一番大切な人
兄貴が後ろにある仏壇に、向きを変える。
「お父さん、お母さん。百子さんです。…若いときのお母さんにそっくりでしょう?やっぱり直くんはお父さん似ですね。」
…。
(は!?)
「わ、私、お母様に似ていますか?」
百子は一変して顔をキラキラとさせて兄貴に聞く。
「うん、大学の入学式の時からずっと思ってたけど。雰囲気とか。」
(そ、そうだっけ?)
駄目だ。動転してしまった。
「ほら、直くん。お父さんとお母さんにちゃんと紹介しないと。」
「えっ。」
兄貴に即され驚く。まさか仏壇の両親に百子を紹介する流れになるとは…。
しかも、兄貴がいる前で?
「兄貴席外してよ。」
恥ずかしいだろ。
✽✽✽
和室に百子と二人になり、仏壇の前に座る。
…なんと言えばいいんだろう。
彼女?…なんか軽々しい気がするし。
恋人?…なんか生々しい気がするし。
うーん。
…百子のキラキラとした視線が痛い。
(…うん。これだな。)
「お父さん、お母さん。本田百子さんです。…俺の一番大切な人です。」
…やばい。言ってて恥ずかしくなって、続く言葉が出てこない。
「これからも宜しく…。」
手早く切り上げてしまった。
百子の方を見ると、嬉しそうな、泣き出しそうなそんな顔をしていた。
「直くん、ありがとう。お兄さんにも、お父さんとお母さんにも紹介してくれて。」
「いや…」
「嬉しい…。私、直くんの一番になれた。」
…。
「嬉しい…。」
色々と今日の反省点は山ほどあるけど、百子が喜んでくれたなら良かった。俺も…嬉しい。
「私も、直くんのお父さんとお母さんに挨拶していい?」
「もちろん。してくれるなら。」
百子が仏壇の前に座る。
「お父様、お母様。本田百子と申します。直くんを産んで頂きありがとうございました。」
…。
「直くんはとっても優しくて、かっこよくて、まさにこの地球の神秘です。」
……。
「私も、いつか…直くんにそっくりなかわいい子供が欲しいです!」
(!!)
「も、百子。」
流石に止めないとどんどん度肝を抜かれていく。
「えっ!?まだ肝心なこと言ってない!」
「あ、ごめん。」
まだ何かあったのか…。
「直くんを必ず幸せにします!…ですので、宜しくお願いします!」
(!!!)
「直くん、終わりました!」
百子はすっきりとした顔をして俺に向き直る。
「…逆じゃないか?」
「え?何が?」
「幸せにするって。俺のセリフだろ?」
「え?だってもう私幸せだよ?」
(あー、もう!)
――ギュッ
…目の前の百子を抱きしめる。百子は欲がない。もっと我儘言ってほしいのに。
この俺の腕の中にいる百子が愛しくて仕方ない。
〝だってもう私幸せだよ〟…それは、俺のセリフだ。
百子がいる。それだけで、俺は幸せだ。
「かわいい。…今日ずっと言おうと思ってた。」
…言えた。意外と思っていることをサラッと言えば言える。〝よし、言おう〟と身構えるから恥ずかしくなるんだ。
百子を見ると顔を真っ赤にしている。
「かわいい」
…早く言えば良かった。恥ずかしいとか、俺はいつも自分の感情を優先していた。
いつだって、一番大切なものは百子だ。
〝ハワイかモルディブに〟〝憧れがありまして〟
必ず実現させるから。楽しみに待っててほしい。
〝いつか…直くんにそっくりなかわいい子供が欲しいです!〟
これは…流石にびっくりしたけど、もし、もしもその機会が来たら…俺は百子にそっくりな子供の方がいい。
きっと、とびきりかわいい。
…。
――これまでも、これからも、俺は幸せだ。
【第2.5章、完】
サラッと終わらせる予定が長くなってしまいました(^_^;)
そして、ここに来てようやく、単発番外編の〝直くんの好きなもの〟の回答を直之氏に頂きました(笑)
そして、ももちゃんはブレません。芯の強い子ですね。
第一章〝成長と進展と〟から、ももちゃんの夢は変わっていないようです。
楽しんで頂けましたら幸いです。ありがとうございました!