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直くん



直之の家が遠ざかり幾分歩幅を緩めた百子。


家が逆方向なのを勘ぐられては困る。焦った百子は走り去るしか出来なかった。


握ったジュースを思い出す。


「優しい雰囲気のお兄さんだったな。」


直之と打ち解ければ、直之もあんな感じなのだろうか。百子はそんな想像しながら、先程の兄との会話を思い出す。


「直くんー…。」


ボッと一気に顔に熱が集まるのが分かった。それこそ、ゆでダコのようだ。


直之の兄は直之の事を“直くん”と呼んでいた。百子は“三井くん”だ。


より親しいその呼び方に妙に憧れ、つい口に出した。


嬉しいような、恥ずかしいような、より親しいような。呼び方一つでこうも違うものか。


百子はドキドキする心を抑えるすべを知らない。


もう一度言う。


「な、おく、ん」


確かめるように、一文字づつ。


なんだか、温かい気持ちになった。





✽✽✽


「直くん、おはよう。具合はどう?」


朝になって、兄が起こしに来た。

両親が亡くなって、イギリスの大学に留学中だった19歳の兄は大学を中退し日本に戻り、父が社長を勤めていた会社で新入社員として働いている。


兄がいなければ、親戚の家に行っていただろう。


それなのに自分は入院したり、風邪をひいたり、兄にはいつも迷惑ばかりかけている。


「だいぶ、いい。」


端的に答える。


「本当?良かった。今日は学校どうする?大事をとってお休みする?」


「ううん。行く。」


これ以上兄に心配はかけられない。


昨日も会社から抜け出し、看病してくれた。夜、会社に戻って仕事をしたんだろう。兄の目の下には薄っすらクマがある。


ベッドから起きて、着替えをする。





「直之坊っちゃん、おはようございます。」


支度をしてリビングに降りると、使用人のキヨが朝食を作りながら声をかける。


「おはようございます。」


初老のキヨさんは母が若い時からこの家に住み込みで働いていて、概ね母の姉代わりのような存在だったそうだ。


母はこの家のひとり娘。父は婿養子だ。


「坊っちゃん、お体はどうですか?朝食召し上がれそうですか?」


「はい、頂きます。」


両親が生きていた頃、30人位はいた使用人は兄から暇を出されたのか、自ら辞めたのかは分からないが今の使用人はキヨ一人だ。


直之は席に付き、朝食を食べる。


「頂きます。」


手を合わせ、礼をする。

両親が亡くなり、味を感じなくなった料理を申し訳無いと感じつつ胃に押し込む。


食べなければ、兄やキヨが心配するからだ。


直之が朝食を食べ終わる頃、階段からドタバタと音と声がする。


兄と、弟だ。


「もう遅刻じゃん!お兄ちゃんのせいだよ!」


「だから、貴ちゃんが何回起こしても起きないからでしょ!」


いつもこの調子だ。


弟の貴将(たかまさ)はこれまでも散々両親に甘えていたが、両親が亡くなってからは今度は兄に、ワガママばかり言っている。


「直くん一人で食べてたの?遅くなってごめんね。」


一人で先に食べていたら兄から謝罪される。

それから兄は急いで席に付き食べ始める。弟もブツブツ言いながら食べ始める。


…家族が揃わず先に食べてしまったのが悪かったのだろうか。

兄に謝らせてしまった事を申し訳なく思う。

直くんはおぼっちゃまですね(^_^;)

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