【短編】それから
直くんとももちゃん、結婚後の新婚生活の物語です(*^^*)
寝ても、覚めても、直くんがいる――
ずっと望んでいた未来
夢が叶った!まさにイメージ通り!
私、本田百子、
もとい…
三井百子になりました〜!!
✽✽✽
「百子、百子。朝、おはよう。」
「っふが。あ、直くん!おはよう。」
新婚生活にも慣れてきたこの頃。私の一日は直くんの声から始まるの。うー嬉しいぃ!
「朝起きてから夜眠るまで、寝てる間も直くんとずーーっと一緒。とっても嬉しい。」
「…俺も。」
「うふふ、直くんだーい好き!」
ムギューっと直くんに抱きつき、朝の包容。なんて素晴らしい目覚めなの!
「百子、会社。…仕事があるから。」
「そうだね!」
そして私は直くんの作ってくれた朝ごはんを食べる。体の中から直くん一色!
「いっただきまーす!」
「いただきます。」
身支度を済ませて、朝ごはん。
「直くんのお味噌汁はいつも最高に美味しい!」
「それは良かった。」
直くんは朝はごはん派。私もご飯大好き!そしてパンも大好きなんだけど…私、三井百子、直くんを愛する気持ちは誰にも負けません!
だから私は直くんに合わせるの。…うふふ、内助の功ね。
「百子、何?」
「え?」
「なんか笑ってたから。」
あれま。見られてたのね!
「直くんだーい好きって考えてたら嬉しくて笑顔になるのよ。」
「…そう。」
私の毎日はバラ色。毎日幸せ。
✽✽✽
それから直くんと手を繋いで出勤。職場も同じ。部署も同じだと24時間一緒にいられるんだけど…。三井百子、そこは我慢しますとも…寂しいけど。
「百子、じゃあまた昼に。」
「うん…。また後でね…。」
あぁ、離れがたい。引き離された悲劇のヒロインのよう…。
こういう時は、朝のネクタイをする直くんを思い出すの。
あぁ、浮上浮上。私が浮上してくる。
それから、歯磨きをする直くん。
料理をする直くん、エプロン姿の直くん。ネクタイをしていないシャツ姿の直くんと食器洗い直くん。あと…
「本田ちゃーん!朝から何ニヤついてんだよ?」
直くんと別れて傷心の私の前に営業部の塚本部長が現れた。
「塚本部長、私は今、傷心を癒やすイメトレをしてる最中だったんです。」
「わはは!熱心だな!」
「直くんが新入社員の毒牙にやられていないか…。」
「なになに?面白そうだな。CEOに言うから教え…ふがっ!」
恐ろしい事を言う塚本部長の口を全力で塞ぐ。
「塚本部長!お兄さんに変な事告げ口するの辞めて下さい!」
「ふぁんふぁよ…(なんだよ)」
「いっつもいっつも…私が仕事をしていない人みたいじゃないですか!」
私の評価が下がるような言動は慎んで!嫌われたらどうするのよ!
「CEOはいつも嬉しそうに聞いてるぞ〜。」
私の手を掴んで口から離し、ニタニタ言う塚本部長をじとりと恨めしい目で見る。
…ハッ!いけないわ百子!就業時間は厳守よ。真面目な直くんを見習わないと!
✽
――カタカタ、カタカタ
ちゃーんと机についてお仕事。パソコン入力中。だけどもうダメ。直くんが足りない。お昼まで待てない…。
私は席を立ち、フラフラと禁断症状に導かれながら直くんの待つ経営企画部に足が向く。
(いたー!直くん発見!)
直くんを影から見つめる。中学時代のように。
(ほぅ…いつ見てもステキ。)
直くんを見て禁断症状が治まる。ずっと見ていられるの。直くん…
しっかりと机について、パソコンを入力する直くん。
隣の人に声をかけられ、体を斜めにして近づいて話す直くん。
課長に呼ばれて立ち上がり、側によって課長の話を聞く直くん。
課長の話が終わって、自分の席に着く直くん…と思ったら、通り過ぎて私の目の前に現れる直くん。
ん?あれ…
「百子、仕事中。」
「何故バレた。」
「隠れてると思ってるのは百子だけだから。」
「なんと!」
ラブラブ光線が届いてしまったのね。いけないいけない。
✽
すごすごと自分の総務課に戻る途中、女子トイレから何やら話し声が…
「経営企画課の三井さんってかっこよくない?」
「思った!しかもCEOの弟だって!」
新入社員と思われる女子の声が…。しかも複数。私は廊下から聞き耳を立てる。
「えー!玉の輿じゃん!おまけに次男!すっごい優良物件!」
なんということでしょう。直くんが狙われている!
「でも三井さん指輪してるよね…。」
「まだ23歳でしょ?奪える奪える!」
「いや…どうも結婚してるらしいよ…」
お、分かってくれてる?そうよ、もう直くんは私のものよ!
