話しかけて
「直くん、昨日本田百子ちゃんがプリント持ってきてくれたよ。クラスメイトでしょ?」
…?誰だ?
「直くんが丁度寝てた時に来てね。今日会ったら直くんからもお礼を言っておいてね。」
…だから誰か分からない。クラスメイト?
……まぁ学校に行ったら分かるだろうな。
「プリントも記入したから今日持って行ってね。百子ちゃん、心配してくれてたよ。優しい子だね。仲いいの?」
…全く分からない。大体女子に仲が良い人などいないし、この近くにそんな人はいない気がする。
だが、それを兄に言ってもいいものか。
兄は両親を亡くしてふさぎ込んだ俺が学校で楽しく過ごしていることを望んでいるからだ。
「ふつう。」
自分なりに最大限無難な回答を弾き出したつもりだ。
兄はあれから慌てて会社に行った。
俺はワガママな弟の機嫌を取ることもなく、ただ同じ敷地内の幼稚園に通う弟を置いていく事も出来ず一緒に行く。
跡取りで優秀な兄と、人懐っこく要領の良い弟。
自分にはこれといった物が何も無い。ずっと感じている劣等感だ。
「本田百子…ね。」
兄からお礼を伝えるように言われている。
席に付き、探す。
一つ前の席は三重野。その前が……、あぁ。分かった。けどまだ学校に来ていない。後でいいか。
✽✽✽
「キャーッ!遅くなっちゃった!」
昨日あれから「直くん」の言葉になんだか心が踊って全く眠れなかった。結果寝坊するという…
「直くん、今日は来てるかな?」
言ってまた赤面。堂々と「直くん」と呼べる関係になりたい。
始業時間ギリギリ、走って何とか間に合い、慌てて席につく。
✽✽✽
ーー放課後。
(直くんは学校に来ていて、安心した。そして…やっぱり好き。)
百子は自分でも分からないほど、直之が好きなのだ。
(プリントのこと、声かけてくれるかな?それとも、自分から体調のことを聞いてみようか?)
百子は一日中、直之から話しかけてくれるのを待つか、自分から話しかけるかで悩み脳内をグルグルとまわって今に至る。
結局、話しかけて貰いたい!という気持ちが勝ったのと、初日に声をかけて軽く無視されたのを思い出したので百子からは話しかける事はなかった。
直之から話しかけられる事もなく放課後。
直之は帰る準備を始めている。
(また今日も会話が無いのかな。喋ってみたい…)
百子は落ち込む。
もしかしたら、兄が直之に伝えていないのかもしれない。礼を言うほどでは無いと思っているのかもしれない。
ネガティブな感情が百子を襲う。
「帰ろ…」
百子は一人呟き、カバンを持つ。
直くんはきっと話しかけるタイミングを逃してしまったと思う(^_^;)