【短編】合コン
こちらの作品はシリーズ小説
脇役女子、奮闘します!〜冷酷な彼にデレて貰いたいんです〜
の第二章 第5話 合コンメンバー、人選入りまーす。の、直ももコンビ側のお話です。
本編リンクです。コピペしてお使い下さい(^o^)
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「直くん、私合コンに誘われちゃった」
唐突な彼女と無事結婚し……
今、変わることなく唐突に口を開く……
――唐突な妻となった
✽
三井直之、兄が経営する会社の経営企画部所属。
入社二年目。まだまだ平社員である。
そんなある日の夕飯時、いつも唐突に話す妻が今日も唐突に話し始めた。
「んもう、直くんったら、聞こえた?」
「あ、いや……」
「だから、私合コンに誘われちゃった」
その言葉に時が止まった。
(……落ち着け)
百子はいつもストレートな問題は出さない。
これはただ単に男女が集う異性交友の場を示す〝合コン〟では無い。
合コンと見せかけて合コンでは無い。なぜなら百子は既婚者。誘われるはずは無い。
俺はピンとくる。
――これは引っ掛け問題だ。
「んもう、直くんったら、悩んでいるから相談したのに」
「……悩む?」
「うん。行くか行かないか」
確定だ。これは俺の考える〝合コン〟では無い。
俺と言う……お、夫、がいるのに、行くか行かないかで悩む事はないだろう。
つまり、この〝合コン〟別の意味がある。
……別の意味。なんだ? 合コン、合コン……
合、コン……。
……合同……コングラチュレーション……合同のお祝い事?
もしくは……合同……コンペ。いや、百子所属の総務課にコンペは無いはず。
合同……コンクール……
「んもう、直くんったら、すぐに答えられないの?」
そう言われても……引っ掛け問題と分かっていながら、答えるわけにはいかない。
答えたら最後、百子と会話が噛み合わなくなる。
「秘書課の戸塚さんがね、ご馳走してくれるって」
(誰だ?)
秘書課に百子の知り合いと呼べる人はいないはず……。
「秘書課の……戸塚さん?」
「そうそう。あの鬼さんの彼女。凄いよねー。良く付き合えるよね。あ、二人だと甘いのかな? わー気になるね! どんな感じかな!?」
話が反れてきた。戻さないと……。
「鬼さん……?」
「あの恐い室長さんだよ!」
瞳を輝かしてそう言ってくる百子がかわいい……じゃなくて。
「……室長?」
分からない。総務部長の事だろうか。
「お兄さんの秘書の〝氷の室長〟!」
「……あ! 黒崎室長!」
ここでようやく答えが合わさる。
(最初から〝秘書室の黒崎室長〟と言ってくれれば……)
「そうそう。その彼女」
「……が、戸塚さん」
「そうそう。……んもう、直くんったら、最初っからそう言ってるのに」
いや、言ってない。そもそも、
「接点あったか?」
秘書室は営業部の塚本部長が〝天界〟と言うほど、一般フロアとはかけ離れている。
「出来た!」
ニッコリと笑う百子がかわいい……のは置いといて。
だから、なんで。
「出来た経緯を……」
「あのね、備品を持って行ったの!」
……そういう事か。
で、なんの話だったか……。あ、そうだ。合コン。
接点を持った秘書室の戸塚さんと言う人に誘われた合コン……。
やはり、引っ掛け問題だった。
戸塚さんにも黒崎室長と言う彼氏がいるなら、やはりこの合コン、異性交友の場では無い。
「合コンって何?」
かと言っても、今の俺にはそれ以外の答えを導き出すのは不可能。
ここは正直に分からない事を伝え、教えてもらおう。
「えっ!? 直くん合コン知らないの!?」
「え……あ、うん……」
物凄い剣幕で百子に驚かれる。俺は無知だ。この社会のこと、俺より百子の方が詳しい。
「あんなに大学時代流行っていたのに……」
(百子がショックを受けている…)
俺はとんでもない事を仕出かしてしまった気持ちでいっぱいになる。
(なんとか、なんとか答えを導き出さなければ……)
「合同……コンクール……?」
だめだ。やはり降参だ。大学時代流行っていたらしい〝合コン〟は何かのコンクールではないだろうか。
今の俺にはこれしか出ない。
頼む。当たってくれ。
「ん? 直くん何言ってるの?」
……首を横に傾ける百子がかわいい……は、置いといて。
「合同コンパだよ!」
明るい声で俺に言う百子がかわいい……は、置いといて。
なんだ。引っ掛け問題じゃなかったのか。
合コンとは俺の考える異性交友の合コンか。
考えていた時間が凄く長く感じられ少々くたびれた。
なんだ。そうか……
……え!?
