ちいさなとおぼえっ!
レオおじさんや、エルザおばさんを先頭に、子どもたちが跳ねながら帰るそんな道中において。
「ねぇ!エルザおばさん!」
その集団の後方にいた、俺とアビーの内、アビーが声を掛ける。
「ん?何だい?」
掛けられて、エルザおばさんは振り返る。
「皆いい子だね!」
「!」
アビーは、エルザおばさんにそう言っては、にっこりと笑う。
言われたエルザおばさんは、いきなり根拠なく言われ、目を点にして。
「だって!皆、ちゃんとあの子に応援してくれたじゃない!きっと、皆のおかげで、早く良くなるかもね!えへへっ!」
その根拠は、応援をしたということだ。アビーは、笑い声で締め括る。
「……。」
言われたエルザおばさんは、だが、言葉を返さない。
黙したまま、何だか嬉しそうにして。
「?」
「あれ?母ちゃんどしたの?」
子どもたちの頭を撫でてやる。
子どもたちは、キョトンとして、よく分かっていない様子だ。
「……ほんと、突拍子もないことする。一体、誰に似たのやら……。」
嬉しそうに、そう呟いた。
夕暮れが深まるその時に、俺とアビーは、レオおじさんの家に案内される。
途中別々に帰ってもよかったが、遠慮せずに来ていいと。
いつもの、迷惑ではないということでそう言っているのだが、どうも今日はそれだけではないようだ。
アビーに言われた言葉に、より機嫌がいいようだ。
「!」
玄関につき、エルザおばさんが先に入ったタイミングで、レオおじさんが腰を突いてくる。
振り返ると、レオおじさんが俺の耳元に来て。
「……今日はアビーに感謝だ。母ちゃんの機嫌がとてもいい。あのままだったら、俺は飯抜きだったぜ……。」
「……あはは。」
囁いてくる。
俺は、そっと笑う。
笑った上で、アビーを見つめると。
「?何々?」
視線に気付いたアビーが、こちらを向く。
「あれ?レオおじさん?」
「アビー……。ありがとな。」
「?何か、変だね!」
そのタイミングで、レオおじさんは、アビーにお礼を言ってやり。
言われた本人は、だが、理解していない様子。
首を傾げ、釣られて微笑みを漏らす。
アビーらしい。
そんなやり取りの後は、昨日と同じ、子どもたちとによる、レオおじさん家名物騒乱の始まりだ。
もちろん、内容も昨日と変わらず。
違いとしては、エルザおばさんの機嫌がいいこと。
また、他の奥さんたちも、何だか楽し気であり。
聞くと、久々に、レオおじさんの咆哮が聞けた、からだとか。
麓まで響き渡るとは……。
なお反対に、レオおじさんが帰って来たというタイミングで、村中の住人が訪ねてきていて。
何かあったのか、口々に聞いてきた。
何より、ジャガーの人、ヤグさんや、虎の人で銭湯を経営している番台さんは、武器を持ってきていて。
……今から、あの時みたいに戦場にでも行きそうな雰囲気だ。
レオおじさんは、その度、何もなかったと説明していた。
かつ、それらが村長さんの勘違いだと聞いたら、大爆笑。
子どもたちの騒乱に交じり、今日は一段と騒がしい日になった。
騒乱が過ぎ、夜深く。
皆が眠りについたなら、ようやく静かになる。
俺は、寝そべると天井を見つめ。
眠りに就こうとする前に、ふと今日を思い返す。
なかなか、忙しい日だったと思い、瞼を閉じ、夢の世界に行く。
「!!」
また、奇妙な夢だ。
今度は、見覚えのある空間にいた。
今日の昼から夕方まで、お茶をすすり、そう、色々とあった場所、マフィンの家だ。
その場所に、なぜか俺は立っていて。
「!」
傍ら、……すすり泣く声を聞く。
その方向を見れば、それは、マフィンの家で寝かされていた、あの男の子。
悪夢を見たか、あるいは、嫌なことがあったのを、思い出したからなのかは、不明だが。
「……。」
泣いている理由は分からない。
だから、根幹を解決することはできない。ならせめて、そっと、優しく撫でることぐらいは。
「?!」
その子供は、何か気配を察知したか、思わず顔を上げ、こちらを見る。
「!」
俺は、気付かれたと思ったが、どうも子供は、キョロキョロして、こちらに気付いている様子はない。
「あ……?!」
ならばと、そっと頭に手をやったなら、ようやく気付いたか?声を上げ。
「!!」
同時に、その子どもの胸元にある、ネックレスから柔らかな光が溢れ。
俺もそうだが、子どももまた驚きの表情を表し。
―……シン!!シンなのか?!
「!!!!お、お父さん!!!!」
「?!」
途端、どこからか、残響のような声が響く。
誰の声だか、聞き覚えはあまりない。
だが、聞き覚えのあるであろう、子どもは呼ばれ、自らの父と称した。
―無事なのかっ……!っ!!っ!!
「お、お父さん……!!僕っ!!僕っ!!!」
その声の主は、子供が無事と分かるや、嗚咽し。
子供もまた、嗚咽する。
―私もだっ!!生きているっ!!!!
「僕もっ……!!!!」
相互に、生きていると言い合い。
―っ!!っ!!!
「っ!!っ!!!」
やがて、感極まり、一瞬押し黙る。
―がぉおおおおおおおおおおおお!!!!!
「?!」
「にゃおおおおおおおおおおおおお!!!!」
―がぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!
