感謝しかない
和室に着き兄貴の前に百子と座る。
「あっ!!お兄さん!ケーキをお持ちしました!」
忘れていたんだろうと思わせるテンションで百子が兄貴にケーキを差し出す。
「あ、ご丁寧にどうもありがとう。気を使わせてしまったね。」
「いいえ…」
…。
兄貴はどう思ったのかな。ここは俺が再度百子との関係を切り出すべきか…。
「ごめんね、ももちゃん。知らなくて、驚いてしまって。」
話だそうとしたら、兄貴に先を越される。
「い、いえ。こちらこそ突然で、驚かせてしまいまして。」
明らかに百子は動転している。自分の段取りの悪さに百子を巻き込んでしまった…。
「ごめん。兄貴に前もって言ってたら良かったんだけど…」
うん、本当にそうしたら良かった。反省してる。
「いや…こっちこそ、全然気づかなくて。いつからそういう関係だったの?」
「高1。」
厳密に言えば。
「じゃあもう3年近く…。」
兄貴は何やら落ち込んでいる。
「半端な気持ちじゃないから。」
大事な事を伝えておく。
もし兄貴が親(親代りだけど)として、責任を感じているなら、それは検討違いだ。
「そっか…。分かってるよ直くんなら…。だけど、ちゃんと男として責任ある行動をすること。自由と責任は表裏一体だから。」
「はい。」
兄貴の言葉はいつも重みがある。
「ももちゃん、あ、もう子供じゃないもんね。百子さん。」
「は、はい!」
兄貴が百子に話しかける。
「直之のこと、これからも宜しくお願いします。」
兄貴が頭を下げる。
「は…はい。」
「…俺は兄として、保護者として、亡くなった両親から直之を預かった気持ちでいたんだけど、理想とは真逆で…仕事や下の弟にばかり手をかけて、直之に何もしてあげる事が出来なかった頼りない保護者です。」
…兄貴そんな事を思っていたのか。
「だから、百子さんが直之のそばにいてくれて良かった。ありがとう。」
「は…はい。」
「二人が大学生なのを頭では理解してたけど、なんとなく感覚がずっと小学4年生のままで止まってたから…もう、そんな歳なんだなぁって今も驚いてる。」
「…流石に小4はないだろう。」
俺もう18歳なんだけど。
「そうだね。大きくなったよね。…直之が両親を亡くして、きっと一番寂しい時に俺は仕事ばかりしていて、側にいる事が出来なかったけど、変わりにももちゃんがいてくれたんだね。」
…確かに、今だから分かる。
小4で百子と同じクラスになれたのは両親を亡くした俺が寂しくないようにと、天か、宇宙か、両親からかのプレゼントだったに違いない。
「本当に感謝しかないよ。百子さん、ありがとう。直之の側にいてくれて、本当にありがとう。」
俺も、百子には感謝しかない。
ずっと変わらず、俺の側にいてくれた。
――俺を好きでいてくれた。