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不協和音





「で?泣き寝入りですか?」


一部始終を愛梨に報告した。


悲しい…。


「私ってそんなに直くんの隣にいるのおかしい?」


おーいおいおいおい。ウジウジ泣く私に愛梨は優しく声をかけ…


「まあー彼女に見えないんじゃない?」


ない!!


「愛梨!!私は今、本っ当に!傷心なの!!冗談が冗談に聞こえないのよ!笑えないから!」


今は愛梨の毒舌に付き合ってる場合じゃない!


「いや、本当でしょ。」

「!!!」


痛い…ママ…私の心に斧が刺さりました…。


「意地悪じゃなくて、人から信じてもらえないって結果が全てでしょ。」

「…。」


「いきなり分かって貰おうとするんじゃなくて、三井は公言してる訳だから徐々に分かってもらったらいいじゃない。」

「…うん、そうだよね。ありがとう愛梨。」


そう、直くんは言ってくれてる。あの直くんが。


「変われば変わるものね。三井も。」


うん、私の事を大切にしてくれてる。


好きで、好きで、好きで、やっと彼女にしてもらえた。


直くんも私を好きになってくれた。


その事実だけで、強くなれる!!






✽✽✽


「百子?」


授業の時間が違うと帰る時間も違う。

遅い直くんを内緒でずっと待ってた。


「…待ち伏せしてごめんね。一緒に帰りたいなーと思って。」

「うん。」


直くんと手を繋いで帰る。彼女に見えてるかな…


「かなり待った?」


直くんが私を気遣う。大丈夫、私はちゃんと愛されてる。


「ううん…。」

「何かあった?」

「え?」

「元気無いから。」


…そうだった。私は分かりやすかった。


優しく気遣ってくれる直くんに今更ながら罪悪感が湧いてくる。


勿論、直くんと一緒にいたいから待ってた。


だけど、純粋な、100%の理由じゃない。


あの女子達に見せつけようとしてる。


“手を繋いで一緒にいるのは私よ”って。

“彼女に見えるでしょ?”って。

“直くんは私のよ”って…


あー、ダメだ。汚い。利用してる、私。


一番大好きな人を利用してる。




「百子?」


直くんが再度私に声をかける。


直くんにこんな事考えてるの知られたくない!




「…元気だよ?大学が慣れなくて疲れたのかもー。」


大嘘。…直くんに嘘ついた。また、落ち込む。


「…そっか。」


直くんはそれ以上何も聞かない。嘘に気づいてるかは分からないけど、私が言わないことは聞かない。


直くんは無理強いしない。…そこが直くんの優しさだ。


「今度の週末どこか行く?」


直くんが話を変えて誘ってくれる。


嬉しい。直くんから誘って貰えるような関係になれた事を実感する。


「わーい!行こう!」


ちょっと気持ちが浮上する。デートだ!


「どこ行きたい?」


私の行きたい所にいつも合わせてくれる直くん。


…そうだ!


「貴ちゃんの応援に行こうよ!」


直くんの弟の貴ちゃんはもう中学生でラグビー部に入ってる。今度試合で出場するらしい。


「いやだ。」

「えっ!?なんで?」

「大体なんでそんな情報知ってるんだよ…」

「貴ちゃんから教えてもらったよ?」

「…いつの間に連絡先交換したの?」


あれ?悪かったかな?


「前にあった時、貴ちゃんが教えてくれたよ?“スマホ買ってもらったー”って見せてくれて…」

「いつの間に…」


直くんが知らない間に交換したのが悪かったのかな?


「なんでイヤなの?」


話を戻す。


「兄貴が来るから。」


お兄さん!弟思いだもんね!


「お兄さんが来て悪い事があるの?」

「…俺と百子が二人で行ったら勘ぐられるだろ。」


勘ぐられる?


「何を?」

「付き合ってるのか、とか。」


そっか、お兄さんは知らないんだった。


「この際言ったらいいじゃん。」


言う機会が無かっただけで、私も直くんも誰に隠したりしてない。


あ、私のパパはきっと怒るから言えないけど。


「…兄貴には言いたくない。」


…え?


「なんで?」


私のパパみたいにお兄さんは怒ったりしないと思うけど。


「面倒くさいから。」

「お兄さんに言うことって面倒くさい?」


なんかちょっとモヤモヤする…


「百子だって身内に言ってないだろ?」


逆に質問される。身内?


「…ママは知ってるよ?」


と言うより“バレた”が正解だけどね。


「えっ!!??」

「えっ!?」


びっくりしたー。いつも冷静な直くんがかなり驚いてる。レアだ。


「いつから知ってるんだよ…」

「えーっと、高1?」


付き合って浮かれててすぐにバレた。ママに隠し事は出来ない。


「じゃあ、入学式の時って…」


直くんが慌ててらっしゃる。


「知ってたよ?」


どうしたの?


「!なんで言わないんだよ!?」

「…!」


びっくり!直くんの語気が強くて、こんなの始めてで叱られた気分になる…。


「だって、わざわざ直くんに言うことじゃ…」


なんか、怖くなってしどろもどろになる。


「言うことだろ。」


いつもの口調に戻ったけど、これはきっと何か怒ってる。


直くんが怒ってる。私に。


なんか怒らせるようなことした?そもそも話はお兄さんにどうして付き合ってること隠すかであって。


むしろ、怒りたいのはこっちだよ。


なんで彼女に見えないって言われないといけないの?


なんでお兄さんに知られたらいけないの?


なんでママに言っちゃダメだったの!?


…あ、ダメだ。このままじゃ。私直くんに怒っちゃう。


ダメだ。


…ダメだ!!


バッと勢いよく、直くんと繋いでいた手を振りほどく。


「もう、言わないから。」


顔を上げられず、下を向いて吐き捨てるように言う。


あ、ヤバイ。泣きそう。


私が泣いたら、また直くんが自分を責めちゃう…




涙が溜まった目を見られたくなくて、そのまま直くんに背を向けて走り去った―。

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