直くんの嫉妬
「ももちゃーん!」
「三重野くん!」
…この二人は仲がいい。気も合う。
「ももちゃん昨日のテレビ見た?」
「見た見た!面白かったよねー!」
この盛り上がりに俺の入る隙は無い。
俺と彼女は共通の話題がない。
昨夜のテレビもうちはもっぱら弟がチャンネルを離さない。要は弟の見る番組が流れているだけで、俺に選択権はない。
羨ましいと思う。彼女と話が合う三重野が。
「三井くーん。」
クラスの女子に話しかけられた。滅多に無い状況に驚く。
「これ、先生が三井くんに渡してって頼まれた。はい。」
わざわざプリントを持ってくれたようだ。そこで思い出す。この愛想の無さを改めようと決意したんだった。
いつもなら、無愛想に“どうも”と言って終わらせていた。けど、人付き合いはそれじゃ駄目だ。
「ありがとう。」
目を見て言う。緊張した。
「…三井くん、ヤバイ。本田ちゃんがめっちゃ膨れてる。」
言われて目を向けると、彼女が物凄くほっぺたを膨らましてムッスリとこちらを見ていた…。
「なんか、…怒ってる?」
放課後、手を繋いで一緒に帰る。
慣れてしまえば彼女と手を繋ぐ事が当たり前になる。…人間とは慣れの生き物だ。
彼女は今だにほっぺたを膨らましている。…プクプクと膨らましてムッスリしてる顔がかわいい。
…じゃなくて、怒っているんだろう。…原因は分からない。
「怒って無い。直くんが他の女の子と仲良さそうに話してて“いいなぁ”とか、“私の直くんが!”なんて思ってないから!」
…つまり、俺がクラスの女子と話していた事に怒ってるのか。
やばい。どうしようもなく、かわいい。嬉しい。愛しい。
日に日に彼女への思いが俺の中で大きくなる。
「直くん、失望したでしょ?」
彼女は俺と正反対の解釈をしていたみたいだ。どうしてそうなる。
「“人を物みたいに言ったらダメ”って、直くん仙人みたいな事言ってたのに。
せっかく直くんが色んな人と仲良くしてるのに私はいつも、そんなこと思ってる。
凡人は仙人に近づけない…」
見るからにシューンと落ち込む彼女が目の前にいて、かわいくてかわいくて仕方なくて。つい抱きしめたくなる。
―出来ないけど。
ようやく手を繋ぐ事に慣れた程度の俺に“抱きしめる”はまだハードルが高い。しかもここは道路。公衆の面前だ。
「仙人って。」
なんて例えだ。こんなにも煩悩だらけなのに。
けど、わかった。一つ大事な事が今回わかった。
「俺は嫉妬したよ。」
そう、三重野と喋っているのを見て、俺のついていけない内容に楽しそうに笑ってて。だから三重野が羨ましくて、つい“俺の、”と、思ってしまった。
「“俺の”なんて、人間に使う言葉じゃないし、思ったらいけないのを頭では理解してるけど、とっさに今日思った。」
俺はいつもキレイ事を言って自分の首を絞める。
「百子と楽しそうに、話が出来る三重野が羨ましい。…幻滅した?」
こんなにも心の狭い黒い感情を持ってる俺に。
「直くん、…嬉しい!!」
彼女が飛び上がって喜ぶ。
やはり解釈が正反対のようだ。
「なんで?」
「だって、直くんが嫉妬してくれたんだよ!?あの、直くんが!!」
どの、俺?
「直くんが私の事を“俺の百子”って思ってくれたんだよ!?あの、直くんが!!」
…。なんだか、いたたまれない。
「うふふ。嬉し〜い!!」
…だけど、こうして嬉しそうに喜んでいる彼女を見るともうどうでも良くなってくる。
彼女と付き合って、俺は改めて“自分”という人間を知ることになる。
人に興味が無いと思っていたが、間違いだ。
愛情も喜びも嫉妬も人への優しさも全部彼女に教えてもらった。
彼女への想いが俺は今日も膨らんでいく――。
次から本編を再開します。
息抜きにお付き合い頂きありがとうございました(*^^*)