直くん、手を繋ごう!
番外編の単発です(*^^*)
直くんと正式にお付き合いして少し…
満ち足りた毎日で、バラ色。
とっても嬉しい、幸せ。
✽
「本当にそう思ってる?」
友人の愛梨が釘を刺す。
「思ってる、思ってるよ?だって片思いが実ったんだよ?」
そう、世の中には実らない恋もある。だけど、私は実った!
これを幸せと呼ばず、なんと呼ぶ!
「…ならいいけど。」
「釘を刺さないでよ!なんか不安になってきたじゃない!」
愛梨の言葉はいつも私に重い。
✽✽✽
「直くん、お待たせ!」
放課後、直くんと待ち合わせて一緒に帰る。
もう私達はカレカノだ。
一緒にいて、一緒に出かけて、全てが堂々と当たり前に出来る。
並んで横を歩く。
あ~。幸せだな。
付き合う前も、一緒にご飯に行ったりとか、並んで歩く事はあった。だけど、彼氏という気持ちが入るだけでこんなにも満たされるのか、顔のニヤケが止まらない。
「フフフッ」
つい、声に出して噛み締めてしまう。
私は直くんの彼女よ!!
「何?」
私が笑ったことに直くんが質問をする。
(前ならスルーされてたのに。)
私の一挙一動を気にかけてくれるようになった。
「やっぱり、私は幸せだなって思ったの!」
その通り、素直に言う。
「…。」
直くんを見る。あらら、少し照れてらっしゃる。
直くんがこんなにテレ屋とは思わなかった。
付き合ってから気付く変化も嬉しい。
(…もう愛梨ったら、私は幸せ一色よ!)
二人で並んで歩きながらふと前を見ると、仲睦まじいカップルが手を繋いで歩いているのが見えた。
(…。)
私は少し、考える。チラリと直くんの方を見るが全く無表情だ。
「直くん、私、あれやりたい。」
あのカップルを指差す。
「…あれ?」
直くんは分からないようだ。
「直くん、手を繋ごう!」
私は堂々と提案する。
「…やだ。」
まさか却下されるとは思わなかったからびっくりしてしまった。なぜ!?
「え?どうして?」
(私達付き合ってるんだし、手を繋ぐのって当たり前じゃ…)
急に不安になる。愛梨に刺された釘を思い出す。
「…恥ずかしいから。」
ある意味、予測出来た答えがくる。
「私と手を繋ぐ事ってそんなに恥ずかしいこと?」
付き合い始めて直くんとのやり取りを少し学習した。〝少し強めに押す〟という事を覚えた。こうすると、直くんは後手にまわる。
「…いや、そういう意味じゃなくて。」
(ほら、やっぱり。)
私はもうひと押しだと確信する。
「直くん私の事好きなんだよね?」
「…うん。」
消え入りそうな声で直之さくんは答える。
「じゃあ、手を繋ごう。彼氏と彼女が並んで歩くとき手を繋ぐのが一般的よ?」
「…。」
直くんは黙ってしまった。
(直くんが狼狽えてる)
少し罪悪感が芽生える。
(なんだかんだ言って、私と直くんの力関係は直くんが上。私の方が、直くんを好きなんだから仕方ないか…)
「うそうそ。ごめん、直くん我儘言って。帰ろう!」
私はこれ以上直くんを困らせないように、話を終わらせ何事も無かったかのように歩き出す。
――パシッ。
急に手を握られびっくりする。横を向いたら、赤くなって顔を背ける直くんが…
「直くん、無理しなくていいんだよ?」
直くんは優しい。なるべく、私の希望を叶えてくれようとする。だけど、無理をされるのは私の望みとは違う。
「…本田さんが喜ぶなら。」
そう言って、私の手を取り歩き出す直くん。
どうしよう、直くんが愛しすぎる…
「…ありがとう直くん、優しいね。」
手を繋いで歩く。私は心なしかゆっくり歩く。この時間が少しでも長く続いて欲しいから…
「…。」
直くんはさっきからずっと黙ったまま。恥ずかしいんだろうな。
…そんな中で手を繋いでくれた。やっぱり、直くんは優しい。
暖かい…。繋いだ手を見る。…嬉しい。直くんと繋がっている事が嬉しい。
「直くん、好きだよ。」
直くんの優しい所、テレ屋な所、全て、全てが…
愛しい。
「…何かして欲しい事があったら言って。」
直くんが口を開く。
「本田さんが喜ぶ事をしてあげたいと思うから。」
どうしよう。嬉しい。直くんへの愛しさが止まらない…!
