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直くんとももちゃん、初恋の行方。  作者: 獅月
第一章終了後〜第二章の間の単発番外編
43/133

直くん、「あ~ん」しよう!


俺の彼女はいつも唐突だ。


「ねっ、直くん、私あれしたい。」


日曜の午後。デートで入ったカフェで何の前触れもなく彼女は言う。


何だか嫌な予感を感じつつ、彼女が指差す方向に目を向ける。


そこには若いカップルが食べさせあっている。俗に言う「あーん」だ。


いたたまれない。


これを俺にやれと言うのか。人間には向き不向きがある。俺にとってこれは後者。不向きの方だ。


「ダメ?」


首を傾ける彼女がかわいい。俺はいつも彼女に翻弄される。


そしてつい先日「何かして欲しい事があったら言って。」と言ったのは自分だと思い出す。


「……。……。」


ダメ、では無い。彼女の願いを叶えてあげたいと思う。それに偽りはない。


が、しかしだ。人の目もある。キャラもある。


そう、彼女はきっと俺のキャラに気づいていない。

俺が、こんな人様の真ん中で、イチャイチャするようなキャラに見えるんだろうか。


きっと三重野とかならするだろう、張り切って。けど俺は違う。


「…キャラじゃなくないか?」


そう、正当な主張だ。俺が人前でこんなことをするようなキャラじゃない。その一点を主張する。


「…キャラ変えたら?」


…かわいい。予測出来ない回答をする彼女がかわいい。

ついつい、本当にそうしようかとも思えてくる。


「ちなみに、どっちがしたいんだ?」


あのカップルの。食べさせる側と食べる側。

なるべく、彼女の希望を叶えてあげたい。100歩譲って食べさせる側は…出来るかもしれない。


そうだ、弟だ。弟が風邪をひいた時、確かに食べさせた事があった。あの感覚だ。


「へ?勿論、両方でしょ?」


…駄目だ。返ってきた彼女の返事は俺が100歩譲るレベルではなかった。



完全に固まってしまった。自分が。

彼女の願いを叶えてあげたい気持ちと、恥ずかしさが天秤にかかる。


物凄く揺れている…




「嘘だよ。直くん。ちょっと言ってみただけ。」


…ああ、彼女は引く時は潔い。波のようにスーッと引いていく。


「困らせてごめんね。」


俺はやっぱり重症だ。その波に飲まれて彼女が喜んでくれるなら、それが一番いいと思える。


彼女の波に溺れるんだ。


「いいよ。本田さんが喜ぶんなら、しよう。」


ああ、もう戻れない。彼女のためなら100歩でも1000歩でも譲ってしまえる。


俺は本当にキャラが変わったのかもしれない。



「はい、直くん!あ~ん!!」


しかも俺からか…。男女交際というのは羞恥心の積み重ねのようなものだと思う。


告白だけで一生分の羞恥心を使ったつもりでいたのに。


なんとなくキョロキョロとあたりを見回し意を決して食べる。


「美味しい?直くん。」


緊張と恥ずかしさで味なんかない。だけど…こんなにも嬉しそうにニコニコした本田さんが見れた事が嬉しい。


「うん…」


彼女が喜ぶ事を俺がしてあげれた事が嬉しい。


「じゃあ直くんの番ね!」


言われ本田さんの口の中に食事を入れる。


もぐもぐと口を動かす本田さんがかわいい。


こんな本田さんの姿が見れて嬉しい。羞恥心を乗り越えた先にこんなにも幸せに感じる事が待ち受けている。


なれない恋愛は予想がつかない。



だけど、幸せだ。



【おしまい】

またしても短編です(*^^*)


本編でももちゃんが頑張ってくれたので、今度は直くんに頑張って貰いました!

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