「ご、合コン!!?」
「そうだよ直くん」
「なんで!?」
「だから戸塚さんに誘われたの」
ここでようやく百子と意思疎通が出来た。そしてこれまでの会話が線で繋がって行く……。
「ちゃんと断ったんだよ? だけど戸塚さんが人数足りなくて助けて欲しいって言われてさ……」
そういう事か。
「直くんに相談しますって返事待ってて貰ってるの」
……なるほど。状況は分かった。分かるまで随分時間がかかったが……。
理解は出来た。
出来たけど……
「大体、なんで百子なんだよ」
若干の怒りと動揺は抑えつつ、尋ねる。
「人が集まらないんだって」
「最初から人が集まらない事を開催するのはマーケティング戦略がなってない」
「……直くん先生の授業だ」
「経営の話をしているんじゃなくて……」
しまった。つい職業病が…。
「今度の金曜日だって」
「もうあと3日……」
今日はもう夜。実質的にはあと2日……。
それで百子に、か。
行ってほしくないし、行かせたくない。
他の男が百子と話すだけで胃が捻れる。
だけどここは日本。
先輩命令に背くか、否か……。
……こんな事が初めてで、どう対処したらいいか分からない。
百子を行かせない為の策を……
〝今の直くんには切り返し術が無いからね〟
結婚前に兄貴に言われた言葉が頭を過ぎる。
悔しい。俺はまだ全然成長出来ていない。
それをまざまざと思い知らされた……。だけど背に腹は替えられない。ここは兄貴に相談して……
「迷惑かけるから戸塚さんが奢ってくれるって!」
……ん?
「そう言われると助けてあげないと私も人としてさ〜」
こ、これは……
「ほら、私が前に言ってたダイニングバーがあるでしょ!?」
あそこか……! ついこの前オープンした百子が好きそうなオシャレな所!
……やられた。これは先輩命令では無い。百子が釣られたんだ……。
「6人からのコースでね、そこにしか入らない限定メニューが入っているのよ」
これだ。
「戸塚さんに〝ももちゃんが助けてくれないと、私……!〟って言われてさー」
状況は分かった。理由も分かった。
「だけど! 私には直くんがいるから断ろうと思うのよ!」
「……俺は、行かせたくない」
合コンは男女が集う、出会いの場。
「行かせたくない」
「直くん……」
だけど、誘ったのは職場の先輩。そして、日が無い。
「実質二日であともう一人を探す困難も分かるし、俺も、先輩から飲みに行くぞと誘われたら断りにくい」
穏便に社会と交わるためには、時に心に引っかかる事に蓋をしなければならないときがある。
「悔しいけど、俺は上司や職場の人と穏便にやり過ごすのも仕事だと思う」
理不尽だろうが、真意と違うとか、言い返したい場面は沢山ある。
だけど、そこで逃げたら……
「行かせたくない。だけど、仕事だから」
言っていて悔しくなる。己の非力さを実感する。
今の俺にこの状況を打破する言葉も案も全く浮かばない。
「……心配だから、何かあったらすぐに電話して欲しい。待ってるから」
「直くん……」
「すぐに駆けつけれるところで……待ってるから……」
「直くん。大丈夫だよ」
神妙な俺と違い、百子が明るい声を出す。
「私は幼稚園からずっと直くん一筋! 美味しいお料理を戸塚さんと食べに行くだけ」
にこにこと俺の好きな明るい笑顔を見せてくれる。
「……百子はモテるから」
「黙々とご飯食べる。直くんが待ってくれてるから!」
百子のその明るい笑顔につられて……
俺も、なんとも言えない、困ったような笑顔になった――
【おしまい】
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