三井家の変化
「直くん、スーツ似合うね。」
兄が微笑みながら言う。
「本当に、大きくなられまして…」
キヨさん、
「ねーねー!俺はどう!?」
…弟。
この春、俺は大学生に、弟は中学三年になった。もう2年も着てる制服をなぜか着て見せて回る。
「貴ちゃんも似合うよ。かっこいい、かっこいい。」
兄がそれを褒める。親バカならぬ、兄バカ…
(…いや、育ててもらっているのに失礼だ。)
…あれから、兄は父の会社の代表取締役となった。
あの時の兄貴の言葉を思い出す。
〝来年あたりと思ってたけど今なんだなって。〟
兄貴が俺達を育てて、仕事をして、更にそんな事をするために裏で動いていたとは…
やっぱり兄貴は偉大だ。
父の会社は順当に兄貴の会社となった。
――なるべく、叔父さんと穏便に済ませる時期を狙ってたんだよ。
ちゃんと人への気遣いも忘れない。叔父を社長の椅子から下ろす事なく、社長のままに据え置いて、その上に兄貴が経営責任者として立つ。
やはりある程度モメたらしいが…。
兄貴から直接聞いた話では無いが、叔父が社長になって以来、株価は暴落の一途だったらしい。
資産を削ってやり過ごしていたらしいが、そのまま行けば倒産の可能性もあったようだ。
そんな会社の状態を兄は見過ごせなかったんだろう。祖父と父の期待を一身に浴びてきた兄だ。
今までなるべく穏便にと、出る杭にならなかったんだと思う。
兄が経営者になって2年。株価は安定し、利益も出ているようだ。
両親が生きていた頃の兄が言っていた言葉を思い出す。
――押しも押されもされない日本のトップ企業に成長させます。
幼いのに随分としっかりした事を言う優秀な兄だった。
相変わらず、忙しく働いているが…
おかげで家庭の経済も安定したようだ。
以前は夜、俺と貴将が寝静まると兄貴とキヨさんがボソボソと話していた。お金のことだったと思う。
聞こえない声で話すし、俺も勿論聞く耳は立ててないが。
その頃の兄貴は他でも仕事をしていたみたいだし。言わないから聞かないけど…
だけど、兄貴のおかげで俺は新たな目標が出来た。
ちゃんと大学で経済を学んで、兄貴の会社に入る。
兄貴を支えたい。これは昔から変わらない。