直くんが甘い!
「…報われないって思わせてる?」
直くんが口を開いた。
(直くんから出た口調は普通だ。…怒ってない?)
「あっ!いやその…言葉のアヤと言いますか、なんというか…」
冷静さを取り戻して急にこれまでの事が恥ずかしくなってきた。
「確かに、そう思われても仕方無いけど…。」
「な、直くんが悪い訳じゃないから!」
ここから先を聞くのが怖い。
「私が勝手に直くんを好きなだけで、今日もこうして会ってくれてるだけで嬉しいし、」
「…。」
「それだけでも充分幸せなのに、欲深いなー私。」
ハハハッっと笑い、なんとかこの場をやり過ごそうとする。
「直くんにイヤな思いさせたよね〜。ごめんごめん!忘れて!ねっ!」
今よりマイナスは何としてでも避けたい!今のこの直くんとの時間を失いたくない。
「…俺、もし誰かと付き合うって考えたら、それは本田さんしかいないと思ってる。」
「………………は?」
たっぷり2秒は固まってしまった。
?どういうこと?
「本田さんの言う好きとは違うかも知れないし、俺もよく…分からないけど、素直に思ってくれてるのは、嬉しいし。」
「…はぁ。」
「考えてない訳じゃないから。本田さんのこと。」
「!!」
よっようやく理解出来ました。直くんは今もこれまでもずっと考えてくれていたのね?
私のことを!!!
ばばば、バンザーイ!!!
「…そんなに喜ぶような事したつもりはないけど。」
「ハッ!私、声に出てた!?」
いつのまに!無意識!?
「…いや、顔に出てた。」
なんと…!恥ずかしい〜。顔に!?
「ははっ…。」
直くんが笑う。笑ったの初めて見た。私に向けて。
「直くんが笑った…。」
ポツリ、という。ー嬉しい。
「ごめん、変な意味じゃなくて、いつも表情が変わるから。」
「そんなに顔に出てた?」
「うん、だから俺…本田さんの事、信頼してる。」
「!?」
どっどうしたの今日の直くん!!なんかなんか変だよ!なんか今、甘いです!甘い!この空間が甘いです!!隊長!
「本田さんが思ってくれるレベルにまで自分がなれるかは分からないけど…」
いいんですか?隊長!本田百子、キュンキュンしすぎて悶え死にしそうです。ヤバイです。
「三重野に同情した訳じゃないから」
…急に現実が戻って来ました。
「えっ?あ、うん。」
「只、来るまで待ってるって人間を無視して待ちぼうけ食らわすのは悪いと思って。」
「…。」
そうだ。直くんはこういう人だ。律儀。
「行くなら行く。行かないなら行かない。ってはっきり言った方がいいと思う。」
「…私は断ったよ?」
「来るまで待ってるって事は伝わってないんだろ?」
「そうなの?」
私言ったよ?
「わざわざ俺を捕まえて言うくらいだから。」
…それは直くんだから、とも思う。
「三重野は来るかも知れないって思ってるんだろ?」
「行った方がいい?」
「それは本田さんの自由だけど…。」
✽✽
小学四年生になる前、両親が事故で亡くなった。
そしてその年のクリスマス、例年通りサンタにプレゼントの手紙を書いて、いない父のに兄貴に見せた。
そしたら、兄貴が困ったように笑って、第二希望まで書いてと言われた。
クリスマス当日、俺の枕元にあったのは第二希望のオモチャで。
第一希望は叶わなかった。
〝サンタさんへ。少しでいいのでお父さんとお母さんを返して下さい。〟
今となっては、兄貴に悪いことしたな。と思う。
けど、当時はもしかしたらって思ってたし、帰って来るかもって思ってた。
期待して帰って来なかった時のあの気持ちはなんとも言えなくて。
せっかく欲しかったオモチャを手にしたのに、兄貴に抱きついて〝これじゃない、いらない〟ってわんわん泣いてしまった。
兄貴が強く俺を抱きしめて慰めてくれたけど、兄貴の方がやるせない気持ちだったに違いない。
俺の第一希望は一生叶わない。
はっきりとそう言われた方が諦めもつく。
もしかしたら来年は、誕生日は…とか…
〝もしかしたら〟に振り回されるのは…
キツイ。
本田さんの真意が伝わってなくて、三重野がもしかしたらと思っているなら、明確に伝えるべきだと思う。それが三重野のためだ。
――それを同情と呼ぶのかも知れないが。
「実は、この後愛梨と遊ぶ約束してて、」
(というより直くん報告会がメインだけど。)
「万が一、三重野くんが待ってるなら悪いから、愛梨と一緒に見に行くようにはしてるの。」
「…そう。ならいいけど。」
「いいの?」
ふと聞き返してしまった。
「どういう意味?」
「あっ!ごめん。なんとなくオウム返ししちゃっただけ。」
…またしても期待してしまった。私は学習しない。
「…。」
――ヤキモチを期待してしまった。