歓迎会②
「つーことで、っと!」
俺と百子のことを認めてくれた塚本部長が立ち上がる。
「おーい、みんなー!直くんと隣にいる本田ちゃんは恋人同士だから、みんなそのつもりで!可愛がってやろー!」
塚本部長が全体に聞こえるように言う。
驚いた。いいのだろうか?
「こういうのはな、後になればなるほど言いにくい。先にサラッと何事もなく堂々と言ったほうが反感も買いにくいし、受け入れてもらいやすい。」
なるほど。塚本部長は俺達に気を使って言ってくれたんだ。会社で過ごしやすいように…優しいな。
「変な事をしてる訳でもなんでも無いんだから、堂々としとけ。自分の周りにはそうしてちゃんと受け入れてくれる良い人しかいないと信じる。環境は自己責任!その未来は自分で作る!分かったか、新人!」
塚本部長はかっこいい。部長クラスまで行くとここまでの器になれるのか…
「あっはは。全部CEOの受け売りだ!人生ノリでしか生きてない俺がこんな事思いつくわけもないわ!」
…。
俺の兄貴は偉大だ。
こうして今も兄貴と関わった人から俺は救われている。
間接的にも、俺はいつも兄貴に助けられる。
そして、皆が俺と百子を祝福してくれた。(イジられたという方が正しいか…)
お酒が入ってるのもあるんだろうけど。
…入社一日目、家だと近い距離にいたと思っていた兄が物凄く遠い存在だったと知る。
落ち込む暇もなく、矢継ぎ早に〝CEOの弟〟として話しかけられた。それには好意も敵意もあって…
俺はこれから、ここで頑張らないといけないのに。
出鼻を挫かれた気分だ。
〝未来は自分で作る〟か。兄貴らしい。
家で兄貴に直接聞いてたら、多分こんな気持ちになってない。兄貴が知らない人のようで。
今の俺は…この先輩社員達から見て、子供だ。
百子のお父さんに認められのは…難しいかもしれない。
✽✽✽
「お疲れ様です。」
トイレで高田さんと鉢合わせた。さっきの事もあってなんとなく避けたい…
「入社一日目で色恋沙汰か。良いご身分だな。」
「おっしゃる通りです。申し訳ありません。」
さっきの棘のある言い方は、これが理由か。
「…本田さんって、素直で従順だな。」
なんで百子の話?
「俺が本田さんを手懐けたいな。俺、貰っちゃおうかな。」
「…。」
「彼氏がいたって関係ないね。いい女がいたら奪う。さらわれるのは仕方ないだろ?」
は?奪う?さらう?そんなの…
「困ります。」
この人は先輩、そして兄貴の会社だ。穏便に…
「…勝手に困れば?」
「…。」
敵意剥き出しな言い方に変わる。
(…俺は兄貴みたいに笑ってごまかすなんて出来ない。)
「営業マンはな。そうやって仕事を取るんだよ。…お子ちゃま直くんには難しいかな?」
「…。」
「直くんに何があるの?コネで入ってCEOの弟というブランドを背負って周りにチヤホヤされて…俺から言わせれば直くんは裸の王様だ。」
初対面で、なんでこの人はこんなにも俺に突っかかるんだ…
「おっと!CEOに告げ口する気か?助けてママ〜みたいにな。」
黙って聞いていたが、あまりの言いぐさにグッと手を握りしめる。
「本田さんを屈伏させたら楽しいだろうなー。」
ダメだ。言い返してはいけない。この人は先輩。俺は新人。穏便に、穏便に…
なんとか自分の手を握りしめてやり過ごす。
腸が煮えくり返る。悔しい。俺の百子が汚された気分だ。