理想の体型
「直くん、私ダイエットする」
いつも唐突な彼女がまたしても唐突な事を言う。
「私ね、スラっとしたいの」
目は本気そのものだ。きっとまた何かに感化されたのだろう。
「直くんも私がスラッとモデル体型だと、嬉しい?」
「俺は今のままがいいよ」
取り敢えず、質問の意図が分るからこちらも明確な答えを言う。
「えっ!!こんなにムッチリだよ!?」
女子の太い細いの基準はよく分からない。
「直くん、私ね5kgも太ったの……」
「! それはまた……」
何で?いつから?気づかなかった。
「やっぱり今、〝痩せろ!〟って思ったでしょ!」
拳を握りしめて、目をギュと握って俺に訴える本田さん。
(思ってないって! それより……)
「何で太ったの?」
……女子にしてはいけない質問だろうか。5kgは結構大きいと思う。身体は大丈夫だろうか?ストレスか何か……
「……笑わない?」
笑えるような内容なんだろうか?
「それは聞いてみないと分からない」
無責任に確約は出来ない。
「そこは“笑わないよ”って言うところでしょ!」
(そんな決まりがあるのか……)
「実はね、新米を頂いたの」
新米?あー、もうそんな時期か。
「すっごい、美味しかったの」
で? お米を少々食べすぎた所でお菓子などより太らないと思うが……
「気づいたら毎日……杯食べてたの」
物凄く急に小声になった。聞き取れない。
「何杯?」
聞き返す。
「直くん、何杯ご飯食べる?」
何故か逆に質問されてしまった。
「一食一杯?」
少食では無いが、家には弟という大飯食がいる。弟は一食山盛り三杯。実に一日一升食べる。見てるだけで入らなくなるし、うちの食費は大丈夫かと心配になる。
「私、直くんより食べてる……!」
小声だが、聞き取れた。
……なるほど。だけど茶碗というのは物によって大きさが異なる。盛る量も人それぞれだし。つまり、一杯のグラム数に明確な決まりはない。
というか、話がズレてないだろうか。議論はダイエットについてだ。
「見た目わからないから、太ったのが気になったり、身体がキツかったりするなら無理のない程度でダイエットしたら?」
とどのつまり、これだろう。痩せるも太るも本人の自由だ。健康なら。
「直くんは、ナイスバディな私がいいでしょ!?」
呆気に取られた。
(なぜそこに俺が関係するのか……)
気まずい雰囲気のまま、本田さんと別れ帰路につく。
✽✽✽
「ただいま」
「直ー!おかえり!」
「おかえりなさいませ」
弟とキヨさんが出迎える。弟は雑誌を持っている。
「なぁ、直!見てみろよこの体!かっけー!!」
雑誌を開き見せられたその写真には、腹筋が綺麗に割れた筋肉質の男が掲載されていた。
「……」
「憧れるよなー。男って感じ!これだと女子もメロメロだ!俺もこの体になって女子のハートをゲットだぜ!」
「……」
あー、やってしまった。彼女の言っていた事が今になって理解出来る。
貴の話を聞いて、俺も思ってしまった。
〝本田さんも、こんなガッシリした男の方がいいかな〟
彼女の一番伝えたかった事が今になって分かる。
俺も彼女の好みに近づきたい。
「貴、それかせ」
「は?ヤダよ。俺のだもん!」
「もう一回見せろ」
「いっやだよーだ!!」
弟と言い合う。
明日本田さんに謝ろう。そして俺は取り敢えず今日から体を鍛えよう。
彼女の好みは分からないけど……
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直くんは理系男子ではないかと思う今日この頃です(笑)