ついに…
「ふふっ、楽しみだね。ダブルデート!」
放課後、駅までの道のりを本田さんと歩く。
結局ダブルデートする事になった。
「直くん、びっくりした?二人の事。」
「うん、まぁ。まさか山内と松本さんがそんな仲とは…。」
「山内くん、ずっと愛梨の事好きだったんだよ?私よく聞かれてたもん。愛梨の好きな物とかハマってる事とか。」
「…本田さんの好きな物って何?」
特に意味はない。単純に興味だ。本田さんが好きな物、ハマってる事を確かに知りたいと思う。
好きな人の事をもっと知りたいと――。
「私?私は勿論、直くん!」
「いや、そうじゃなくて―、、…!」
俺は本田さんに相当翻弄されている。
思ってもみない回答にびっくりする。本当にサラッと言ってのけるものだから。
「も〜。分かってるって。でも本当にそうなんだもん。この片思いも何年目かな〜。数えるの虚しくなるからやめとこ!」
…あぁ、やっぱり、好きだ。
「あはは。ごめん、直くんを追いつめてる。でも、いつか、いつかは報われるかなーって。10年後でも20年後でも…気長に待ってる!」
言って照れたのか、本田さんは俺に向けていた顔をパッと戻して少し前を歩く。
その後ろ姿が何とも言えなくて、、
つい腕を取ってしまった。
「…直くん?」
振り向いた少し赤らんだ顔の本田さんがかわいい。
「…一人で完結するなよ。俺だって好きだよ。」
色々考えていたのに、カッコよく振る舞おうとか、気の利いた言葉を言おうとか…
けど、今の俺の精一杯だ、これが。
――本田さんに届いて欲しい。
「…直くん罰ゲーム?」
本田さんがキョトンとしてそんな事を言う。
(…確かに俺が言われた時、俺もそう思ったけど!)
急に恥ずかしさが込み上げて来て一気に顔が赤くなる。持ってしまった本田さんの腕を離し、顔を見られないように今度は俺が前を歩く。
「もう言わないから!俺は本田さんみたいに2回も3回も言えない!」
捨て台詞だ。カッコ悪い。
…本田さんは何も言わない。不安になる。怒らせたのかな。
そろりと後ろを振り返る。
そこには、ボロボロと涙を流している本田さんがいて、、
気がついたら、抱きしめていた。
「ッう〜。」
本田さんが泣いている。
「…ごめん。」
「ウッ、な、なんで直くんが、謝るのよー。」
抱きしめる力が、強くなる。
「また、本田さんを泣かせてしまったから。喜ばせたいのに…」
どうしたら本田さんが嬉しいのか、喜ぶのか…俺は全く知らない。好きな人の事なのに…
「ッ!ウッ、うぇッ…ウッ…」
ついに嗚咽を出しながら本格的に泣かしてしまった。
「ウッ…直くん、ホント?」
「…え?」
「ホントに、ホント?嘘じゃない?私、喜んで良い?糠喜びじゃない?」
…俺はこれまで、どれだけ本田さんを傷つけて来たんだろう。ここまで、泣くほど、信じられないほど本田さんの気持ちを踏みにじって来たんだ。
「嘘じゃない。沢山傷つけて…ごめん。…一生、償うから」
「う〜。本当に?私だけ?」
やはり、今までが今まですぎた。そう簡単に信じてはもらえない。
「百子だけ。…それ以上聞くなよ。」
恥ずかしくて、顔を見られないように耳打ちする。俺はもう、一生分の勇気と羞恥を使い果たした。
…本田さんはいい匂いがする。
――俺の脳内を刺激する、クラクラさせる匂いだ。




