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直くんと呼びます!



「…本田さん?昨日はどうもありがとう。」


百子はバッと音が出そうな勢いで顔をあげる。

目の前には直之が「それじゃ…」と言って去っていく。


あまりの不意打ちに、百子は何一つ言葉が出ない。


直之は教室を出ていく。


少し硬直していた百子は慌ててカバンを持ち直之の後を追う。





階段を下りて、靴を履き替えている直之を見つける。


その行動一つ一つに百子は目を奪われる。


(キレイ…)


涙が出そうだった。




「直くん!もう体調いいの!?」


息を切らした本田さん(だっけ?)が声をかけて来た。


人と関わるのは得意では無い。両親を亡くしてからそれにますます拍車がかかった。


「…。」


掴みかかりそうな勢いの本田さんに圧倒された。

治りかけの失語症は咄嗟には言葉は出ない。


春休みに両親を亡くし失語症で入院したーー。

この事実は学校の先生と、小学校3年までの仲が良かった友達とその父兄しか知らない。知られたくないのだ。


「…うん。じゃ…。」


それだけ言って背を向ける。本田さんはまだ俺について来ようとする。


その時――


「直兄遅い!!」


弟の貴将の声が響く。相変わらず、声が大きい。


弟と登下校するのが俺の仕事だ。お兄ちゃんが弟を心配するのは分かる。コイツは何をしでかすか分からない。

さしずめ俺は見張り役だ。


「もー!アニメに間に合わないじゃん!」


「お兄ちゃんとテレビとゲームは一日二時間って約束してただろ。ゲームの方がしたかったんじゃなかったのか?」


後ろに意識を移す。本田さんはそこにいるけど、もう話しかけて来る様子は無い。

俺は後ろを振り返る事もなく、そのままギャーギャー言う弟と一緒に学校を後にした。





「直くんって弟もいたんだ。」


呆気に取られた百子は直之が見えなくなり、ようやく我に返った。


百子は一人っ子だ。兄弟の多い直之を見て羨ましいと思うと共に、自分は直之の事を何も知らない、と落ち込む。


(直くんがあんなに沢山話してたの初めて聞いた。)



「………あっ!!!」


びっくりするほど大きな声を出してしまった。周りが一斉に百子を見る。


百子は慌てて口元を隠すと、先程の光景を思い出してしまった。


〝直くん!〟

…そう呼んでしまった。

昨日あれからなんとも言えぬ高揚感の元、眠りに落ちるまで「直くん」と言っては頬を赤らめ悶えていた自分を恨んだ。


彼とまともに会話が成立したのはつい先程の事だ。

それを、いきなり…。


百子は顔を青くしたり、赤くしたり、しばらくは悶々としていたようだが、開き直った。


(一度言ってしまえば、10回も100回も同じよね)


これを気に、百子は直之を堂々と直くんと呼ぶようになる。

直くんは呼び名に特に気づいてなさそうです(^_^;)

「あれ?まっいっか。」位のレベルかな〜


そして百ちゃんは意外と楽天的な子です。

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