「えー!!!?」
「嘘!?早すぎない!?」
「社会人二年目ですでに既婚者。」
「なぜ!?デキ婚!?」
想像通りのリアクションありがとう、新入社員達よ。
直くんの奥さんはわ・た・し。
「総務課だって、嫁。」
「え!?どんな人?美人?」
ま!美人だなんて、照れちゃうじゃない。
「話によると、普通の人だって。」
「何それ?」
「平凡ってこと?」
「特徴無し?」
…。なんて言われよう。
――トボトボ…
聞き耳をたてるのを止めて自分の部署に戻る。足取りは重い。
「はぁー。」
やっぱり釣り合ってない?私と直くん。
直くんはモテた。幼稚園から一緒の私は確信を持って言える。直くんはモテた。しかも現在進行形で、モテる!
✽✽
「百子、元気ないけど…」
ランチタイムの社食。直くんが私を気遣う。
「…直くんはいつになったらモテなくなるの?」
「…は?」
幼稚園から今日まで、年上年下関係なくモテまくる直くん。
なんということ。
「…まだそう落ちる年では無いと思うけど。」
「そうだよね…。」
まだ20代。むしろこれから更にモテそうな予感。直くんは例えおじさんになってもダンディでかっこいいんだろうな。
「逆にひ弱と思われたくないから、筋トレ頑張りたい。」
「…そっかぁ。」
儚げ王子様の称号のみならず、屈強男子の座も狙っているのか、直くんは。益々モテるなぁーこれから。
私どうしよう。
「だから、重たい物を運ぶ時は呼んで。」
なんという紳士な回答。
…ん、あれ?
「筋トレして筋肉落とさないようにして、ずっと何でも持てる男になるから百子は心配しないで。」
なんか筋トレの話になってる?…あれ?ところでなんの話してたんだっけ?
「ありがとう直くん!だーい好き!!」
思い出せないけど…ま、いっか!
「真っ昼間から熱いね〜お二人さん!」
「塚本部長!」
真っ昼間からなぜまた登場する!?
「お疲れ様です。」
イヤな顔する私を横に直くんはわざわざ立ち上がって挨拶。
塚本部長相手になんて真面目な!
「いやー、午前中CEOの所に遊びに行ったらさー」
「塚本部長!まさかまた私の事告げ口してないですよね!?」
「も、百子、落ち着いて。」
塚本部長に掴みかかる勢いで立ち上がった私を直くんが心配する。
「わっはっは。相変わらず面白れーな、本田ちゃんは!」
塚本部長は動じず、サラッと返答する…が、私は聞き捨てならない。
「塚本部長、違います。私はもう本田ではありません。さぁ、言って下さい。カモン。」
手をクイクイと動かして続きを促す。次の言葉を予想して私の気分は最高潮!
「はっはーん。飽きねーな、本田ちゃん。この件何回目だよ。…〝み・つ・い・さ・ん〟」
「〜!!」
私はガッツポーズで幸せを噛み締める。
そう、私はもう直くんの奥さんよ!!
「百子…」
「あー、おもしれー。じゃーなー。」
直くんの少し呆れたような照れたような声も、塚本部長が去って行くのも今の私には全く聞こえない。
この響きと余韻に気持ちは天に昇ってる。
ああ、幸せ――。
✽✽
「あ゛。」
仕事も終わって、家に帰り着いて直くんと晩御飯を食べていたら思い出した。
――昼間の新入社員の事を!!
「直くん!」
「!」
私は勢い良くお箸を置き、目の前で驚いている直くんを見据える。
「話を変えないで!」
直くんがモテる話がいつの間にか変わってた。そしてウヤムヤに…。
「…なんの?」
「直くんが新入社員にモテモテの話よ!」
「…そんな話してた?」
してたわよ!昼休みからずっと!
「直くんは鈍感なんだから。いい?分かった?」
「…。」
「もう浮気じゃないのよ。不倫になるの。」
「…。」
しまった。直くんはそんな事をする人じゃないのに、なんか嫌な言い方をしてしまった…。
どうしよう。言った言葉は撤回出来ない…
「百子もモテるから、気をつけてほしい。」
「…ん?」
あれ?なんか話変わった?
「塚本部長とのスキンシップも。」
「直くん…」
もしかしたら、直くんもモヤモヤしてたのかな?
…私と一緒だ。
「なーんだ!やっぱり私達はお似合いカップルじゃない!」
モヤモヤしてた気持ちもどこかに行ってしまった。私達は考える事も同じお似合いカップルだった!
「でも直くん、塚本部長に嫉妬するなんて。」
あの塚本部長よ?あの。
「…。因みにカップルじゃない、…夫婦だから。」
「!」
…きゅーん。直くんにきゅーん。
少し頬を赤らめて、不貞腐れたように、照れ臭そうにボソッと呟いた。
駄目だ。大好きが止まらない。
「やっぱり私達はお似合い夫婦だね!ね、直くん!」
テンション高めに、少し声を大きくして伝える。
「……うん。そうだよ。」
またしても照れ臭そうに直くんが応えてくれる。照れ屋で口数が少ない所は変わらない。…だけど結婚して少し変わった。
前は〝うん〟だけだった言葉も〝そうだよ〟って、直くんの意志が感じられる。
……くぅぅ!嬉しいぃ!!
幸せと喜びを噛み締める。
「うふふ、直くんだーい好き!!」
【おしまい】
ご覧頂きありがとうございました(*^^*)