね!」
アビーは遅れて続き、レオおじさんに手を振って、俺の後に続く。
同じように、レオおじさんは手を振って見送った。
昨日は騒がしかった村の道も、今日は子どもたちが側にいなくて、静かだ。
寂しくもある。
……だが、多分これが普通なのだろう。
長閑な村の、一幕が。
その、久し振りとも思える長閑さを感じながら、歩を進めて、マフィンの家に辿り着く。
いつものように、マフィンを呼ぶために、門のスフィアを触った。
清らかな、鈴のような音色響いたなら、奥の玄関の戸が開く。
「?」
のだが、やけに弱々しい。
何でだろう、疑問に俺は首を傾げてしまう。
……いつもなら、マフィンが出てきそうなものだけれども。
この時は登場しないし、戸だけ開くのも、気になってしょうがない。
何はともあれ、理由を確かめないことには、はっきりしない。
俺は、歩を進めて、マフィンの家の、玄関に近づくと。
「?!」
玄関の戸は、より大きく開き、加えて異様な気配、そう、闇のようなおどろおどろしいのが、奥の方より出てきて。
途端のそれに、身の毛を立たせ、俺はつい飛び退いてしまう。
ついでに、スフィアを放出し、光輝かせて構えて。
やがて、異様な気配は外に、陽光の元に出る。
「?!ま、マフィン?!ど、どうしたの?!」
「?!マフィンちゃん?!え、どーしたの?!」
陽光に晒され、闇のような気配が退くなら。
アビーと一緒に、その正体の名前を口にした。
マフィンである。
だが、いつもと様子がおかしい。
髪が整えられてなく、跳ねまくり、目の下にはクマができていた。
口は半開き、そこから魂が出ているかのようで。
「……お、おはよう……。二人とも。元気……ね?」
生気のない様子ながら、朝の挨拶をしてくれる。
……ゾンビかとも思ってしまったが、受け答え的に、意識があると伺える。
失礼ながら、生きてはいるようだ。
それはいいが、……不気味なことに変わりなく。
加えて、何が起きたのか心配も。
「……お、おはよう。……それよりも、どうした?!何があった?」
「ええと、おはよう!……じゃなくて、マフィンちゃん、お化けみたい!」
アビーもまた、心配して。挨拶を返しては、理由を聞く。
「……そう、……よね。二人にまで、心配掛けさせて……。うふふ……。私らしくない……わ。」
弱々しく答えてくれた。
言い終えてか、軽く戸にもたれ掛かる。言葉の覇気のなさ同様、体まで弱り。
相当だ。
「……ごめんマフィン。何も言わなくていいよ。」
見ていて、何だか余計心配になって来た。俺は、聞くのを撤回する。
介抱のために、マフィンにより近付く。
「……待ちなさいな。別に、そこまでじゃないわ。……ただの、寝不足。」
「……寝不足。……らしくないな。」
撤回いれて、マフィンに近付いたなら、マフィンはだが、理由を言い始め。
俺は、復唱すると、なんだからしくなく思えてならず。
寝不足らしいが。
いつもの彼女なら、規則正しく、それこそ、これほど体調不良を起こすことなんて、なさそうなのに。
「……何でまた?」
深堀してみようと、聞くと。
「……そうね。怪奇現象のせいかしら?」
「怪奇現象?」
答え始めに、怪奇現象と。しっくりこなくて、俺は首を傾げる。
「ええそう。怪奇現象。どういうわけか、例の、あの男の子を中心にしてね、家中のスフィアたちが集まって、呼応するように騒いでね。……私、そんなの初めてで、どうしていいやら分からず、悶々としたまま、朝になっちゃったの。」
「へ、えぇ……。」
その続きが語られる。
どうも、家中のスフィアが騒いでいて、気になってしょうがなかったと。
生返事で、答えてしまう。
脳裏に、夢のことが思い浮かび。……まさかね。
「……。」
「?」
続き語った後、マフィンは、不意に押し黙り。
そうなると、思考中断、どうしたんだろうと注目してしまう。
「……はぁあああああああああああああ……。」
「?!」
マフィンは突然、物凄く深い溜息を出して、一旦顔を下に向ける。
異様なほどの溜息に、ぞっとする。
魂が抜けるとかいう溜息ではなく、気合や力を放出させる、前段階のような、深い深い呼吸。
「!」
その通りか、乱れた髪が、風もなくなびき始め。
呼応し、数多ものスフィアたちが彼女の周りに集結、異常に発光する。
その発光具合は、周辺の空気を焦がすほどで、見るからに、異様なまでに。
そうエネルギーを溜めているかのようだ。
そうしたなら、マフィンは顔を思いっきり上げる。
「!!うぉあ?!」
「にゃにゃ?!」
その表情に、俺とアビーはつい、悲鳴を上げてしまった。
鬼の形相とは、かくなるものか、……としか言いようがないほどの形相。
……感じられることは、激しい怒り……。
「私の眠りを妨げるとは、いい度胸ね……。あまつさえ、私の管轄のスフィア奪うなんて……。どこの誰が、ハッキングよろしく、こんなことをしてくれたのかしら、ね?……死よりも厳しい罰を与えないと……。」
「?!」
激しい怒り、吐露するような言葉、どれもこれも、地の底から響いてきそうなもので、マフィンは言い。
俺は思わず、震え上がってしまう。
挙句の果てには、気迫がそうさせるか。
周辺の、家中の壁や戸、草木さえ震わせる。さしずめ、震え上がらせるように。
俺は、……どうすることもできない。
震えながらも、頼み込むように、アビーを見る。
一方のアビーは、どうも不安そうになっていて。
「……あ、アビー?……その、マフィンの今の状態って、まずい?」
そんなアビーに俺は聞くと。
「うぅ~……。まずいもまずいよ……。マフィンちゃん、本気で怒ってる!」
不安そうな表情を浮かべていたアビーは、肯定してくれる。
本気で、怒っているとも。
「……。」
その言葉聞いて、改めてマフィンを見ると、嫌な予感がする。
ついでに、どうなるのかと、多少興味も湧いてくる。
「……本気で怒ると、マフィンって、どうなる?どんな様子?」
興味は、口を突いて、出てしまう。
「!え~と……。」
悪い気がしたが、アビーは丁寧に答えてくれるようで。
「……お山を一つ、崩しちゃったかな?」
「?!?!こ、こわっ!!!」
不安そうな顔相変わらず、その答えに俺は余計ぞっとして震え上がる。
答え。本気で怒ると、マフィンは山をもぶっ飛ばす、だそうだ。
そんな力を、ここで見せつけられると、こちらでも耐えられるか分からない。
「……どうする?」
どうにも、手段が考え付かない。俺は、アビーに目配せする。
アビーもアビーで、困っている様子だった。
だが、そこはアビーだ、一旦、目を瞑り、開いたなら、自信満々な表情となり俺に見せてくる。
何か思いついたらしい。
「任せて任せて!あたしが、いつものマフィンちゃんに戻してあげるよ!」




