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仕事ってなんだろう


入社3日目の朝。昨日は夜遅く、朝早かった兄貴とは顔を合わせていない。


「なーお、くんっ!」


「…はい?」


朝から明るい塚本部長に声をかけられた。


「俺今から天界行くけど一緒行く?」


「…天界、ですか?」


どこだろう。聞いたことない。


「あっはは。CEOのところだよ!重役フロアが天界、一般フロアが下界!俺が勝手に言ってるだけだけどなー!」


…。そんな呼び名があるのか。


「いえ、プライベートと分けておりますので…」


仕事の用事では無く、ただ兄貴に会いに行こうと誘われているのであれば、それは血縁乱用だ。


「直くんは真面目だなー。ハハハ!」


「…。」


なんかモヤモヤが段々とイライラに変わってきた…。


真面目で何が悪い!


「印鑑もらうだけだからなー。ついでにベラベラ喋って帰るだけだよ!」


…なんかフランク過ぎないか。


「部長ー!直くん困ってるから!早く行って下さーい!」


先輩社員が塚本部長に言う。

…やっぱり…なんかフランクだな。


「はいよー!じゃあ直くんはまた今度ね!」


…また誘われるのか。



「直くんも正直にいいなよー!本田さんと離れたくないって!あっはっは!」


…今度はこの先輩社員にイジられるのか。


「え!直くん本当に!?」


…百子まで…。そんなキラキラした目で見ないで欲しい。


「あ~もう!朝から面白いわー!いじりがいがあるね!新入社員は!」


周りの先輩社員は歓迎会からずっとこの調子だ。


…仕事って、なんだろう。




✽✽


「なーお、くん!」


塚本部長が戻って来た。意外と速い。


「CEOの所に遊びに行ったらさー、来客中で、会えなかったわー!残念!」


「…はぁ。」


遊びにって…ここは会社で、今は仕事中では?

もう午前中から疲れたな。


「結局印鑑貰えず秘書室長に預けて来たからさー、後で一緒に取りに行こう!」


…結局それか。秘書室長か。兄貴秘書とかいるんだな。当たり前かCEOだし。そういえば父親も社長だったから朝、送迎が来てたな。兄貴はずっと平社員のときから生活変わらずだったから、感覚が湧かなかった。電車で、通ってんのかな?CEOが?


ふと、思う。俺は外での兄貴のことを何も知らない。

というより、今思えば兄貴の事をほとんど知らない。

気の利くおせっかい。悟りを開いてる。…これくらいだ。

弟として、というより俺は人間として何かが足りないのかもしれない。



✽✽


午前の仕事が終わり、昼休み。


最初は固まって食べてた他の新入社員も外に出たり、自由に過ごしている。


俺は百子と共に社食だけど。


「直くん、昨日お兄さんにあって、車で家まで送ってもらったの!お礼を伝えてもらえる?」


「え?」


兄貴に会った?送る?


「お仕事が終わって、エレベーターに乗ったら、お兄さんが乗ってたのよ!びっくり!」


…かわいい。身振り手振り、表情にまで出す百子がかわいい。…そうじゃなくて、兄貴と鉢合わせたんだ。


「そしたら、これから会食で、車で行くから送るよって!お兄さんと運転手さんと秘書さんが乗っててすっごく緊張したんだけど、お兄さんは相変わらず優しかった!」


社長だった父親もそんな感じで夜家に帰って来ていたと思い出す。兄貴はいつも〝仕事で遅くなる〟しか言わないから知らなかった。車が家に乗り入れた事もないし。なんでしないんだろ。


モヤモヤがまた復活する。いつもは聞き流す百子の兄貴への褒め言葉も今は嫌だ。


「優しい所は直くん似だね!」


「…。」


百子は良く俺を褒めてくれる。俺と兄貴は似ても似つかないのに。


「ありがとう百子。百子は優しいな。」


きっと昔の俺なら言えないセリフだろう。少しは俺も成長したと思いたい。


「!直くんったら〜。」


照れて赤くなる百子がかわいい。この可愛くて仕方の無い存在を誰にも取られたくない。


「…昨日、外回りどうだった?高田さんと。」


高田さんは百子を狙っているのは知っている。だから二人で外に行ったんだろう。高田さんとの間に何もないことを望む。


「あ、そうそう!すっっごく!!楽しかった!!」


「…そう。」


力説された。百子が楽しかったなら…いいんだけど。

…いや、良くはないんだけど。


「飲み物ご馳走してもらった!美味しかった!!」


「…あ、そう。」


…やられた。食べ物で百子を釣られてしまった。


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