好きなのかもしれないけど…
「じゃあ直、ももちゃん宜しく!俺今日乗り物全部制覇するつもりで来たから、行ってくる!」
「はぁ!?一人でウロウロさせる訳に行くか!何かあったらどうするんだよ!」
「過保護はお兄ちゃんだけで充分!腹減ったら戻って来るからここにいろ!じゃ!」
「おいっ!!」
貴はもう既に見えないくらいまで走って行った。
なんて自己中なんだ。いや、気を遣ったのか?
「ごめん直くん乗り物一回も乗ってない…。」
本田さんが俺を気遣う。
自覚すると、まずい。心臓が速くなるのが分かる。
気遣ってくれる事が嬉しい。
「そんな事気にしなくていいよ。」
器用な言葉が出ない自分が腹立たしい。
「さっきの事だけど…」
取り敢えず、中途半端だった話を持ち返す。
「すごく歪んだ解釈をしてたと反省しています。」
「…なんで敬語?」
ふふっと本田さんが笑う。あぁ、やっぱり間違いじゃない。
本田さんの一挙一動がかわいい。気づいてしまった。
…これを、恋と…呼ぶのだろうか…?
✽✽✽
季節も深まり冬
「三井…ちょっといいか?」
三重野に呼ばれてついていく。人気のない校舎裏。
このシチュエーションは…殴られんのかな?
なんかしたっけ?
「ごめんな。こんな所まで連れてきて」
謝られる。
ということは、殴られる訳ではなさそうだ。
「いや、いいけど、何?」
「ももちゃんの事だけど…」
あぁ、そうだ。三重野は本田さんの事が好きだったっけ。
「あのさ、三井はさ、その…ももちゃんの事が好きなのか?」
「なんで?」
質問の意図が分からない。
「いや、俺ももちゃんの事が好きなんだけどさ…その…ももちゃんは三井が好きだろうし、三井がももちゃんの事が好きなら二人は両想いで俺の出る幕ないかなーって思ってさ。ハハハ。」
頭を掻きながらしどろもどろに言う。
コイツはきっと優しいんだろう。本田さんと俺の気持ちを優先してるんだ。
「…仮に本田さんが俺を好きだとして、俺も本田さんが好きだったとしても、三重野の気持ちは俺がどうこう言える立場では無いだろ。」
「え…」
「俺が三重野に本田さんを諦めろって言うのも筋違いだし、選ぶのは本田さんだと思う。」
「俺の彼女に!とか思わないのか?」
…。
「本田さんと付き合ってる訳じゃないから」
それはそう。付き合ってる訳では、無い。俺のこの気持ちを恋と言うのかは分からないし、本田さんが言ってくれたくらいの好きでは無いような気もする。
俺は今、自分の気持ちが分からなくて感情を持て余している状態だ。
「そっか。俺、大学は医学部に進む予定だから、大学行ったらももちゃんも医学部に行かない限りキャンパスが違うから接点が無いんだ。
だから修学旅行のとき、ももちゃんと思い出を作りたくて、自由行動の時、誘おうと思ってる。
もし三井とももちゃんがお互い好きなら、身を引こうと思ってたんだけど…ありがとう。ももちゃん、誘ってみる。」
三重野は確か医者の息子だ。医学部に行くにはエスカレーターとは言え、高2から受験勉強が本格化してくる。
そこで、気づく。
俺は大学に行く予定は無い。
俺のせいで、兄貴は大学をやめた。そのせいで最終学歴は高卒だ。
父の会社はそこそこの一流企業で大卒しか新規採用しない。
平社員でも兄貴が今の会社にいれるのは元社長の息子という事と、現社長の叔父のコネだ。
会社での兄貴への風当たりは強いはずだ。
俺は高校を卒業したら働くつもりだ。兄貴に楽をさせたい。
本田さんは勿論大学に行くだろう。
こうして、住む世界が変わっていく。
(…俺に本田さんは勿体無い。)
大学進学と高卒就職…
俺は兄貴に謝らないといけないことばかりある。
俺のせいで兄貴にこんな劣等感を感じさせているんだろうか…。
以前聞いた言葉をふと思い出す。
〝彼女が口説かれてたら堂々と彼氏として出ていけるし、付き合ってなかったら影で指咥えるくらいしか出来ないかも知れないだろ?〟
―――なんで今、思い出すんだろう…。
三重野くんは良い子です(*^^*)