表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/133

申し訳無さと懐かしさと。



「おかえりなさいませ。」


あのままなんとか家に帰り着くと、キヨさんが出迎えてくれた。


「うわーん!キヨさーん!」


キヨさんに泣きっぱなしの貴将が抱きつく。


「どうなさったのです?ご一緒のお帰りでしたのですね。何かありましたか?」


キヨさんは貴将を抱きしめて優しく問いかける。


「うっうっ!直がー!直がー!」


(どうせ全部俺が悪いんだ。)


「ただいまー。わっ!どうしたの!?」


ちょうど兄貴まで帰って来た。


「うわーん!お兄ちゃーん!!直がー!!」


今度は兄貴に抱きつく。


「俺が悪いんだよ。」


ボソリと一言呟いて階段を駆け上がり部屋に行く。


もう、何もかもがめちゃくちゃだ…。





――ボスッ


勢いよくベッドにダイブする。


(泣きたいのはこっちだ。)


――コンコン


シーツに顔を埋めて目を閉じていると、ノックされた。

相手は分かっている。絶対に兄貴だ。


「直くん?大丈夫?入っていい?」

「ごめん!謝るから、一人にしてよ。」


吐き捨てるように叫ぶ。


「なんで直くんが謝るの?謝らないといけない事したの?」


ここでも、兄貴の口調はどこまでも優しい。


「直くんが今日お友達と遊ぶって言ってたけど、お友達は良かった?」

「俺が出かけなかったらこんな事になって無かった」


ボソっと呟いた言葉は扉の向こうの兄貴には聞こえては無いだろう…。


「直くん、誰も直くんが悪いなんて思ってないよ。ねぇ、お部屋に入れてよ。」

「…うん。」


――カチャ


兄貴が部屋に入って来た。ベッドに横たわる俺に目線を合わせて座る気配がした。俺はベッドにうつ伏せのまま。


「直くん、今日ね、直くんがお友達と遊ぶって聞いてお兄ちゃん嬉しかったんだよ。土日はいつも貴ちゃんの相手をしてもらってて…中々直くん自身がお友達と遊べる機会が無かったから、ずっと気になってたんだ。」

「兄貴だって同じだろ。」

「…お兄ちゃんも人と会うときは会うよ?」

「…嘘つき。」

「ははっ。直くん今日楽しかった?」

「…。」


顔を横に向けると、穏やかに微笑む兄貴と目が合う。


「直くんが楽しい時間が過ごせてたなら、それだけでお兄ちゃんは嬉しいんだよ。」

「…。」


俺の兄貴はどこまでも優しい。

なぜだか、目に涙が溜まってきた。悔しい。


「それと、貴ちゃんを連れて帰ってくれてありがとうね。お友達の家、距離があるから直くんが一緒に帰って来てくれて良かった。…お兄ちゃんも今日はもう仕事終わったから、せっかくだしキヨさんも誘って皆でご飯食べに行こう?」


ほら、兄貴はこういう人だ。


「いいよ。貴がすっげー食うし、兄貴の金なんだから兄貴が好きに使えばいいよ。」


兄貴はいつも自分より〝家族〟だ。


「そんな寂しいこと言わないでよ。皆で食べた方が美味しいよ。ほら、あのレストランに行こう!お父さんとお母さんとよく行ってただろ?」


(…。)


兄貴が言ってるのは家族の外食でよく使っていた老舗レストランだ。

兄貴は俺が物心着いた時から留学してたから、一緒に行った記憶はあまり無い。


思えば両親が亡くなってから、その店には一度も行ってない。

勿論そこそこ良いお店だ。兄貴が俺に気を遣っているのが分かる。


「今日開いてるかな?予約の電話してみるから、直くんも下に降りて来てね。」


そう言って兄貴は穏やかに微笑み、俺の頭を撫でて部屋を出た。


もう、ここで行かないという選択肢は残っていない。

兄貴が自分の時間を割いて、ここまでしてくれた。


俺も気持ちを切り替えないと…




✽✽


下に降りると玄関に三人が揃っていた。


「直〜遅い!置いてくぞ!」


弟は兄貴が慰めたのか外食で機嫌を直したのかいつも通りだ。


「すみません、私まで誘って頂いて〜」

「直くん、準備出来た?行こうか。」


キヨさんも兄貴も何事もなかったかのように振る舞う。




「お兄ちゃん、俺ね。お子様ランチとボロネーゼ。お兄ちゃんはカレーライスがいいよ!ね!」


何故か弟は2つ頼み、更に兄貴の頼む物まで勝手に決めている。


両親と来てた頃の懐かしさを思い出しながら、メニューを見る。


(一番お手頃なやつにしよう。)


「直くんもここに来たらいつもお子様ランチだったよね。お子様ランチに入ってたここのハンバーグ好きでしょ?ハンバーグにする?」


兄貴は必ずこういう時に気を配る人だ。

意識しているのか無意識かは分からないけど。


「…もう俺子供じゃないし。」

「なんで?懐かしいでしょ。ここのハンバーグ。」


そう、最後に来たのは春休みに入る終了式の時だ。“また春休みが終わって新学期を迎えた時に来よう”と話してその間に両親は亡くなった。


以来、来ていない。実に6年ぶりだ。


確かに。ハンバーグには思い入れがある。

使用人がいた家で母が料理をする機会は滅多にない。

そんな母が唯一作れるメニューがハンバーグで、よく作ってくれていた。


俺はそれが好きで、だからハンバーグが好きで、どこに行ってもハンバーグを頼んでいた。


兄貴は俺の気持ちを察したんだろう。結局ハンバーグを注文した。…高いのに。




「美味しかった〜!!」


お子様ランチとボロネーゼを平らげ、更に兄貴のカレーを3分の2以上食べた弟。


「皆お腹いっぱいになった?」


(いや、兄貴殆ど取られて食べて無いじゃん。)


「俺はなったけど…」

「ご馳走さまでございました。」

「お腹いっぱ〜い!お兄ちゃん、ありがとう〜大好き〜!!」


弟はこういう事をサラリと言える。羨ましい。


「どういたしまして。楽しかったね、また来ようね。」


そして兄貴もこういう事をサラリと言える。羨ましい。

どちらも俺には恥ずかしくて言えそうにない。



お腹が満たされ、ここで今日一日を思い返す。


(…本田さんに置いて帰った事を詫びて、返事をしないと。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