直くん、私に同情して?
「ももちゃ〜ん!」
「三重野くん!?どうしたの?」
最近やたらとうちのクラスに来る。
三重野と呼ばれるこの男はやたら本田さんと仲がいい。
「ももちゃん、水族館のチケットもらったんだ!今度の土曜日一緒に行こう!」
「!!三重野くん!声大きいよ!」
…。
土曜日、本田さんからいつものようにご飯を食べに行く約束をしている。
別に特段何かある訳じゃない。
誘われたのなら、俺の事は気にせず水族館に行ったらいい。
ふと貴の言葉が蘇る。
〝押せ押せなんだぜ?俺の夏美先生が〟
…別に俺はそうは思わない。
✽✽✽
土曜日。ほぼ毎月の恒例となった直くんとのランチ。
…気まずい。
三重野くんから友達だからニックネームで、と〝ももちゃん〟と呼ばれるようになった。
私も三重野くんに下の名前で呼ぶように言われたけど。直くん以外呼びたくない。
直くん以上に近い男の子を作りたくないの。
「本田さん。」
直くんが私を呼ぶ。
直くんが私を苗字で呼ぶのが、私と同じ理由だったらどうしよう…。
「な、何?直くん?」
つとめて明るく言う。そもそも、直くんから話しかけてもらえる数少ない貴重な瞬間だ!
「三重野良かったの?」
「え?」
「水族館、誘われてただろ?今日。」
三重野くんは声が大きい。
「あー、うん。断ったから。」
確かに、断った。先約があるって。
〝夜まで入場出来るから来るまで待ってる〟と言われたけど…。
(まさか、本当にずっと待ってるつもりかな?)
「…。」
直くんはそれからは何も言わない。
むしろ三重野くんとのことを聞いてくれた方が色々弁明出来るのに…。
「直くんは今日も弟さん、いいの?」
結局話していいことが思いつかず、他愛の無いことを尋ねる。
「今日は夕方まで兄貴が弟とその友達を連れて遊びに行ってるから」
「そっかー。お兄さん!小学生の時とか授業参観にも来てたよね!」
よし、この話題で行こう!
「…三重野って小4の時同じクラスだったって。」
「あっ!そうだよ。私と直くんの間の席で。」
話、秒で戻りましたー!!
「三重野が、本田さんのことが好きなんだって。」
「…へ?」
直くんの〝好き〟って発音をこんな風に聞くとは…
「昨日、言われた。」
「え?」
「待ってるって伝えて欲しいって、今日。」
「どういうこと?」
「三重野が今日夜まで待ってるからって、言ってた。」
「…直くん、そんなの自分で言えばって言って聞かなそうなのに…。」
「あんまり必死だったから。」
「同情したの?」
「…。」
何それ。
「…じゃあ、直くんの同情心を突いたら何でも言うこと聞いてくれるの?」
前に直くんが言ってた。人の話を代弁すると重みが変わるって。自分の言葉は自分で言うから相手に伝わるって。
だからまさか、直くんが、〝言ってた〟って代弁した事にびっくりして。しかもそれがまさかの三重野くんの言葉で…
「…じゃあ、私にも同情してよ。」
「…。」
「直くんに報われない片思いをしてる私を同情してよ。」
「…。」
「同情でも何でも良いから、私と付き合ってよ。」
直くんは真面目だ。だから軽い気持ちで人と付き合う事もしないし、だけど律儀だからこうして誘ったら会ってくれる。
こんな言葉は直くん対する侮辱でしかない。
「…。」
きっと、怒ってる。
私は直くんを侮辱した。
直くんは私が直くんを好きなのを知っていて、それでも軽い気持で付き合ったりしないのは私を大切にしてくれているからで…
そこには、誠意がある。
そんな直くんだから、私はたまらなく好きなの。
「…いいじゃん。私、直くんの事好きだから、直くんのためなら何だってするよ?」
私は下を向いて早口で喋る。
「直くんの言うこと何でも聞く、聞き分けのいい彼女になるよ?直くんが何をしても許されるペットだよ。」
きっと直くんは怒ってる。だから目を合わせるのが怖い。
「…もういいから。」
まだ喋ろうとする私を直くんが止める。
ビクリと私の肩が揺れる。
私の口はいつも喋りすぎる。せっかく直くんとこうして二人で、会えるくらいに進展したのに…。
ゼロかマイナスだ。