「直くんが、私と手を繋いでくれて嬉しい。」
素直に口にする。直くんが本当は恥ずかしいのに私を優先してくれた事が嬉しい。
何故か涙が出そうになる。慌てて私は話を変える。
「直くんの手、ゴツゴツしてて男の人って感じだね。かっこいい。」
初めて、男の人と手を繋いだ。私にはない骨ばった感触にドキドキする。
「…。」
直くんは本格的に照れているようだ。しかし、会話が無いのは寂しい。
「私は太ってるから、プクプクでしょ?ごめんね。」
愛梨を思い出す。愛梨の手はピアノを習っているからか細く長くしなやかだ。
ムニムニとした自分の手が急に恥ずかしくなる。
(手を繋いでって堂々と言える手じゃなかった…)
「…そんなことないよ。」
やっぱり、直くんは優しい。私が傷つく事を言わない。
♢♢♢
俺は本田さんの事をあまり知らない。
本田さんの喜ぶ事をしてあげたいと思うけどそれが何か分からない。
気の利いた言葉も、表現も恥ずかしくて出来ない。我ながら情けないと思う。
だけど、本田さんが前を歩くカップルを羨ましそうに見ていて、恥ずかしいけどやっぱり本田さんの手を取ってしまった。
それだけで喜んでくれる本田さんの方が優しいと思う。
初めて女の人と手を繋いだ。
本田さんの手が柔らかくて、暖かくて、自分にはないそのフワフワとした感触に緊張して、汗ばむ。
本当に情けない。
「私は太ってるから、プクプクでしょ?ごめんね。」
本田さんがそんな事を言う。こっちは感動すらしているのに…
「そんなことないよ。」
これだけしか言えない自分が益々情けなくなってくる。
「本田さんが喜んでくれて、嬉しいと思ってるから…。」
何だか的外れな答えだ。緊張しすぎて頭が回らない。
♢♢♢
ようやく、駅まで辿り着く。二人は逆方向。ここでいつも別れる。
「あっ、ありがとう直くん。手を繋いでくれて。それじゃあ。」
百子が直之に礼をいい手を離そうとする。
「あっ、いや、こちらこそ…」
直之も慌てて手を離す。
「…。」
何とも微妙な空気が流れ出す。先に口を開いたのは百子だった。
「直くん!私の手がもう少しスラッとしたらもう一回手を繋いでくれる!?」
直之はびっくりして目を見開く。まさか百子がそんな事をそこまで気にしていると思わなかったのだ。
「…いや、俺の方こそ。その。」
直之は口ごもる。何を言えば百子の誤解が解けるのか直之には分からない。
「本田さんが俺と手を繋ぐだけで喜んでくれるなら、いつでも…」
必死に考え出してようやく出た言葉だった。
♢♢
〝本田さんが俺と手を繋ぐだけで喜んでくれるなら、いつでも…〟
直くんにムニムニの手を触らせた事を反省してたのに…
〝いつでも〟って言ってくれた。
いつでもって…
嬉しい!!
「じゃあ直くん、また明日ね!」
私は直くんに提案する。
「あ、うん。じゃあまた明日…」
…このサラッとした肯定は気づいていない。直くんは別れの挨拶と思ってる。
「良かった!じゃあまた明日、手を繋ごう!」
してやったり。私はやっぱり策士!
「…あ。」
直くんはどうやら気づいたらしい。
だけどもう約束したもんね。
…直くんが赤くなる。また手を繋ごう!
だーい好き。直くん!
【おしまい】