「にゃおおおおおおおおおおおおお!!!」
押し出すかのように、互いが咆哮し合う。
それら、嬉しさに、かつ、生きていることを、確認し合う。
なお、子どもはまだ幼く、猫みたいな声で情けなく思うが。
方や、父親と思しき人の発する咆哮は、百獣の王たるに相応しい、獅子の咆哮であり。
昼間の、レオおじさんの咆哮を思い出すほどだ。
呼応して、胸元のスフィアは、より激しく輝き。
そのスフィアの輝き皮切りに、マフィンの家全体にある、スフィアたちもまた呼応するように輝いた。
―……王よ。……ウィザードだ。ウィザードが、いる。吾輩たちを、つなげた。
「!!」
別の、誰かが間に入ってくる。
聞き覚えはある。
別の、夢の中で、俺と見つめ合った、妙な化粧を施した、術者の……。
その声は、驚きと感動に満ちていて。
―……王のスフィアがこれほど輝くとは。やはり。……。
「!!ば、バスーおじさん?!」
その声にもまた、聞き覚えがあるようだ。
子どもはまたまた驚きを表し、その名前を口にした。
―……シンよ。無事でよかった。色々と話はしたいが、ううむ。時間が切れそうだ。ウィザードが朝に目覚めようとする。いいか……!
「!う、うん!」
―……ウィザードを呼ぶのだ。吾輩ではない、その、お前のすぐ近くにいる、最も輝きが強く、力を放つ者を呼ぶのだ。運命の輝きの強い、者を。そうすれば吾輩たちは助かる……。
「!!こ、声が……?!」
魔術師が続けるが、時間がないのか、薄れていっている。
子供は、必死に追おうとするが、だが、遠隔だ、徒労に。
―!シン!!いいか!!!私は生きている!!!大丈夫だ!!だから、安心しておくれ!!!!
―……ウィザードを……!……ウィザードよ!!!!
「?!」
声が消えゆく刹那、場のスフィアたちが皆、激しい閃光を放ち。
俺は、衝撃に意識が飛んでしまう。
「……?」
飛ばされた挙句、俺はまた、静かな朝日射す、レオおじさんの家の広間に、体起こして、呆然としていた。
昨日とは打って変わって、不思議以上に、興奮があり、心臓がバクバク跳ねている気もする。
……誰かに聞かれないか心配して、周りを見渡すが、全員寝息立てていて。
何より、アビー何てのは露骨で、幸せそうに寝ていた。
「……。」
その幸せそうな顔に、脈が落ち着いていくのを感じる。
やがて、安堵も出てきて一息ついた。
「!」
俺の吐息聞こえたのか、誰かがこの静けさの中、体を起こす。
朝日の光に、照らされたなら、それはエルザおばさんだ。
優し気に、瞳を擦りながら、目を開けると、俺を見て、そっと笑う。
「!!」
陽光に照らされるその姿が、母親たる姿が、神々しさ際立たせて、俺はつい、息を呑んでしまう。
何だか、聖母という姿に見えてしまう。
「……おや?大和ちゃん。おはよう。……早いね。」
「!あ、お、おはようございます。」
自分がそういう姿をしているとはいざ知れず、エルザおばさんは、俺がやけに早起きしたと気付いてか、朝の挨拶をしてくる。
俺は、挨拶を返す。
「!……あれま。大和ちゃん。どうしたんだい。顔が真っ赤だよ。」
「へっ?!」
だが、自分の姿は気付かないくせに、俺の姿が変なことには気付く。
少し心配して、言ってきたなら、そっと寄って来る。
いきなりのことに、俺は息を呑んでしまう。
「!……あんた。悪い夢でも見たのかい?」
「!!うっ……。悪い……といえばいいのか、どうか、分からないけど。変な夢なら、見た……かも?」
近寄って、俺の様子を見たなら、一遍、少し不安そうに聞いて来る。
まるで、本当に母親のようだ。
俺は、はっきりしない感じで、さっきまで見ていた夢のことを言う。
「ふぇ?!」
俺は、いきなり抱き締められる。
「むぐぅ?!」
さらに、顔は胸に埋められる。
思わぬ行為もあったが、その行為もそうだが、感じる母親らしい香りに、つい顔を赤くしてしまう。
それを知らず、いや、気にせずエルザおばさんは、抱き締めた上に、頭を撫でてくる。
「~~~~!!」
「よしよし。怖かったんだろうね。」
安心させるために、慈悲深い言葉を掛けてきた。
俺は、沸騰しそうなほど、顔を赤くする。
「~~~~ぷはぁっ!」
やがて、抱擁から解放されると、俺は強く息を吐き。
そんな俺を、にっこりと笑顔で、エルザおばさんは迎える。
「大丈夫だね!」
「……はい。」
もう、大丈夫だと察して、言った。
俺は、……頷くものの、余計心臓を跳ねさせてしまうことになる。
「……。」
やがて陽が高くなったなら、子どもたちも、皆も起きて。
いつもの騒乱がまた始まる。
何度もあったからか、慣れてはきたものの、今日はだが、今朝の一幕があり、緊張があり。
朝の挨拶も、少し上の空だ。
「あれぇ?大和ちゃんどうしたの?顔赤いよー?」
「……ん。アビー……。ううん。大丈夫。何ともない。」
「ふへぇ。ここ最近、変だー……。」
「……。」
なぜかこんな時は鋭いアビー、言ってくるが、問題はないと。
あんまり、言いたくはなく。
何せ、エルザおばさんに、らしくなく抱き締められたのだから。
朝の騒乱が終わり、一時の平和が訪れる。
その頃には、自分の胸の高鳴りも落ち着いていて。一息つく。




